嬉し恥ずかしお部屋探し
さてさて、この物語はやっと、同居に至るまでを皆様にお伝えできましたが、いかがでしたでしょうか?
長いですね…
ですが、この後もダラダラ行きますよ!
前回では、水沢 直くんの多重人格について、途中から『 時の流れに身を任せ〜作戦。』に切り替えたので、彼の中に潜む住人について分析が疎かになってしまいましたが、今後は同居することになったが為に、様々な人格と直面していきます。
それは…前回の続き、とある休日に住居を探すところから………
…………………………………………………
『 ではすぐに部屋を探しましょう!俺は、即実行派なんで。』
あれ以来、とにかく毎日メールが届くのよ。
部屋の間取り図が添付されてね…
水沢くんは、ルームシェア先の大家さんと何やら揉めたそうで、2月中に家を出ないといけないらしい。
でもね、 2月中となると…あと1ヶ月くらいしかないんですよ。
私自身は、慌てて探さなくてもいいんですけども……
『 もしも見つからないなら、君とはルームシェアできない。 』
とか、急かされてるんですよ!
希望としては、都内に近く低家賃、職場まで乗り換え無しなら、なお宜しい。 で…色々と検索しております。
よしっ 、2DKで8万円くらいで…どやっ
「ふ〜む。……まぁまぁ…あるにはあるが…う〜ん。」
水沢くんが添付してくる間取りも悪くはないが、何かね…ピンとこなくてね…というのも田舎くさいって感じ…あっ、表現がよろしくないわ。古風な印象の外観と間取りなのよ〜。
なので、私も一生懸命探しておりますが………
「おっ…これは、よろしいのでは?」
2DK、7.4万円、最寄駅から徒歩15分…敷金礼金 0円、保証人不要。…トイレバス別、独立洗面台 etc……
ほうほうほう…悪くない。
内見を申し込んでみよう。
ポチッと…
チャットで、内見予約の申し込みをするのね。
今は、スマホのお陰で何でも安全にサクサクできて、本当に良き時代だわ。アナログ人間の私にも優しい。
トゥルル……トゥルル……トゥルル……
ん? 電話?
「はい?」
「あっもしもし、私…〇〇の佐藤と申しますが、先程の内見予約についてお話よろしいでしょうか?」
「え?…あっはい。」
私がなぜ疑問形なのかと言いますと、チャットでやり取りしてるのに、何でわざわざ電話してきたのかな?という事なんです。
「お話と言いますのは、ルームシェアの項目にチェックされていたので、気になりましてご連絡した次第です。」
「はぁ…?」
この時点でも、まだ何の事やら理解できてません。
内見予約の申し込みの際、個人情報などを入力して、希望項目にチェックする箇所にルームシェアがあったので、チェックしただけなのに…
「お客様は…ルームシェアをご希望なんでしょうか?」
「はい、そうですが…」
「そうですか……失礼に思うかもしれませんが、詳しくご説明いただけますか?」
え…どうしよう。何で?ダメなの?
嘘ついちゃう??…う〜ん。それは嫌だ。
「え………とですね。事情がありまして、異性なんですけども……ルームシェアしたいなって……はは。ダメなんですか?!」
やべっ、最後の方だけ、逆ギレ風になってしまった。
「あのですね。ルームシェアをするという事が、よくお分かり頂いていないようですが、そもそも物件が違うんですよ!」
逆ギレで返された! 何だこいつ!
「はあ?物件が違うって、どういうこと?違うんだったら、何でルームシェアのチェック項目がついてるのよ!」
逆ギレには逆ギレで返す! (鉄則)
「希望項目は、こちらの物件とは関係なく、個人に向けてお尋ねしている項目です。」
むむむ…
「…まずですね。家主がルームシェアを許可しているかが、重要なんです。勝手に契約者以外の人が、入れ替わりに居住する可能性がある訳ですから。」
最もだわ…
「ルームシェアがご希望でしたら、少ないですけれどもご紹介できる物件、ございますので……一度弊社にお越しいただけないでしょうか?」
何だか、面倒くさそうな話になってきた…
まぁ…よく調べもしないで楽観的に考えてたけど、確かにルームシェアで物件を探しても、あまりヒットしないんだよね。
困ったな… 水沢くんに相談するか。
「あの…えっと……彼と相談して、ご連絡いたしま〜す。」
そうそう、一旦退いて仕切り直しをする。(戦略)
敵は頭が切れると見た!
「そうですか…かしこまりました。では、ご連絡お待ちしております。……プツ。」
ふぅ…
ルームシェアについて、部屋の探し方を間違えてたのか……普通の管理会社じゃダメなんだ。
だってさぁ…初めてだしぃ……
「う……」
まてよ…別にルームシェアで、探さなくてもいいのでは?
…私たち、異性だし。
年の差カップルなんて、今のご時世そんなに恥ずかしくない!
20年前なら、後ろ指さされたかもしれない。
40年前なら、石を投げられたかもしれない。
でも、今なら大丈夫だ!
この熱が冷めないうちに、水沢くんに相談しよう。そうしよう。
《お疲れ様です。
内見してみたい物件があったんだけど、ルームシェアで引っ掛かっちゃってね。で…同棲だったら、問題ないみたいなんだけど…どうする?》
これでいいだろうか?
メールの文章を何度も何度も読み返しては、同棲という文字の所で…ゴクリと固唾を呑んでしまう。
別に卑猥な事を想像しているわけではないけど…
何だかね…私だって女だし。
父親以外の男性と、一緒に住んだことないし。
47歳を間近にして、23歳の男性と暮らそうとしてるんだから…脇汗かくわ!
同棲だったら無理って、返事が来たら…どうする?
どうしよう…どうしよう…どうしよう…どうしよう…どうしよう… どうしよう…どうしよう……………
「あ─────っ!!」
わちゃわちゃ考えるのはやめよう!
「えいっ!」
→送信
ドキドキ…ドキドキ
既読
既読はやっ!
一旦、この場から離れよう…心臓に悪い。
トイレ行っとこう〜っと。
…トゥルン…
げっ 、メールの通知音……トイレに行こうと思ったのに、ダメだ気になる。
よしっ。せーので確認するぞ!
ドキドキ…ドキドキ…ドキドキ…ドキドキ…
「せーのっ」
ドキドキ…ドキドキ………!!
《じゃ、同棲で。》
──ドキンッ──
「はは……は」
思わずへたれこんでしまった。
「めっちゃシンプル…」
はぁ……
そして肩透かし…私、考え過ぎだわ。
《分かった!じゃあ同棲ってことにして、進めてみるね。》
既読
《お願い。あっそうだ。俺この雑貨の仕事、今月末で辞めるから。言い忘れてたわごめん。》
「はっ?」
《はっ? 何それ》
思ったことをそのまま送った。
またもや、急な展開について行けない…
《暇すぎて、人間がダメになるから辞めるって言った。もう、次の仕事見つかったから大丈夫!》
まぁ……気持ちは分かるけどさ
《どんな仕事?》
《火鍋屋。時給1500円。》
時給いいじゃん!私よりいいじゃん!
《分かったよ。》
既読
分かんない。やっぱりよく分かんない!
この人と暮らして、本当に大丈夫だろうか…
急な展開が多すぎる!
頭の中を整理しよう。
① 私たちは、ルームシェアをする。(同棲)
② 1ヶ月以内に、部屋を探して引越しする。
③ 水沢くんと職場が変わる。
…あっこれだけか。
冷静に考えれば大丈夫だ。大丈夫……なんだか混乱してた。
そっか職場…変わっちゃうんだな…
今までは、水沢くんが居たから続けられたけど…
居ないなら、ここで働く意味があるんだろうか。
派遣だから時給はまぁまぁいいけど、この仕事にやりがいは全く感じない。ほとんど店番していて給料貰えて、贅沢なこと言ってるけど…引越しの準備にまとまったお休みも欲しいし、契約を終了するか悩む。
……………………………………………………
悩みました。
ええ、とても悩みましたとも…
ここまでの流れが、ダラダラし過ぎたので結論から言いますと、 私も派遣先の契約を2月末で終了しまして、その間に有休を消化させてもらって、引越しを進める。3月から新しい派遣先と契約すればOK。
と、まぁ…とりあえずこの計画に落ち着きました。
そして肝心の部屋探しですが、実は良い物件が見つかったんです!
最寄り駅からは、徒歩30分程かかりますが、3DKで家賃6.9万。 その他諸々の設備あり、初期費用が安いetc。
ネットで見つけて、直ぐに内見予約をして…
あ…前回嫌な思いをした管理会社ではなく、別の管理会社から探しました。
気になる点としては、契約の中にフリーレント1ヶ月とあること。事前に問い合せたところ、1ヶ月分の家賃が無料になる代わりに、1年間は退居できない規約になっていて、それを破ると1ヶ月分の違約金が発生するのだとか…
しかし、百聞は一見にしかず…2人で内見して参りました。
2020年2月14日
「では、以上で契約は完了です。ありがとうございました。」
この日、私たちは同棲と偽り、ルームシェアする部屋を決めた。2人の都合のいい日が、偶然にもバレンタインデーだったので、何となくイチャつく演技も取り入れてみた。
時々見つめ合っては、はにかんだりして…うふふ。
この年の差23歳のカップル?を担当者は、どのように思ったかどうかは分からないが、とりあえず契約できてホッとした。
部屋の鍵を受け取ると、水沢くんがカーテンを買ってくれると言うので…その足でホームセンターに立ち寄り、彼が見立てたカーテンを購入すると新住居に戻った。
日当たりが良くて、電気をつけなくても十分に明るく暖かい部屋。
カーテンを設置していく…
彼が生活をする和室には、お茶葉みたいな緑色のカーテン。
私が生活をする洋室には、明るい青緑色…まるで、ビリジアンを薄めたような、綺麗な色のカーテンが設置された。
「うん。いいじゃん!」
設置したばかりのカーテンを開けて、再び陽の差した和室に寝転がりながら、どんな部屋にしたいか語り合った。
あまりにも気持ち良すぎて、半分寝かかった時に…彼の一言で現実に戻される。
「ところで、引越しどうするの?」
「ん? どうするって…25日にするって、契約の時に決めたじゃない?」
「そうじゃなくて、荷物運ぶでしょ?業者に頼むの?」
むむむ……目を細めて首を傾げるポーズをしている。
腕を組み始めました。
何よ?何なのよ?その次の、私の言葉を予測しているポーズは?
「業者に頼もうとしてるわよぉ〜。」
至って普通の返しに、語尾だけおネエにしてみた。
「ふん。」
鼻で笑うか!…しかも右口角が上がっている?
何とも、人を小馬鹿にした感じ…
「業者に頼まなくて、誰に頼むのよ!」
「まぁ…いいんじゃない?ちゃんと調べたら分かりますよ?」
両手を耳の傍でお手上げのポーズをしながら、首を左右に振って目を閉じている。
何とも外国人によく見られる、呆れた時のベタなポーズをされた。
「ええ? ダメなの?」
「ダメとは言ってないです。さぁ考えて下さい。」
さっきまでのホンワカした空気が一変して凍る。
「分かんないよ。教えて?直くん…」
どさくさに紛れて名前で呼んでみた。
「…………」
お返事ございません。
「直くん?」
意図的に、名前で呼びましたぞ?どうする?
「……あのね。前にピンクちゃんの話したでしょ?」
おお?いきなり師匠の話が出てきましたよ。
「霊能力者ピンクちゃんの話?」
「そうです。彼女が俺に付いている者について、こう言っています。俺は、俺を含めて6人で成り立っていると…俺はその中でも年長者です。君には、俺と生活をしていく以上、そのことを受け止めてもらわないと難しいと思いますよ。」
多重人格のことだ……ルームシェアすることばかりに気を取られて、すっかり忘れていたけど、水沢くんは、自称多重人格者だった。そして今、主人格を含めた6人で成立していると、はっきり言っている。
「あなた年長者って言ったけど、何歳なの?」
「40歳か、41歳か、42歳くらい。」
何それ! 漠然としすぎ!
「んじゃ、真ん中取って41歳でいいですね?……直さん?」
「いいでしょ。」
直さんか……何か、めんどくさいわ。この人。
「ところで、さっきの話に戻るけど、荷物を業者に依頼することに対して、何で調べる必要があるのか教えてくださいよ?」
大きな欠伸をしている…
「…業者に頼むとめちゃくちゃ高い。後で調べて?困ったら俺に連絡すればいい。…さぁそろそろ帰りますか?」
そう言ってニカッと笑った顔は、馴染みのある優しい…いつもの水沢くんだ。決して41歳には見えない。
「うん。わかったよ…直くん。」
水沢 直くんは、多重人格者のような人。
不思議で魅力のあるこの人と、私は暮らすんだね。
不安はもちろんあるけれど…
「あっそうだ!直くん、ちょっと待って!!これ……どうぞ。」
それよりも何よりも…
「ん?…何?」
私はとても…
「わぉ!!」
「ハッピーバレンタイン〜」
楽しみなのです!
「このチョコ…うんまぁ〜い!! えへへっ」
……………………………………………………
……今回は、ここまでにいたしましょうか。
やっと、多重人格者の片鱗が見えて参りましたね?
次回はいよいよ引越しと、居住してからのお話に進みます。
水沢 直くんの中に潜む住人たちも気になりますが…
水沢 直くんを取り巻く愉快な仲間たちも、続々登場致します。
まず、最初に登場する愉快な仲間は、引越し当日までのお楽しみです。
では、乞うご期待!