ほんとに大戦果キャラだったんです信じてくだしあ
「駄目だ!後部ハッチの信号途絶!」
「ハァ!?冗談じゃねえぞ、どうすんだ!?」
輸送機パイロットとおっさんが言い争っている。
ユイが話を聞く限り、どうしようもない状況らしい。
ユイちゃん初陣なんだけど。記念すべきーとか言う性格じゃないけど。
頭の中の男はなんだか余裕がある。
状況も、解決法もわかっているのか。
そう、難しい話ではないのだ。ハッチが壊れたなら、ハッチを壊せばいいのだ。
「ウィリア、おじさん。
HTを起動してください」
「は!?」
「えっ!?」
コンソールから電源のスイッチをON。
オルタネイト型といわれる大きめのボタンで、何かあってOFFにしてしまわないよう、スライドカバーも付いている。
がちん、と押せば、HT「スイジョウ」は起動した。
正面のコンソールの画面に機体のOSが立ち上がる。
傭兵用HTのOSは、ゲリラ的な使用も想定されるために立ち上がりのスピードが優先されており、数秒で起動が完了する。
その分セキュリティやら細かい部分では劣るが、それも傭兵が使うなら十分というものだ。
同時にエンジンが始動。
各部に電力と圧力が供給され、機体の四肢に張りが入る。
武器の装填もすぐに完了した。武器内蔵の電池と、エンジンからの電力供給が合わさり、即座に発射できる状況にあった。
寝そべった状態のまま、ライフルの銃口をハッチへと向ける。
ウィリアとおっさんの機体はまだ起動していない。
輸送機側との接続は切れていたために、誰もユイの行動に気付かなかった。
「ちょっとユイ、起動したってこの状況じゃ」
瞬間、雷光。
レーザーライフルが光の名に相応しい青い閃光を放ち、ハッチを貫いた。
狙った場所は蝶番全体。慣れた操作で撫でるようにレーザーを当て、ハッチはいとも簡単に溶解する。
切り離されたハッチは内外の圧力差によって押し出され、まるでギャグ漫画で飛んでいくかのように視界から消えた。
ルミナス・レーザーライフルは火力を最優先したレーザー銃で、本来ならば弾速と命中精度を重視するレーザー砲の特性とは真逆を行く。
副産物として射程も伸びたが、再装填時間が長い上、電力の消費量にも難がある。
射撃戦には到底向いていないし、なんなら支援砲撃にも適性は薄い。どちらかと言えば数を揃えて押し切るタイプの武器だ。
もちろん、戦術など無関係の至近距離から、しかも内側からの攻撃であれば、輸送機の装甲ごときバターのように切り裂けるわけだが。
三者三様の驚きを左から右に聞き流しながら、ユイは盾を天井の凹凸に押し付け、反動をつけてハッチから飛び出した。
灰色の空。
白いようで暗い雲。
けれどもなんだかんだ言って明るくはある。
そんな空が、眼前に広がった。
スイジョウの姿勢制御は容易だ。駆動系のパワーと機体の重量比で、前者がかなり上回っているからだ。
シミュレーションでもスイジョウの機体データで訓練していて、その辺りの調整はぬかりない。
難なく、機体を裏返す。
スカイダイビングの要領で、うつぶせの姿勢で降下する形にした。
砂と岩山ばかりが広がる地上がよく見える。
計器が検知した高度は約1000メートルを指していた。
自由落下ならば10秒と少しで地表に到達してしまうが、着地用の使い捨てブースターがあれば問題はないと考えた。
何より、着地のことを考えるよりも、だ。
(ゲームだと思えばいいって、よくわからないけど)
頭の中の男が、何も知らないユイの見識を一気に広める。
落下、着地のこと。
地形や気候のこと。
味方と敵の分別のこと。
索敵のことや、攻撃する対象のこと。
武器の使い方。狙い方。
簡単な話だ。敵の攻撃は避けるなり防ぐなりして、こちらの攻撃を当てればいい。
ね、簡単でしょ?
(見える)
男の知識と経験に加え、ユイの視力と判断能力は、砂漠に迷彩もしていない黒い機体と、少し離れた場所に白く輝く機体を把握した。
白いほうは砂に埋もれていたが、なんと言うかその、輝きが目に留まったのだろう。
ユイはそれをHTだとは思わなかったが、頭の中の男はHTだと判断したのだ。
白いほうがHTであるとして、黒い機体の仲間であることは明白だ。
この状況でこちらの味方だというのなら、そもそも輸送機が撃たれる前に何かしら行動しているはずである。
黒い機体が赤く光るその瞬間を、待っていたかのように機体を傾ける。
姿勢が変わったことで空気の流れが変わり、機体の落下コースも変わる。
敵の光線はスイジョウが居た場所を、何事も無く通り抜けて行った。
(埋まってるほうを先に?
わかった)
空気抵抗に外の風。レーザーライフルの照準はブレにブレて全く合わない。
しかし、だ。
コンピュータなどに期待はするな。自動照準なんて簡単に外れる。
そう、そういう感想があったから。
シミュレーターとは大分感触が違うスティックを動かして。
この辺かな、ってところで。
トリガーを引く。
発射された青いレーザーは、まるで吸い込まれるように、白い機体を貫いた。
--
俺の表の機体が。
「マーヴェラス」が。
めっちゃ、めっちゃ、めっちゃくちゃ金かけてカスタマイズした俺の特製HTが。
マーヴェラスが!
俺の相棒が!表の顔が!!
マーヴェラスがあ!奴の一撃で信号が途絶えちまったッ!!
なんでだよ!?隠してあっただろ!?
砂に埋もれてたはずだ!埋めてあったはずだっ!!
表に出ていたのは精々コックピットハッチだけで、それだって砂色のカバーをかけてあった!
どうやって見つけた!?どうして見つかったんだよ!?
「冗談じゃねえぞおッ!!」
どうしてこうなった?
どうしてこうなった??
どうしてこうなったッ!?
「落ち着け俺。
落ち着け!ファルコー・リッジライン!!
冷静になるんだ、計画は順調だった!」
順調だって?
輸送機のハッチを破壊したと思ったら、すぐに輸送機のハッチが吹っ飛んだ。
そしてHTが一機飛び出してきたんだ。
降下中のHTなんぞただの的だ。
お姫様が乗ってる可能性?彼女は囚われの幼女だ、HTを乗り回せるかつったらNOだそんなの。
ど真ん中ぶち抜いて片付けてやると。
そう思ったし、実際に狙撃は完璧だったんだ。
それが。
それが、なんだ。
俺が引き金を引いた瞬間だ。まるでわかっていたかのように、奴は避けた。
避けた?いいや、射線を外した?
反応速度が人間のそれじゃなかった。
あんなの反則だ。俺が引き金を引いた瞬間に避けたんだ。瞬間にじゃない。同時にだ。
俺は、あいつが避けたと認識しながら引き金を引いたんだ!
何が順調だ!おかしいだろそんなのッ!!
おかしいだって?それなら奴の攻撃だってそうだ!
奴は自由落下のさなかに反撃してきたんだ!
空気抵抗で機体はガタガタ、銃身もブレブレ、照準だって相対速度を考えたら合うはずがない。
それなのに、それなのに!
どんな半端ないセンサーを積んでたら、あれだけ隠したマーヴェラスを見つけられる!?
どんな強力なコンピュータを積んでたら、あの状況でマーヴェラスを貫けるんだ!?
「次のチャージは!……ヨシ!」
落下中の奴に向けて再びライフルを向ける。
……よくも俺のマーヴェラスをやってくれたな。お代はてめえの命で支払ってもらうぜ!
「死…………」
……俺のアタマは、やっぱり良くなかったらしい。
狙撃を避けられて、マーヴェラスがぶっ飛ばされて。
どう考えても冷静じゃなかった。混乱したんだ。
そりゃそうだ。あの状況からこの状況。混乱するに決まってるだろ。
いや違うな、混乱する前に判断を間違えていたんだ。
狙撃一発で片付かなかったこと自体、最近じゃそうそうなかったからな。
狙撃手ってのは、撃ったら移動するもんなんだ。場所が割れたら追い詰められるし、反撃もあり得るからな。
そういうさ、セオリーってもんをすっかり忘れちまってたのさ。
俺のすべきことは、迎撃なんかじゃねえ。
奴を殺すことでもねえ。
ハッチが吹っ飛んだ時点で、尻尾撒いて逃げ出すべきだったんだ。
落下中だと思ってた奴は、いつの間にか着地していて。
なんでそんなに速く降りてんだと思ったら、そういや奴はパラシュートを使ってなかった。
そんで、奴のライフルも、こっちを向いてやがるんだよな。
クッソ重くてクッソ厚そうな、どうみても耐熱コーティングされてるであろう盾を構えた状態で、だ。
俺は固まった。
思考も、体も。何もかも。
時間が止まったようにさえ思えた。
逃げ場がない。
レーダーが、輸送機から更に2機のHTが飛び出したことを報せた。
逃げ場がない。
奴だけでも殺すかと思って、盾に隠れてない部分を狙う。
すると奴の盾も動く。
冗談じゃねえ、銃口の先すら見えてるのか、奴は。
飛び出してるライフルを狙うか。
駄目だ、見えてるとしたら照準と同時に避けられる。
……まずい、まずい、まずいぞ。
この状況で何ができる?
新たに降りて来るHTは2機だ。どっちか1機しか落とせねえ。
大体、狙いをつけてる間に奴のライフルにぶっ飛ばされるのがオチだ。
じゃあ、奴を落とせるか?
NOだ。
あの盾には見覚えがある。どっかの企業のクソ硬い盾だ。
なんか奇跡が起きてぶち抜けたとしても、その先に本体の装甲がある。
いくら自慢の「ゼムセル」でも、そこまでの火力は無い。
挑戦してもいいが、失敗したら死ぬ。
無理だ。どうにもならねえ。
後の2機がパラシュートなんか開きやがった。
畜生、余裕ぶっこきやがって。
だが降下の速度は遅くなった。つまり俺に時間ができた。
今から逃げられるか?奴の攻撃を……
そうだ。目的を変えればいい。
別に奴を倒す必要はない。
クソほどぶち殺してえが今じゃない。
マーヴェラスはぶっ飛ばされた。回収する必要はない。
俺だけが、「ノーリャホル」だけが逃げればいい。
なんなら機体は捨ててもいい。金ならあるんだ。どうにでもなる。
それならどうだ?
奴の攻撃を、一発だ。一発だけ避けられれば。
一発避けて、後は全力で逃げる。
……できる、はずだ。
ああ、そうだ、逃げ切れる可能性はある!
いいや高い!高確率だ!!
俺ならできる!
俺は、ファルコー・リッジラインだッ!!
照準を奴のライフルに向け、即座にぶっ放した。
赤い光が奴の盾に吸収され、まあまあな融解を見せる……だろう瞬間を、わざわざ見届けなどしない。
そのまま銃を投げ捨てたらクイックターンだ。180度は駄目だぞ、射線を避けられないからな。
そして推進器を全力で噴かせた。まあまあなGが体にかかり、シートに押し付けられる。
ライフルをぶっ壊せているならそれでヨシ。
十中八九、いや絶対にそうじゃないから逃げるんだ。
実に嬉しいことに、すぐそばに岩陰があるじゃねえか!地形なんぞ全く見てなかったぜ!
ツイてる、俺はツイてるぜえ!
最悪に運の悪い依頼だと思ったが、なんだかんだいいとこツイてるじゃねえか!
問題は奴がいつ撃って来るかだが、これは予想がついている。
さっきもそうだったが、撃たれた直後が一番可能性が高い。
実際誰しも、撃つ瞬間というのが一番の隙になるのだ。
何より奴は間違いなく、歴戦の猛者ってやつだ。そういうセオリーは外さないだろうさ。
つまり!逃げ出した瞬間である今、滅茶苦茶な動きをすれば奴の射撃を避けられる可能性は高い!
うおおおおおおお!めちゃくちゃ軌道ぉぉぉおおお!!
どうだ!?撃ったか!?撃ってきたかッ!?
畜生、わからねえ!奴の武器は青い光だ!光線の残像も結構残るタイプだった!軌道が見えれば撃ったとわかる!
見えるか!?見えねえ!背後か!?避けたのか!?
仕方ねえ時間がないんだ、このまま回避を続けながら逃げるッ!!
3秒、4秒、5秒……!岩陰に入ったッ!!
避け切ったか!?これは避け切っただろ!?
よぉぉぉおし!大勝利だ!命さえありゃいい!!
とにかく帰ってノーリャホルをドックに入れて、あぁ新しい狙撃銃も発注しなきゃならねえな!
全く今回は肝を冷やしたぜ。
お姫様をゲットできなかったのは非常に、ひっじょ~~~に残念だったが、彼女も生きてるんだ、いずれまたチャンスは巡って来るはずさ。
名前も知らぬ運命の女よ、待っててくれよ!
この俺、ファルコー・リッジラインが
ファルコー・リッジラインが最後に見たのは、視界の全てを覆う、どこまでも青い光だった。
--




