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ルームメイトは多重人格者?  作者: 真嶋 幸
2/10

未知との遭遇


さて前回は、水沢 直くんという多重人格者のような人との、とある日常の一部分をお伝え致しました。


彼の誕生日だったこともあり、ほんの数時間に主要な人格である直くんを始め、住人のなおちゃんと直さんをご紹介できましたね。


今回は、別の住人のお話と、私事を少しお話しさせていただければと思います。


まず、私の自己紹介から……改まると恥ずかしいですね。

もとい、真嶋 幸(まじま さち)と申します。

現在の年齢は、47歳。…になったばかりのアラフィフでございます。

そして、私はもちろん、女性です。


?……………!?


ですよね?


水沢 直(24)男性と、真嶋 幸(47)女性。

この2人が同居しているのです。

私たちは、親子でも親戚でも、もちろん恋人でもございません。


???………ですよね?


何でまたそんな事に?と、疑問に思う方がほぼ100%はいるでしょう。同居するまでをお話しすると長くなってしまうので、まずは私たちの出会いから…


それは、某百貨店のリビングフロアに、小さな雑貨コーナーがありまして、その就業先に、私が派遣社員として配属した時に、彼がアルバイト員として働いていたことが出会いです。従業員はたったの3人で、慎ましく運営しておりました。


水沢 直くんの第一印象としては、そうですね…顔立ちは可愛らしくて、アイドルグループに居ても遜色ないほど整ったお顔、なのに当時23歳にしては冷静沈着な佇まい。といった、ギャップ萌えがありましたね。ええ…


その就業先では、直さん(41)が主に出ていたようで、様々な蘊蓄を聞かされたり、昭和の話でやたら盛り上がったりしていました。


若い男性なのに…よくこんな、昭和生まれのアラフィフ女子と、嫌な顔をせずに接してくれるもんだと、感心しておりました。例え、社交辞令だとしても嬉しかったですね。


ある日、そんなお礼も兼ねて、美味しいと評判のワッフルを出勤前に購入して渡したんです。夕方の休憩時間にでも、食べてもらえたら良いかなぁと思っていたのですが、渡した途端に表情が変わって驚きました。



「お腹すいたぁ〜今すぐ食べたい。休憩入るね。」



と言って、狭いバックヤードに入って食べ始めたんです!

冷静沈着な彼が見せた、可愛らしい一面にノックアウトでした。


瞬殺です!

オバチャンが落ちた瞬間に、自分もビックリ!


休憩が終わっても表情はそのまま変わらず、接客に入るまでの束の間でしたが、私たちは食べ物の話で、やたら盛り上がっていました。

私はというと、それ以降、彼の表情が気になって、気になって… だって、彼のたれ目が更にたれ目に…まるで、ゴールデンレトリバーの子犬のような愛らしい笑顔。


きゅん…


後々、なおちゃん(7歳)であることが判明しますが、その笑顔が見たいがために、彼とシフトが一緒の日を狙っては、せっせとお菓子を与えておりました。 いわゆる餌付けですね!


この時は、本当に毎日が楽しくて、彼と一緒の日を指折り数えては、ニヤニヤしたりしていました。(キモイですね)


しかし、不運は突然やって来るもの……


彼から恋愛相談を受けたんです。

それは、出会い系アプリで知り合った、シンガポール在中のキャビンアテンダントとお付き合いをするか否か、という内容でした。


アプリで知り合っただとおぉぉぉぉ!

しかも、外国人??



「は?」



最初に出た言葉は、「は?」でした。

アプリで、外国人とお付き合いできるんですね?

出会い系は、随分と進化したものですなぁ…


その時の私は、きっと文明に取り残された、猿のような顔をしていたに違いない…と思います。


気を取り直して、彼女のことを詳しく聞いてみたのですが…

高身長、高学歴、高収入の才色兼備ときたもんだ!

しかも、まだ30歳。

非の打ち所がございませ〜ん。



「水沢くん。そんなに良い物件、中々無いから付き合ってみたら?」



出た言葉は、こんな感じだったと思います。

まるで、ネットで好条件の家でも探し当てたかのように、とりあえず内見行ってみたら?みたいな…


他人事みたいに言ってしまいましたが、内心はとても複雑な気持ちでした。


なぜなら私は…年甲斐もなく、彼に恋愛感情を抱き始めていたからです。


でも、その感情を押し殺さなければならなかった。

だって、とても同じ土俵に上がれるとは思えなかったから。

それに…好きだからこそ、私は彼の幸せを願いたかった。


暫くして、彼はシンガポールの才色兼備とお付き合いを始めました。彼女のフライトが日本の時は、必ず会う約束をしていましたし、彼女の方もわざわざ彼に会う為に、日本へのフライトを友人に代わってもらったりと…


ま〜あ、甲斐甲斐しいですね!


あっそうそう…彼らの言語についてですが、共通語が英語ということです。


遅ればせながら、水沢 直くんは語学が堪能でして、日本語、英語、中国語、タイ語の4ヶ国語をお話しになります。


タイ語?…最後のタイ語って何で?って思いますよね?

実は… 水沢 直くんは、日本(母)とタイ(父)のハーフなのです。


幼少期から日本、タイ、英語を話す環境にあり、現在は独学で中国語を勉強しているようですが、元々飲み込みの早い彼は、難しい中国語でさえ、日常会話ができる程に上達しています。


話は戻りまして、そんなこんなで2人はお付き合いを順調に進め、私はというと、その話を聞かされる日々を送っておりました。


しかし…1ヶ月が過ぎた頃から、2人の間に不穏な空気が流れ始めます。ほどなくして、2人は価値観の相違が理由ということで、別れてしまうことに…


なんというか、自分の事のように辛かったですね。


彼女のためにできる限りのことをして、努力を惜しまなかったというのに…彼女には、その気持ちが伝わらなかったようです。


私は、彼の辛い気持ちを紛らわすために、食べ物の話をしたり、相変わらず餌付けをしたりしていました。それが功を奏したのか分かりませんが、彼からご飯のお誘いを受けたんです!単純に嬉しかったですね。


私たちは、2週間後に『カレーを食べに行く!』という、約束をしました。


私の心は、ルンルンですよ!ルンルンですよ〜っと!


ですが、2週間って結構長いですよね?風邪を引かないように健康管理をしっかりせねば!と思っていると、風邪は引くんですよ…


当日、私は中耳炎になっていました。


耳が…い、痛〜い!!……聞こえな〜い!!

ってか、何で耳?…何で?


喉が痛いのも嫌だけど、中耳炎とは…小学生以来だわ。日曜日だから病院は開いてないし…


仕方が無いので、強行突破するしかない…

中耳炎であることをひた隠しに、やり過ごそう作戦で行こう!



……………………………………………………………………



「あれ?今日の声、小さくない?」



会って、3秒で勘づかれた。



「あのね、なんだか中耳炎みたい。耳痛くて、聞こえにくいの。」



自分でバラして、早くも作戦失敗……鈍臭いですね。

ただ、中耳炎というワードに彼は大爆笑!

あの時の…腹を抱えて笑われた姿は、今でも忘れられない。


さて、彼と面と向かって食事をするのは、初めてのことでしたので、ものすごく緊張していました。


少食ではないはずなのに、そして、腹周りの緩いワンピースを着ていたにも関わらず、カレーが思うように喉を通りません。

彼は、美味しそうにもくもくと食べ、ナンとライスのおかわりまでしています。


実は、緊張している理由がもう一つあり、それをいつ実行するべきか、考えあぐねておりました。



それとは……告白すること。



はて?何を告白するんですか?って話ですよね〜。

は…はは…ははははは〜。



もちろん、好きですって…言う。告白ですよ!!(逆ギレ)



ダメ元なのは重々承知でしたし、なぜだか分かりませんが、好きという気持ちを伝えたくて仕方がなかったんです。


なので、カレーを食べながら始終、モジモジしていました。



「どうしたの?今日は、随分と口数が少ないね。」


「えへへ…」(肩をすぼめてハニカム)



まぁこんな具合で、30年前にタイムスリップしたかのような、乙女心満載だったんですよ。ここまでは…


食事が終わり、いよいよ告白タイムに…と思いきや、これがまた勇気が出ない出ない。


やっと出た言葉は…



「伝えたいことがあるんだけど、ここでは話しにくいなぁ。」



隣席との間隔が狭いので、ここで告白なんかしたら四方八方の人達が、耳をダンボにして聞くに違いない!といった状況なもんで…



「分かった。じゃあ…外で聞くよ。」



外に出ると、雪が降っていました。

その日は、奇しくも東京での初雪だったのです。


めっちゃ寒いのに彼は薄着で、しかも傘を持っていなかったので、必然的に相合傘状態に…


私の鼓動はドキドキ、ハラハラ、耳はガンガン。



「で?何が言いたいの?」


「え…えっとぉ……」



モジモジ…モジモジ…モジモジ…モジモジ…


私のモジモジしている様子に、我慢の限界だったのでしょう。



「もしかして、俺のこと好きなの?」



言われてしまいました!



「う…うん。」



鈍臭いですね。モジモジ…



「悪いけど…その気持ちには、答えられない。」



瞬殺でした。


まぁね……そりゃそうでしょ。年の差24歳ですからね。彼のお母さんと3歳しか違わないしね…



「うん。そうだよね…年の差あり過ぎるし…はは。」


「年の差とかじゃなくて、俺…ゲイだから。」



……ん?



「え?」



げいって、芸じゃないよね?



「げい?」


「そう。俺は、男性しか好きになれない。」



まさかの…カミングアウトでした!



「ゲイ…」



この時、たぶん3秒くらい時間が止まったと思います。


もちろんショックでしたし、驚きました…


でも、一瞬で振られたショックよりも、カミングアウトされたショックよりも何よりも、躊躇せずに潔く、正直な言葉を伝えてくれたことに驚いたのです。


あれ?でも、待てよ…あのキャビンアテンダントは?

女性だよね?

恐る恐る聞いてみる…



「あれは男だよ。…色々とめんどくさいから、女性ってことにしていただけ。ねぇ、寒いからどっかに入ろ!」



確かに、私がモジモジしていた時間も合わせて30分くらい、この寒空の下で歩きまわっていたのですから。彼は薄着でしたし、相当寒かったのでしょう。


私たちは、偶然見つけた昭和感漂う、喫茶店に入りました。


タイミングが良かったのか、私たちの他にお客さんがいなかったので、ここなら安心してコアな話ができると思い、すぐに切り出すことに…



「キャビンアテンダントの写真が見たい!」


「いいよ。」



スマホの写真と共に、メールでのやり取りの一部始終など、こと細かく説明をしてくれた後に、もっと早くカミングアウトするべきだったと謝ってくれました。



「ごめんね。…だから君の気持ちには答えられない。」


「うん…」



水沢 直くんは…優しい人です。


本来ならば、親子ほども年の離れた女性から告白されたら、どう思うでしょう。


例えば私が、容姿に優れた魅力的な女性でしたら…アリだったかもしれません。ですが私は…ごく平凡なアラフィフ女子で、何か取り柄があるわけでもないですし、あえて言うならば、実年齢よりも若く見えるくらい。


同僚だから、気を使ってくれていることを差し引いても、告白したことを気持ち悪がられないだけ、良かったと思いました。


正直…カミングアウトは、私を諦めさせる為の口実だろうと…それならば傷つかないですもんね。

なんだか…スーッと気持ちが収まった気がしました。


でも、これだけは言わせてもらいたい!



「水沢くんの気持ちはよく分かったよ。正直に言ってくれてありがとう。だから、私もちゃんと伝えて諦めるね!」



彼は…私を真っ直ぐ見て、小さく頷きました。



「私はね、水沢くんという人を…人間性を好きになったんです。あなたに出会えたこと、本当に感謝しています。これからも、同僚として今までと同じように、よろしくね。」



鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔してました。



「うん。…ありがとう。俺の人間性が好きなんて、初めて言われたよ。へへ…」



苦笑いをする彼に対して、私は返す言葉を見い出せずに、ただ黙って珈琲を飲むしかできなかった。


彼はきっと、複雑な気持ちだったのだろう。

思わぬ人から告白されて、それを断るためにカミングアウトの振りまでして…


そう…私は途中から気づいてしまったんです。

彼が本当は、ゲイではないということを…


だって、キャビンアテンダント(男)の写真を見せてもらった時に、偶然にも女性の写真がチラホラと、何枚か見えてしまったんですから…しかもすごい美人。


メールのやり取りは全て英語だったので、私にはよく分かりませんでしたし…なので、多分そちらが本当のキャビンアテンダントなのでは?と疑っていました。


そこで私は、小賢しいと思いつつも、どうしても確認したい衝動に駆られ、もう一度写真を見せて欲しいとお願いしたんです。



「いいよ。」



スマホをテーブルに置いて、写真をスライドしている時に、一瞬現れた美人。


…私は、その一瞬を逃しませんでした。



「あれ?…その綺麗な女性は?」



自分でも、嫌な性格だなぁと思いましたが、もう後には引けません!



「あ…」



しまった……っていう顔をしています。



「これは…」



キャビンアテンダントなんでしょ?

怒ったり、責めたり、やっぱり付き合って欲しいとか困らせたりしないから、正直に言ってごらんよ。



「俺。」


「ん?」


「俺。」


「んん?」



俺って言ってる?…

その後に、続く言葉があるはずよね?…そうよね?



「俺だよ!」


「あんだって?!」



鳩が豆鉄砲を食らったどころではございません。

バズーカ砲くらいの衝撃でございました。



「俺、女装が趣味なんだ。」



痛たたた……このタイミングで、中耳炎の痛みが再炎です。



「マジか…」



マジマジよく見ると、目鼻立ちが『彼』そのものでした。

そして、写真と同じポージングをしています。



「本当だったん…だね?」



はあぁぁ……これはもう疑う余地はございません。

完敗です。疑ってごめんなさい。



「言いづらいこと…言わせてごめんね。」



「いや、別に。この職場ではカミングアウトしてなかったけど、俺の周りにはごく当たり前に、カミングアウトしてたから。しかも、女装の仕事してるし。」



「女装の仕事?」


「そう。あたし、新宿2丁目で働いてんの……うふふ。」



うふふ?…実は、この辺りからよく覚えてないんです。


中耳炎の悪化と発熱に加え、失恋にカミングアウト、極めつけには、女装という衝撃で体調を崩した私は、早々に帰路に着いていました。


ただ、朦朧(もうろう)とする中で、記憶として残っているのは、見たこともない妖艶な表情をしている水沢 直くんの顔が、頭の中でグルグルしていたことです。


上目遣いに、猫のように口角を上げた微笑み…

うふふ…うふふ…うふふ…うふふ………



未知との遭遇。


そんな言葉が、頭を過ぎったような否や。

後に、彼の中に潜む住人の1人であることが判明します。

彼女の名はナオ。24歳。職業…ドラァグクイーン。


さて、本日はここまでにしておきましょうか。

思わず、私事を話しすぎてしまいました。


しかし、彼が多重人格者のような人?であることを知るきっかけになったのが、このナオとの出会いだったんです。


次回はもう少し掘り下げて、私たちが同居するまでをお伝え致しましょう。



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