帰るぜい!
帰り道はバスに乗ることにした。ちょうど1番暑い時間だからね。私はバス停まで歌いながら歩いた。後ろをたまに振り返りながら。
私は歌が好きだ。なのでいつも歌っている。後ろを振り返るのは、人が来ていないか確認するためだ。歌は上手いので別に恥ずかしい訳ではないのだが、歩道で全力で歌っているとヤバいやつに間違えられそうなので、人が来たらやめることにしている。
厄介なのは曲がり角からピュッと出てくる人。これは避けようがないので、その時は諦めている。というかそもそも、曲がり角から飛び出して来るのって危ないからな。死んでも文句言うなよ。
バス停のベンチに座って熱唱する私。1人でラプソディーのエメラルドソードを歌っていると、反対側の車屋さんの男性がこちらを見ているのに気が付いた。なに見てんだよ。見せもんじゃねぇんだぞ。
そう思って彼を睨んだその時、私の胸の辺りに硬いものが飛んできた。地面に落ちたので拾い上げてみると、それは500円玉だった。
「歌上手いな! ジュースでも買えや!」
向こうの車線で信号待ちをしていた、ベンツを運転中の男性がそう言った。マジ? いいの? 500円玉が飛んできて痛かったけど、さっきのマッサージに比べたら蚊が刺したくらいだったから許してやろう。そしてこの500円はありがたく貰っておこう。
「アザーーース!」
私はちゃんと相手に聞こえるように、元気よくお礼を言った。それにしても太っ腹な人だったなぁ。私だったらジュースを買えって100円渡すだろう。スーパーに行けば絶対に100円以下で買えるんだから。
もしかしてオシャレな飲み物を飲めってことか? じゃないと500円も要らないもんな。よし、せっかくだしオシャレな飲み物を飲もう!
それにしても全然バス来ないな。私はラプソディーのナイトライダー・オブ・ドゥームを歌って過ごした。ギターソロを口笛で吹いていた頃にバスがやってきた。私は即座に乗り込んだ。
確か駅の近くにスターバックスコーヒーがあったはずだ。なので駅の1個手前のバス停で降りよう。私はスマホでスタバのメニューを調べた。
なんだこれ、オシャレ過ぎるだろ。こんなの飲んだら私はオシャレ死ぬんじゃないか? フラペチーノって何? マキアートってなに? オススメをまとめているサイトでも見てみるか。ふむふむ、キャラメルフラペチーノにするか。なに、エクストラホイップと叫べば無料でホイップが増量だと!? エクストラソースでキャラメルソースも増量出来るだと!?
バスを降りた私はスタバへ向かった。スタバは思ったより駅寄りだったので、駅まで行けばよかった。あのバスはどこまで乗っても200円なのだ。
街の景色を見ながらゆっくり歩いていた私は、ある看板が目に入った。剣菱のロゴが看板に使われているのだ。剣菱とは私の好きなおいしい日本酒だ。『うなぎ 割烹』と書いてある。剣菱が出してる店なのかな?
スタバが見えてきた。駅寄りというより、駅より向こうじゃないか。いよいよ私もポンコツだな。駅の前を通ると、マスクもせずに大きな声で演説をしているおじさんがいた。
「日本の政治はクソだ! あいつらのやっていることはダメだ!」
周りに仲間らしき人物が見当たらない。選挙の人ではないのかな? もしそうならこんな言葉遣いはしないか。クソだと思うなら改善案を出しなさいよ。そうやって吠えてるだけのうちは強くなれないぞ、おじさんよ。
おじさんの近くに非常に攻撃的なモニュメントを見つけた。鋭い刃物のようなものが曲線を描き、20本くらい生えている。その下に『禁煙 違反行為には2000円の過料』と書かれていた。かりょうって読むのかな。罰金とは違うのだろうか。法律的には問題がないってことなのかな? 前科がつかないとか。でもそんなんだったら富豪が2000円払って吸いに来るぞ。
左を向くと、こちらにも何か置いてあった。背中に地球のような形の大きな腫瘍をかかえた鳥の像だ。『この像が、多くの方に親しまれ、街のシンボルになることを願っています』と書いてある。その上に説明書きのようなものがあるのだが、ほとんど消えてしまっていて読めなかった。シンボルになるといいね。
さてスタバに着いたわけだが、どうしようか。店内を見ると内装が真っ黒なのだ。こんな壁も天井も黒いオシャレな空間に、私のような田舎者が入っても大丈夫なのだろうか。結界でも張られていて、中に入ると心臓発作で倒れたりしないだろうか。
スマホのメモに遺書を書いた私は、スタバの店内へ足を踏み入れた。これで私は都会人の仲間入りだ。みたか。ざまみろ。
「どうぞー」
カウンターにいる女性がこちらに声をかけてくれた。でもちょっと待ってくれ、そんなスピーディーに買い物出来ないよ。心の準備をさせてくれ。
「ご注文はお決まりですか?」
仕方ない、行ってみるか。女性がメニューを出してくれたが、メニューもやたら黒くてオシャレすぎて直視できない。目が死ぬ。どの道キャラメルフラペチーノと決めているので、メニューを見る必要はないのだ。目を死なせない為にもそうしよう。
「キャラメルフラペチーノで、エ⋯⋯ホイップ」
緊張してエクストラという言葉が出てこなかった。
「ホイップ増量ですね」
エクストラじゃないの!? 普通に増量って言っても通じるのならそう言えばよかったわ。増量って単語は緊張してもド忘れしないから。
「サイズはいかがなさいますか」
しまった、サイズを決めていなかった。確かスタバはS・M・Lじゃないんだよな。それだけは知っている。有名だから。なんだったか⋯⋯
「S・T・G・Vがございます」
親切な店員さんで助かる。ショート、トール、グランデ、ベンティというらしい。短い、背が高い、グランデ⋯⋯? 調べよう。グランデは大きい、ベンティは20という意味だった。20ってなんだよ。んで、ショートとトールの間は無いのか。でもまあ、一生来ないかもしれないから1番大きいのにしよう。
「ブブブブイーーーー!!」
なんとか注文できた。知らないおじさんに貰った500円では足りなかったが、それでも思ったよりは安かった。良いなスタバ。
「お待たせしましたー! こちらにストローございますのでお使いください!」
お、紙みたいな感じのストローなんだね。オシャレだねぇ。ていうか、Vサイズめちゃくちゃデカいんですけど。しかもすごく冷たい。フラペチーノってシェイクみたいなやつなのね。あと、キャラメルソース増量してもらうのも忘れてた。
外に出てマスクを外し、一口飲んでみた。美味い! めちゃウマ! 映画館みたいな味がする! いい買い物をしたなぁ、と思いながら駅へ向かった。いや、ちょっと待てよ? 電車に乗ったら飲めないんじゃないか? もしまた満員電車だったら、飲めずにただただ溶けていくだけになるぞ。
駅に入ると、ほとんど人がいなかった。これなら大丈夫そうだ、と思い私はホームに入った。ちょうどタイミング良く電車が来てくれた。帰り道はとてもスムーズに来れた気がする。
電車の席もガラガラだったので、チビチビ飲みながら帰った。結局家に帰っても飲みきれなかったので、溶かしてジュースにして飲んだ。めちゃくちゃに甘かった。このサイズのキャラメルフラペチーノにはどれだけ砂糖が入っていたのだろうか⋯⋯
そしてこのストロー。最初は紙っぽくてオシャレだなと思っていたが、本当に紙すぎて、もうドロドロのボロボロになってしまった。ペコちゃんの棒付きキャンディの棒みたいにね。このストローは短期決戦向きなんだな。
これで終わりです! 最後までお読みいただきありがとうございました! 感想いただけると嬉しいです! けど、日記なので面白いとか面白くないとかは無いかもですね⋯⋯でもなにか感想いただけると喜びますんで! パンツ履けよ、とかね! 絶対履かんからな! 逆に貴様のを脱がしてやる! グハハハハ!
恥ずかしいから電気消して⋯⋯
消してやらん! 明るいところでパンツを脱いで我らの仲間になるということを証明するのだ!
きゃあーっ! やめてぇー!
良いではないか良いではないか! バッ!
そこには、数万本の舞茸の生えた禍々しいジャガイモがあった。それを見た私は確信した。こやつこそ次世代の救世主となるであろう。さぁ、その禍々しいジャガイモで悪を討つのだ!
でも、私人なんて殺せないです⋯⋯
それは人ではない。かつて人だっただけのものだ。残念だが諦めろ。そいつはもう人の道には戻れん。
そんな⋯⋯! じゃあ仕方ないか! 覚悟ーっ!
数万本の松茸を生やした超禍々しい安納芋に返り討ちにされるあなたであった。おしまい。(作者は舞茸も松茸も嫌いです。キノコだから)
※日記なので当然ですが、完全なノンフィクションです。
最後に、スタバに入る前にメモに書いた遺書を載せておきます。
『しぬかも』