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ルームメイトは多重人格者?  作者: 真嶋 幸
8/10

ジェラシークイーンは誰だ? ②


さて、勇者の如く立ち上がってみたものの…

所詮は、もうすぐ五十路の見た目貧弱なオバチャン。

それに何ができるかなんて、興味を持たない人の方が多いと思うが……


それでもいい!

伝えたいのさ!

この悪あがきを…


てなわけで…早速、翌日から有言実行に動いた。


ふむ、まずは仲間が必要だ。



「田村さん…あの…ぶっちゃけな相談してもいいですか?」


「え?……なになに?」



田村さんは、週2~3日の契約で入っているパートさんです。


現在の勤務体制は、福田さん、私、田村さんの3人体制でシフトを回しています。

田村さんとのシフトは少なく、今日で3回目なのですが、初日に同じ年齢ということが分かり、親近感が湧いたこともあって、直ぐに意気投合。一緒の時は、平和に仲良くさせてもらおうと、思っています。

田村さんの印象としては、私よりも少し小柄でぽっちゃりとしていて、つぶらな瞳。性格は明るく、誰とでも気さくに接する人柄なので、フロア内にも友人が数多くいる印象です。


お昼休憩は、必ず誰かと一緒に行っています。


そんな田村さんでさえ、福田さんの言動に対しては時々、渋い表情を浮かべながら、話していることがあるので、きっと私と同じ気持ちでいるのではないか?と思い、意を決して相談することにしました。



「ディスプレイを変えたくないですか?」


「……… そりゃ変えたいけどさぁ。それやったら、福田さんに怒られるよ?あなたが… 」


「いいですよ。どの道、売上が取れなかったら怒られるんだし…だったらアクション起こして、売上に繋がった方が言い訳になるじゃないですか。」


「そうだけど…勝手にやるのは、まずくない?」


「言ったら、やらせてもらえないですよ?…今日は、福田さんお休みだし、売上が取れなかったら元に戻して帰りましょ。」


「わかった!そこまで言うならやりましょ。」


…………………………………………………………


ピロピロピロリーン!

田村さんが、仲間になった!


…………………………………………………………



「どんな感じにしたいの?」


「まず、今日売りたい商品をメインに置いて、そこに目線が集まる導線を作りたいです。」


「おっけー、じゃあ1番高いマットをメインテーブルに置いちゃお。その傍に、お揃いでサイズ違いのマットを置いて、目を引く色の小物を置いて…様子を見ようか。」


「いいですね。福田さんが雑多に置いた細かい小物達は、一旦ストックしましょ。」



約1時間半かけてディスプレイをしている間にも、時々お客様が足を止めて接客をする場面があり、平日の午前中にしては、珍しく売上に繋がった。


一段落すると、あっという間に昼休憩の時間になっていたので、とりあえず私から休憩を取らせてもらい、戻ると…とんでもないことが起きていた。



「………… 売れたんですか?」


「う、売れちゃったのよ……」



メインテーブルに置いたばかりの、約8万円もするマットの姿が、ポッカリと消えていたのだ。


それどころか、お揃いで置いていたサイズ違いのマットも一式と、グレー系のフェイスタオルと、バスタオルが10セットも売れていた。



「全部…同じお客様だったんですか?」


「そう。外商付きだったから、どっかの社長夫人だったのかもね。値段も見ないで直感で決めてたわ。」


「すごいですね…お金持ちって。これ全部で約30万くらいでしょ?」


「うん。今日の売上目標を軽くクリアしたわ。そんでさ…あのメインのマットをどこに置くのか聞いてみたんだけど、どこだと思う?」


「え〜どこだろう。聞くってことは、リビングじゃないですよね?…… ペットの部屋とか?」


「トイレだってさ。」


「はぁ?」



それは、白地に金糸と銀糸を施した、1畳分くらいの楕円形をした高級マットです。


玄関やリビングに検討した人はいたけど…

トイレですか…



「ははは… どんなトイレか見てみたいわ。」


「本当にね。8千円のトイレマットじゃあるまいし…って、その値段でも高いわ。」


「ええ。私、トイレマットなんか…頑張っても千円までですね。」


「そんなの500円以下で十分よ!だって、すぐに旦那が汚すんだもん。毎日、取り替えないと気持ち悪くって。」



わかる…



「それにしてもお金の価値観って、怖いですね。」


「怖い? 今のもそうだけどさ… 極端な話、お金持ちの衝動買いのおかげで、首の皮一枚つながって生活できてる人がいるんだからさっ、それぞれでいいんじゃない?」



確かに…お金が動かないと、私のような中途半端な派遣社員は、すぐに切られてしまう。


一向に縮まらない格差社会と戦うには…



「ですね。格差を利用させてもらいましょ。」


「そうそう。 あっ、友達が迎えに来たから、食事に行ってきちゃうわね。メインテーブルのディスプレイ、お願いしちゃってもいい?」


「もちろん!行ってらっしゃい。」



百貨店で働いていると、時々とんでもないお金持ちに遭遇することがある。


私の経験から見た、お金持ちの種類を例えると…


①全身ハイブランドで固めたギラギラ、ピカピカした人。

②年配の人に見受けられる、全身オーダーメイドの人。

③一見、地味でお金持ちに見えないが、所作がとても上品で、価値のあるアンティークをワンポイントとして、身につけている人。


私の見解は、以下の通りだ。


①はソコソコ金持ちか、見栄っ張り。


②は紛れもないお金持ちで、だいたい外商が付いている。

よくドラマや映画で見るような、腰巾着さながらの腰の低そうなオッサンがピッタリとくっついて、買い回りをしていることが多い。

この腰巾着の中には、従業員が接客をする際に粗相をしないか、お客様の後ろから目を光らせて圧力をかけ、手際が悪いと虫けらを見るような目で、舌打ちしてくる厄介な奴がいる。


③は単独で行動する人が多いが、私の経験上この中にこそ、桁違いなお金持ちが潜んでいる。

ただ世間話をしていただけなのに、お客様が離れた後、どこからともなく腰巾着が現れて、どの商品に興味を持たれていたのか聞かれたことがあった。 その後も、忍者のような怪しい動きで、お客様を追いかけて行く様子が滑稽だったっけ。



「はぁ… 」



いかん。思わずため息ついちまった。


まぁ…どちらにせよ私とは、住む世界が違う人たちってことよ。

羨ましいと思うことはあるけど…


例えば、今から私が巨万の富を得るには、何かで一攫千金を狙うしかない。正直、そんな危険な賭けをするくらいなら、1回人生をリセットして、お金持ちの家に生まれる賭けをした方が、早いかもしれない。…それくらい、確率が低いということ。


あ〜、魔法使いに転生できたらいいのにな……(なぜ?)


な〜んて、現実逃避を夢見ている場合ではないのだ。

田村さんが昼休憩から戻ってくる前に、ディスプレイを終わらせて、売れた物を発注しとかなきゃ!



「お昼ありがとうございましたぁ。」


「おかえりなさい。ディスプレイ変えてみたけど、さっきみたいなインパクト出ないわ。」


「いいんじゃないの?今日はもう売れてるし…明日のお客さん次第で変えていけば?」


「そうですね。あと…フェイスタオルとバスタオルがごっそり売れちゃったから、発注しようとしたんですけど、思い切って、カラーバリエーションを一新しようかなと。」


「どんな風に?」


「全体的に春らしい色を入れて、柔らかい感じにしたいです。」



取り扱っている高級タオルは、カラーバリエーションが豊富なことでも高く評価されているのに、福田さんが選んだカラーには季節感が感じられず、パッとしないカラー展開の上に、まとまりが無く棚に置かれているため、本来の良さが発揮されていない。

しかも福田さんの畳み方が汚いため、カラーによっては、雑巾に見え兼ねない状況なのだ。



「それね… あたしも考えてた。お葬式みたいな色ばっかり発注するんだよね… あの人。やっちゃおうか?」


「やっちゃいましょ!」



私たちは、売れたマット以外にも客層を考えて、売れそうなマットも一緒に発注し、タオルに関しては、定番の色以外を全て新色になるように発注をした。


久しぶりに忙しく、達成感のある時間が流れた。


夕方の休憩を回した頃には、すっかり客足も引いて、フロア内の従業員もまったりしながら、おしゃべりタイムを楽しんでいる。



「終わった〜!」


「お疲れさん。あっ…ねぇねぇ、聞きたいことあるんだけど。」



時間に余裕のある内に、今日売れた商品の詳細や、お客様の動向などを売上報告書に書き終えると、田村さんが待ってましたとばかりに話しかけてきた。



「何ですか?改まって…怖いなぁ。」


「いやいや全然…でもまぁ、ちょっと聞きづらいけどさ。」


「え〜 何ですか?」


「真嶋さんて…彼氏いるの?」


「彼氏… 」



彼氏はいない…が……



「えっと… 一緒に暮らしている人がいます。」


「あらっ、そ〜なんだ!」



ルームシェアだけどね…… あはは。



「どんな人?」



多重人格者… みたいな人。



「まだ24歳になったばかりで、大学生なんですけどね。しっかりしていて、頼れる人です。」



まぁ…しっかりしてんのは、自称41歳の直さんだけだけど。



「24歳?学生?…… ええ!?どこで知り合ったの?」


「前の職場です。」


「あら〜。真嶋さんて、あたしと同い年にしちゃあ…若く見えると思ったけどさっ… それにしても、学生でしょ?収入とかどうしてんの?」



若く見えるだなんてぇ〜 よく言われるぅ。(プチ自慢)



「大学の通信制を受けていて、普段は色々とアルバイトをしているので、家賃光熱費は折半にしてくれていますよ。…すごい節約家なので、助かっています。」



そう…ドがつく程のケチ。… 節約家なのでね。

本当に… 助かっていますよ。ふふ…



「へぇ〜、若いのにしっかりしてんのね。顔は?芸能人に例えたらどんな感じ?」



田村さん…直くんに興味津々やん。



「そうですねぇ… 誰っていうイメージはないんですけども、アイドルグループにいてもおかしくないくらい、整っていますね。ハーフですし。」



動物に例えたらゴールデンレトリバー、一択だけど。



「ハーフ?絶対にかっこいいじゃん!どこの国との?写真ある?」



ハーフは絶対にかっこいいという決めつけは良くないが、直くんは確かにかっこいい。



「お母さんが日本で、お父さんがタイです。写真はまだちゃんと撮れてなくて、今度見せますね。」


「… タイ?」



その首の傾げ方はいかんな。かっこいいハーフ=欧米人との間の子っていう、概念があるんだな。



「タイの男性を検索すると、めっちゃイケメン多いですよ!」


「へぇ… 若くて、しっかりしていて、イケメンかぁ。ハーフってことは、日本語とタイ語で会話するの?」


「いえいえ、私とは日本語だけです。でも、彼は日本とタイ語以外に英語と中国語も話せるので、すごいなって思います。」



それは、本当に尊敬する。



「へぇ〜 頭いいのね。あのさっ、そんなに歳が離れていてさ、話が合わなかったりしないの?」



直さんは自称41歳だから、昭和の話ができちゃうし…

直くんとなおちゃんは、食べ物系の話で何とかなるし…

ナオは苦手なタイプの女だけど、以外に適切なアドバイスをくれたりして、問題ないかな… 言い方キツイけどね。

あと、厄介なあいつは… たまにしか出てこないから話しかけないようにしている。めんどくさいし…

最後の1人も、たまにしか現れないし…



「彼… 料理が得意なんですよ。だから料理の話をしていることが多いかな… あと、お互いにマッサージしたり。」


「ええ?! 料理にマッサージもしてくれるの?」


「ええ… 」



確かに料理は、抜群に上手い。

オレンジ色した…鶏の臓物煮込みが出てきた時は、びっくりしたけど美味しかった。

マッサージは、とてもありがたいのだが…

私の体が硬すぎて、はたから見たら拷問絵図…



「いいわねぇ… ってか、よく見つけたわね。そんな完璧な彼氏。悪い所ないんじゃない?」



…1日10回くらい、オナラしますよ。

すごい臭いやつ。


食器を洗ってもらっても、汚れが半分ついたまま放置されるし。

部屋を汚して、片づけできないし。

洗濯物をシワシワのまま干されるし。

色々ありますよ。そりゃ…


でも…



「そうですね。あと、とにかく優しいんです。」



彼氏ではなく、ルームメイトですが…



「はぁ… もう、ノロケはいいわ。お腹いっぱいよ。ご馳走さま!… 大事にしなさいよ。」


「… はい。」



いかん。直くんのこと、話しすぎたかも…



「…… 幸せでいいわね。」



ん?



「田村さん?」



あれ?なんか… 空気が重い。



「あたし… 子供ができなかったの。」



…… え?



「30歳前に結婚して、すぐに授かると思っていたら、できなくてね。43歳まで不妊治療して諦めた。」


「あ… あの… 」


「男の子が欲しかったからさ。なんか… いっぺんに体験できている、あなたが羨ましいわ。」



私… 何やってんだ。

調子に乗って、ペラペラと自慢げに話して…



「えっと… 」



何て言ったらいいか、分かんない。

どうしよう……



「ごめん、ごめん。辛気臭いこと言っちゃった。気にしないで! さっ閉店準備しよっ。」



田村さんは、私の気持ちを察したかのように… 私の肩を叩いて切り替えてくれたけど、その表情からは、何とも言えない寂しさが伝わった。


今日の私…色々とやり過ぎたかもしれない。



「はぁ… 」



帰宅途中の満員電車に揺られながら、車窓に映る自分の姿を見て、何度もため息が出る。


幸せって… 何だろうなぁ。


お金持ちが幸せなのか…

パートナーがいることが幸せなのか…

子供がいることが幸せなのか…

仕事が安定していることが幸せなのか…

若くて綺麗でいることが幸せなのか…


もちろん、それらは世間一般的に『幸せ』というカテゴリーに入ることは、間違いないだろう。


その全てを満たしている人もいれば、私のようにどれにも当てはまらない人もいる。


そういう人を世間は勝手に『不幸』というカテゴリーに入れたがって、哀れんで同情することがある。



『あんたって…生きづらそうよね。』



私は…『不幸』なんだろうか…



…いいえ。


確かに…ナオが言ったように…

歳を重ねるごとに、色々なことが思うように行かなくなって、生きづらさを感じることはあるけど、『不幸』だとは思わなかった。


『幸』か『不幸』を決めるのは、自分自身のさじ加減だと思う。だけど、他人のさじ加減は分からない。


『一緒に暮らしている人がいる。』


その言葉を使った途端に、『幸せそうな人』に変わってしまった。パートナーがいる人と、思われたからだ。


そして直くんのことを話すうちに、田村さんの中で…

私は、『とても幸せな人』というカテゴリーに入ってしまった。


人は、『幸せ』というものを目の当たりにすると、自身と比較して辛くなったり、妬ましく思ったり、羨んだりするもの。


もしかしたら、私が調子に乗ったばかりに、田村さんを傷つけてしまったのかもしれない…

折を見て…直くんとは、ルームメイトなんだということをきちんと話そう。


なんか… モヤモヤするなぁ。

直くんにも、今日の出来事を話した方が良いだろうか…



《直くん、今日バイトだよね?何時頃帰ってくる?》


居ても立っても居られなくなって… メールしてしまった。



既読


《9時から夜のバイト、今バイト先で準備してる。朝帰ってくるよ。》



そっか、今夜はナオの出番か… 昨日の夜、歌って踊って回ってたもんね。



《了解! 頑張ってね〜 》



明日の夜にでも、話してみよう。



勇者の如く立ち上がった、アラフィフ女子の奮闘記!

調子に乗った振る舞いで、仲間に傷を負わせたボンクラ勇者は、 無事に…ラスボスに挑むことができるのか?


なんてね。 興味なさそうだよなぁ… はは…



…………………………………………………



一方、新宿2丁目のとあるBARでは…



「マグナさん、入りまーす!」



薄明かりの古民家風な内装には、とても似つかわしくない風情の佇まい…



「いよっ! バケモノ来たぁ〜 !!」


「あ〜ん? 何よっ、バケモノってぇ… 失礼な。」


「バケモノ〜、バケモノ〜!」



ブロンドカラーのロングウィッグに、漆黒のベアトップワンピース。黒いピンヒールを履いた女豹…



「バケモンじゃないわよっ! もうっ…… マグナTokyo、薫子(かおるこ)でぇす。みんな!マグナって、呼んでね。うふふ… 」



眠らない街に舞い降りた、黒衣の天使… 小悪魔ナオのこと。




つづく



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― 新着の感想 ―
[良い点] 幸さんの人間らしさとサバサバした直くんのセリフ [気になる点] 小悪魔ナオが妖艶なところ [一言] 見るのを我慢していました やっぱり面白かったです(о´∀`о) 小悪魔ナオ マグナさんの…
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