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ルームメイトは多重人格者?  作者: 真嶋 幸
6/10

部屋と冷蔵庫とアンディ


さて、アラフィフの再出発を目指して歩き始めた私。


直くんのお陰ですっかり元気になった私は、年甲斐もなく20代に戻ったような乙女気分で、ウキウキウォッチング。


わざとゆっくり歩いては、なんとなぁく腕を組んでみたりして、この時間を満喫したのです。


私のウキウキとは裏腹に、そんな様子を冷静に目を細めて見ている直くんに、気づかない振りをしながら歩いていると、レンタカー屋が見えてきたのですが…



「おおっ…」



受付をする前に、幌付きの軽トラが目に入ってびっくり!



「思った以上に大きいんだね……」


「まぁね。」


「これ、運転するの?」


「しなくてどうするの?」



目を細めて、左の眉頭だけピクっと上がりました。


そうですね…愚問でしたね。

何かめんどくさい雰囲気を醸し出していたので…



「受付しましょうか!」



誤魔化しました。


…さて、これからが引越し本番です。(長い!)

チャチャッと受付を済ませ、アンディを迎えにいざ出発!



「Let's Go!」



発進と共に発せられた、レッツゴーの発音の良さよ。



「ごぉ!」



Goですら、まともに発音できない私。


最寄り駅までの道中、あまり聞き慣れない洋楽を口ずさみながら、直くんは楽しそうに運転している。

バスターミナルの近くに横付けして、アンディが駅から出て来るのを待っていると、直くんのスマホから着信音が聞こえてきた。



「アンディ、もうすぐ着くってよ。」



おっ…どんな人なんだろう…ドキドキ



「アンディ、ここ!」



スマホを片手にアンディらしき人に手を振ると、その人も手を振り返した。


どれどれどれ……?


あら…まぁ

何てことでしょう!



「あの背の高い人?何歳?」


「23歳、俺と同い年でハーフ。187cmだってさ。」



ほぉ〜う。

美形でございます!

そうですね…どんな感じの美形かと言いますと…



〖アポロン〗



でしょうか…


ギリシャ神話に出てくる〖太陽神アポロン〗の様な、彫りの深いお顔立ちに、短髪のパーマネント。

均整の取れた骨格からは、スラリと美しい手足が伸びております。

こんなローカルな駅には似つかわしくない、神々しいオーラを(まと)い、すれ違う全ての人々が魅了され…振り返ってしまう程に…


ただ、気になるところが1つだけあるとすれば、歩き方でしょうか…時々、膝と膝がぶつかるような、オネエ歩きが気になる。



「ごめんなさい…遅くなっちゃったん。」



オネエ…?!



「あ、アンディはゲイだよ。」



アンディの歩き方と言葉尻から、私が何を思ったかを一瞬で察知した、直くんのファインプレーよ。



「いやん…直ちゃんたらっ!」



オネエとゲイの境界線が分からん……が、とりあえず挨拶するか。



「えっと…今日は、手伝いに来てくれてありがとう。真嶋です。よろしくね、アンディ。」


「は〜い。よろしく。」



アンディ…笑顔がめっちゃ可愛いわ。


想像を遥かに超えていたが…アンディが加入したことにより、引越しの不安要素は第1段階、突破と言える。


次の段階は、無事故無違反で進行できるか…



「ねえ、直ちゃん…ぼく、どこに座ったらいいかな?」


「あ………」



早くもプチ問題勃発です!

助手席が1人分しかありませんでした!



「君、アンディの膝の上に乗れる?」


「え?…いいの?」



この『いいの?』には、2通りあります。


①こんなオバチャンが、若いイケメンの膝の上に乗るなんて、そんなオイシイ思いをしてもいいの?


②助手席に、大人が2人座っても違反にならないの?



「見つからなければ、大丈夫じゃない?」


「見つかったら、捕まるんじゃない?」



いきなり違反とか、こんな初っ端からつまずきたくないわ!



「は…………走る!」



どの道、犯罪になりかねないので、とりあえず、私が家まで走って戻ることに……



「ぜえぜえぜえぜえぜえ………」



し…しぬぅ…アラフィフの全力疾走…しぬぅ…



「あ、お疲れ様!…じゃあ始めるよ!」



鬼か!



まず、引越しの段取りとして大切なことから…アパートには駐車場がない為、路上に駐車して荷物を運ばないといけない。なので、1人は軽トラに待機して、様子を見る必要があるということと、とにかくスピーディに事を進めなければいけないのだ。



「重い物から先に運ぶ、冷蔵庫から行くよ。」



おおっと!大物ボス、冷蔵庫からですか?

今日1番の不安要素、男性2人がかりじゃないと到底持ち運べない、厄介なあんちくしょう!


2人がどうやって冷蔵庫を運ぶのか、興味津々な私。



「アンディは冷蔵庫の後方から持ち上げて、後ろ向きで運ぶ。俺は、前方から下を持ち上げて誘導するから。よろしく。」


「わ、私は?」


「君は、適当に軽い物を運び入れて、待機。」


「了解!」



さぁ!本日の一大イベント、お引っ越しの始まりで〜す!


最初の種目は『大技、冷蔵庫運び』なり〜。



タタタ〜ン、タタタ〜ン、タタタタタ〜ン… ズン!タッ、タタタッタッ、タッタッタ〜ァ…………



な〜んて、頭の中でなんとか行進曲を鳴り響かせながら、1人イベントごっこを楽しんでいると…



「せーのっ!……うぉおぉぉっ…」



おっ …若者2人の苦渋のお顔がなんとも麗しい。


眉間にシワを寄せて歯を食いしばった瞬間、こめかみに浮き出た血管が色っぽい…


いかんいかん、見惚れてはいかん。(変態か)

さぁ、私も働かねば……………



「あれっ?」


「ん?…直ちゃんどうしたん?」



軽トラに向かおうとして、後方からの声に振り向くと、直くんが何やら、プラスチック製の細長い物を手にしている。



「あっはは…車輪あったんだわ…これ。」


「プッ…やだ〜ぁ」



私だけ理解できず首を捻っていると、直くんが簡潔に説明してくれた。



「この冷蔵庫は車輪付き、これストッパーね。」


「あらま。」



つまり、ずっと持ち上げて運ばなくても、途中は車輪の動力を借りれば、簡単に運べるという訳ですね。


てなわけで、種目『大技、冷蔵庫運び』は、段差に気を付けながら地味に動かす『冷蔵庫動かし』に格下げいたしましたとさ。



ファンファン…ファンファン…プァァァァ〜ン。



頭の中で残念な音楽を流しながら、衣装ケースやら何やら軽い物をひたすらに運ぶ私。

その傍らで地味に移動していた冷蔵庫も、いよいよ軽トラに乗せられようとしております。


こっこれは!ちゃんと見なければ!!



「アンディ、先に上に乗って!そんで上から引き上げて、俺は下から押し上げるから。」


「OK!」


「せーの!」


「うおおおおぉ─────っ」



ああ…再び、若者2人の美しいお顔が苦渋の表情に…


そして全身からの、みなぎるパワー、ほとばしる汗…汗、汗…

なんと贅沢な光景よ!(変態か!)


いかん!こんな場面を通りすがりの腐女子が目撃したら、さぁ大変! 絶対ネタにされるっ!


死守せねば…



「君、何してんの?ちゃんと運ぼうよ。」



まるで、ゴールキーパーが両手を伸ばしてゴールを死守するように、最大限に高く横飛びしている瞬間を…冷蔵庫を持ち上げて、振り向いた直後の直くんに…見られてしまったようだ。


ダサい…

だがしかし、見渡す限り腐女子はいない。

防衛成功!グッジョブ!



…………………………………………



正午を過ぎた頃、荷物を約3分の2くらい詰め終えたところで、一旦新居へ運び込むことにした。



「私、荷物に紛れ込みます!」


「OK!」



新居へは約2駅分の距離と近く、途中、少し道に迷いはしたが…20分程度で到着。と、ここまではすこぶる順調だった。


到着後は逆再生するように、ひたすら荷物を部屋まで入れて行くを繰り返すだけ。 ここでも難関は、冷蔵庫運びのみとなった。


部屋は2階だがエレベーターがない為、外階段を使って、持ち上げて進まなくてはいけない。結構大変な作業なので、私もおふざけなしで固唾を呑みながら、チアリーダーの如く心で応援をした。


頑張るんだ!冷蔵庫よ…君は10年選手だが、まだまだいける!!(そっち?)


最後の階段を上がったところで、ガッツポーズをしながら部屋に誘導し、無事に設置成功。


今日1番の大仕事が終わった瞬間、みんな脱力して座り込んだ。



ピンポーン~



「ピザ届いたよ〜」



引越しといったら、やっぱり『ピザ』でしょ?

そうでしょ?…でしょ?



「ピザ、いいね!」



いいね!いただきました!…あざーす!


お腹がすいた頃合を見計らって、注文した甲斐があったわ。



…そう、ここまでも…すこぶる順調だったのだが…


食事を終えた後、残りの荷物を取りに行こうと、みんなで立ち上がった時に、車の鍵を片手に…固まっている直くんの姿が目に入ったのだ。



「直くん?…どうしたの?」


「あ…俺の荷物を取りに行かなきゃだったの…忘れてた。」



珍しく顔面蒼白している。

確かに、軽装だなぁとは思ったけど…



「荷物…配送するって言ってなかったっけ?」


「軽トラレンタルするってなったから、やめた。」



聞いてない…

どうするか聞こうとした時 ……



ピンポーン~



予期せぬ訪問客に一同首を捻る。



「はい。どちら様ですか?」


「田中商店…です。ガスの開栓に…ま、参りました。」



14時にガスの開栓予約をしていたことを思い出した。

玄関を開けると、50代後半くらいの小柄でぽっちゃりとした女性の作業員が立っていたので…


あら?……という第一印象だった。


偏見かもしれないが、この人ちゃんと作業できるのかな?…と思ってしまう程に、弱々しい空気を放っている。



「どうぞ、お上がり下さい。」


「す…すいませ…ん。お邪魔いたしま…す。」



何だか、モタモタとしたスローな動作で部屋に入ると、キッチンで業務用の携帯を片手に作業を始めた。


新居は初のプロパンガスなので、分からないことが多かったのだが、まず開栓作業をしている間は立会人が必要であることと、契約書類が諸々あるので、時間を要するとのことだった。


とりあえず、私は残らなければならない。

なので、2人だけで前の家から、荷物を取りに行くことになったのだが…



「やっぱり…先に俺の荷物を取りに行くわ。で…その後、前の家に寄って、荷物を入れて帰ってくる。」



16時半までに、レンタカーを返さないといけないんだけどな……



「間に合うの?」


「分かんない。間に合わなかったら、千円払って12時間に延長すればいいでしょ?」



簡単に言うわね……誰が払うの?



「了解!気をつけてね。」



2人を見送ろうとした時に、バスルームからモニョモニョとした声が聞こえてきたので、何事かと一旦3人でバスルームに向かう。



「あの……あの…すみません。給湯器が…うまく作動し…しない…んです。」



「ええ!!」



突然、予期せぬ不安が勃発致しました。



「お湯…出ないんですか?」


「ええ…あの、申し訳ございま…せん。」



あんだって? ……(プチッ)


今、何月だと思ってんだい? 2月だぞ!!

この寒い時期にお湯が使えないって??

ざけんなよ!


しかも、引越しで汗かいて疲れてんのに…風呂に入れないって!

どういうこったい!!


って…往年のヤクザ映画みたいに啖呵を切ってみたかったが、顔が釣り合わないので、眉間にシワだけ寄せときました。



「困りましたね…みんな疲れてるし、お風呂に入りたいんですけど、どうにかならないですか?」



頑張って、大人の対応を心掛けましたよ。



「そ、そう…ですよね…今、他の作業員に連絡して…みますので…お待ちください…」



第一印象は、意外とよく当たるもの。


この作業員が悪いわけじゃないけど、他の作業員だったらもう少し、スムーズにできていたんじゃないかって思ってしまう。


結局のところ、別の作業員が来るまでに15分程かかるというので、直くんとアンディには、現場に向かってもらいました。


暫くして、別の作業員が給湯器の調査を始めると、給湯器には問題がなく、リモコンが作動しないことが判明。追い炊きができないが、温度調節は手動で調節できると分かり、ホッと胸を撫で下ろす。新しいリモコンは後日、用意してもらえるとのこと。


とりあえず、今夜お風呂に入れます。よかった…



「本当に…申し訳ございません。リモコンの準備が…整いましたら…ご連絡…い、致します。」


「はい、ご苦労さまです!」



作業の全てが終わる頃、16時を過ぎていたことに気がつく。

直くんたち…どうしてるだろう。


メールしてみるか……



《今どこ?どんな感じ?》


既読



トゥルルルル…トゥルル…トゥルルルル…



ん?…直電?何事かしら??



「あっもしもし…直くんどう?」


「道が混んでて遅れたけど、今から君の前の家に行くから、そっちに着くの19時頃だと思う。」



随分とかかるんだな…

ということは、レンタカー延長したってことね。



「了解!あっ…お湯出るようになったよ!」


「それはよかった。じゃっ」



素っ気ないわね…


19時頃か…着いたらお腹空くだろうし、何か用意したいけど…作るのめんどくさいな。

ふむ…折角だから大奮発して釜飯にしちゃお!


2人が帰ってくるまでに時間があるので、できるところまで荷解きをして待つことにしました。



…………………………………



トゥルルルル…トゥルル…トゥルルルル



んん?また電話…



「どうしたの?」



「ギャアアアアアアアアアアァァ───────ッ」



「え?何?」


「くっそっ!FUCK!!」


「直くん??」


「アンディが道、間違えやがった!くっそっ!!歌なんか歌ってっからだるお!!」



誰???



「いやん…直ちゃん……ごめんたい。」



電話の向こうで…小劇場が繰り広げられているようだ…


にしても…直くんが、言葉のおかしい田舎のヤンキーみたいになってる。ウケる。



「FUCK!渋滞で全然進まねえっ…レンタカー屋に電話したら、20時までに戻せないなら、明日の10時までに戻せって言いやがった!…くっそっ!くっそっ!」


「戻せそうなの?」


「ぁあ?無理だろっ!割高になるけど、コインパーキングに止めるしかないねっ!くっそっ!」



プッ───



「あんだって?…」



そのお金は誰が出すんじゃい!……折角、安く済んだのに!

歌なんか歌ってっからだるお!!



「ふぅ……」



いかん。落ち着こう…

眉間にシワを寄せながら…ふと考えた。


管理会社のサポートに連絡してみよう。

状況を説明したら、空いている駐車場を貸してもらえるかもしれない。



「……という訳でして、ガスの開栓が上手くいかなくて時間が掛かったせいで、こうなったんですよ。本当に困っているので、明日の朝まで貸してもらえませんか?」



…少しの沈黙、どうする?…どうなる?



「…畏まりました。こちら側の不手際があったということですので、特別に用意致しましょう。」



よし!


それ見たことか!これが年の功というものだよ。

長く生きてないと、この切り返しはできないだろう…ふふふ


早速メールで知らせよう。



《直くん、アンディへ

管理会社に説明して、明日の朝まで駐車場を貸してもらえることになったから。ゆっくり帰っておいで!

あと、釜飯の宅配お願いするから、何を食べたいか教えて。

添付するね。》



既読


《Good job!》


《俺鳥かま。アンディ鯛かま。》



全く…さっきの小劇場は何だったんだ。

てか…誰だったんだ?



《了解!》



そんな感じで、バタバタしておりましたが……



「ただいま…」



ヘロヘロになった若者2人、残りの荷物を運んでようやく帰還です。



「おかえり〜」



釜飯をテーブルに広げて待っていると、手洗いうがい、足洗いを済ませた彼らが、リビングに集合した途端…

皆一様に、お腹が空いていることに気がついたのか…お腹の鳴る音がどこからともなく聞こえてくる。



「ぐううぅ…ぐるううぅ…きゅるるるうぅ………ブリッ」


「やだ!直ちゃんったら〜。」



釜飯を前にして、くっさい臭いが漂うのを阻止するべく、アンディと2人がかりで仰ぐ姿をよそに、素知らぬ振りして静かに食べ始める直くん…



「う〜ん。うんま〜い!」



どんだけマイペースだよ!

と、つっこみを入れたいところだが…


その笑顔で、私もアンディも気が抜けたのか…お互いに肩の荷が下りてほっこり笑顔。美味しく釜飯を頂きました。



「ごちそうさまでしたん。」


「どういたしまして。…あっねぇアンディ…今夜はもう遅いし、泊まっていく?」


「ううん。明日ご用事あるから…そろそろ帰らなきゃ…」



ティッシュで口元を丁寧に拭きながら、少し上目遣いにハニカム様子が女子力高いなぁと思う。


それにしても…まつ毛がバンビみたいに長い。



「そっかあ。残念…そしたらまた遊びに来てね。」


「うん。」



アンディを最寄り駅まで送ることになったので、上着を着たりトイレに行ったり…各々準備をしていると、散々テーブルの上に食べ散らかした、釜飯の器などをアンディがキッチンに運んでいる様子が目に入ったので…



「あっごめん、アンディ。後は私がやるからいいよ。行こう! 直くんが下で待ってる。」


「うん。」



本当に女子力高いわ………


最寄り駅まで徒歩30分近く掛かるので、軽トラでアンディを送るのだが…



「あれっ…君も行くの?」


「行くわよ!」



直くんが運転する軽トラに乗れるなんて、こんな経験もう2度と無いわ。堪能しなきゃ損でしょ!



「いいけど…荷台に乗ってね。」



あっ…そうか…

行きは、荷物があったから紛れて乗れたけど、荷物が無いとなると……怖いなぁ。



「分かったよ…お留守番しま〜す。じゃあ、アンディここで…またね。」



おやっ?……アンディが両手を広げている?

これは…もしや?もしや?

そういうことだよね?

いいのよね?…って思う間もなく、私も両手を広げてました。


きゅん……



「またね…」



ハグをありがとう……アンディ。

外国では普通の挨拶とはいえ…照れますね。


軽トラの姿が見えなくなるまで見送った後、部屋に戻って、まじまじと新居を見てみると…



「う………む。」



玄関を開けて直ぐの洋間はリビングとして、今後私たちの共同場所になるわけだが、今ある物と言えば…


前の部屋から持ってきた古いカーペットを敷いて、コタツを置いて、TVがあるだけ…と、とても質素だ。

急な引越しだったので、新しい物を何も用意できなかったけど、これから好きな様に、好きな物を揃えていけると思うと、なんだか心が弾む。


リビングには、大きなソファを置きたいな……うふっ。


そんな感じでいつものように、乙女心満載で妄想を膨らませながら、重い腰を上げたのだった。



「さて…やりますか。」



直くんが帰ってくるまでに色々と終わらせて、後はゆっくりしたい。先にお風呂場の掃除から…と思ったが、クリーニング済なので簡単にして、お湯を張るだけにした。

次に、洗い物に取り掛かろうとキッチンに向かうと…



「あれ?」



ちなみに、リビングの隣がキッチンなのだが…



「あれあれ?」



シンクに何も入ってない!

釜飯の器とか…湯呑み茶碗とか…諸々入ってない!

どこに行った?

まさか…まさか……



「アンディが食べちゃった?」


「何を食べちゃったの?」


「わあ!」



振り向くと直くんがいたのでびっくり!

帰ってくるの早っ



「いやぁ…あの…洗い物をしようかと思ったら、器とか色々無くて…で…」


「で、アンディが食べちゃったと?」


「いや…はや…ははは。それはさすがに…」



ん?


直くんが無表情で、人差し指を斜め上に指しています。釣られてその方向に視線を向けると…



「あらま。」



なんと、冷蔵庫の上に全てが積み上げられておりました。

釜飯の器に、湯呑み茶碗、割り箸 etc…

無表情のまま…それを下ろす姿が、何ともシュールで可笑しい。



「ぷっ」



私が笑った瞬間、気分を害したのか…手を止めてリビングに入ってしまいました。あらら…


冷蔵庫の上にはまだ器などが残っていて、151cmの私がそれを下ろすには、脚立が必要です。

幸い、40cm位の脚立を前の家から持ってきていたので、それに乗って作業をしようとした時に、なる程…と合点がいきました。


冷蔵庫の上って、いい感じの作業台なんです!

まぁ、電子レンジを置く人もいる訳ですから…


187cmのアンディの目線って、こんな感じなんだなぁと実感したと共に、いつも地味に佇んでいた冷蔵庫が、こんなにも脚光を浴びる日が来るなんて…と、しみじみ思ってしまいました。


冷蔵庫よ…10年頑張ってきた甲斐があったね。

そしてこれからも、まだまだ現役でよろしく!



「あっそうだ…直く〜ん! お風呂にお湯入れて〜先に入っちゃって!」


「はぁ〜い。…ブリッ」



私は、眉間にシワを寄せながら…

何も言わずに…そっと換気扇を回した。



………………………………



さてさて…ハラハラドキドキした時間もございましたが、やっとの思いでお引越し終了!

なんだかんだ、無事故無違反で乗り越えました。


本当に…お疲れ様でした。



…今回は、内容が濃すぎてしまいましたので、敢えて住人たちに触れませんでしたが、何人格いたと思いますか?



是非、分析してみてくださいね!


…………………………………………………………



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― 新着の感想 ―
[良い点] アンディの魅力がてんこ盛り [一言] お待ちしていました( ^ω^ ) アンディに興味が湧いてしまいました〜 きっと直くんには、個性豊かなお友達がこれからもでてくるのねとワクワクもあります…
[一言] すごく、素敵な作品で読むのがたのしみです。 また更新されるのたのしみにしてます◡̈
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