ある女騎士の独白 ー少年視点ー
――――――例えばそれは、呪縛から解き放たれるような。雁字搦めの鎖が消えていくような。
闇の中に沈んでいた自らの意識がだんだんと浮かび上がるのを感じる。
ぼんやりとした視界に最初に入ってきたのは見慣れた女騎士だった。
目の前にいる人を確かめるように、ゆっくりと女騎士の名を口にする。
「…………フィ……ル…………?」
「やっと……会えたね……まっ……たく……手間の……かかる……弟ね……」
苦しげな、しかしそれ以上にほっとした様子で女騎士―――フィルは言った。
意識がはっきりとして来ると同時に今の状況を頭が認識していく。
なんで……フィルは……こんなにぼろぼろで……苦しそうなんだろうか……?
今、俺は、なにをして…………な……にを……
「お……俺……!!!」
自分が何をしたのか。今の状況をすぐには信じられなかった。だが、手にまとわりつくそれの感触はあまりにも生々しくて。
否が応でも突きつけられる現実に、少年は頭の中が真っ白になり―――
そこで、少年の顔に柔らかい山吹色の髪が触れる。気がつくとフィルに抱きしめられていた。
どのくらいそうしていたのだろう。長いようにも短いようにも思える時間が過ぎた頃、不意にフィルが崩れ落ちる。
「フィル!! フィル!!!」
倒れ込んだフィルに向かって少年は必死に呼び掛ける。対してフィルは首を動かして少年を見ると、ふんわりと微笑んだ。
いつもの輝くような笑顔ではない。今にも消えてしまいそうな、儚い笑顔だった。
二人のいる空間が端の方からゆっくりと崩れ始める。だが少年はそれに気づく余裕はない。
やや間をおいて聖紋の刻まれた光のリングが展開した。だかそれは少年の周囲だけで目の前のフィルには出現していない。
「――!? 待て、フィ……!!!」
その事に気づいた少年は驚いて声をあげる。しかし、白く光るリングは術者―――フィルの命令を無情にも実行するだけ。
言葉の途中で少年は光に包まれて姿を消した。わずかに残った光輪の残滓がゆっくりと空間に溶けていく。
フィルは、精一杯微笑んで少年を送り出したのだった―――――
以前投稿した短編「ある女騎士の独白」の少年視点の短編です。
また、連載中の「三界の書―銀閃の聖騎士と緋剣使いの少年―」の短編にもあたります。
最初は本編に入れようと思って考えてたんですが、初期の段階で予想以上に長くなってしまうことが分かったので短編にすることにしました。
<追記>
下の「ある女騎士の独白」へのリンクが間違っていたので修正しました。