7話_邂逅
閑話なんて無かった。
...イイね?
戦闘場所(以後ボス部屋)の奥にある通路に配置した斥候が、光を宙に浮かべ歩いて来ている存在がいる、と言う報告をもたしていた。
そして、出撃準備を整えていた所に俺が帰ってきたらしい。
「(数は?)」
「(3体いるようです。)」
豚蝙蝠を渡すついでに受けた報告では、ガチャガチャと、うるさい足音を立てていたものと、杖を突いていた者。背が大きい割にあまり足音のしない者がいたらしい。
「(ん〜...戦士系の人間が1人。僧侶か魔法使いが1人に、盗賊かレンジャーが1人、といったところか)」
1人で考え事をしていると、そこに巫女の賛辞が介入してくる。
「(さすがでございます蛇神様。その様な事までお分かりになるとは!)」
斥候の報告と前世の記憶に由来する憶測だが、そこまで間違ってはいないだろうな。というか、念話使いっぱだったか!
「(ま、まぁな。今度、そのへんを見分けるための授業を開こう。知識は力に勝る時もあるからな。)」
動揺を押さえつつそれっぽい事を言ってみたが、巫女の目が爛々と輝いており、何度も頷いているのを見る限り、動揺は隠せている様だ。
状況整理などをしていると、いつの間にか辺りは静かになっていた。門の前には、総勢30匹の泥塗れになったネズミ達が、細い金属製の釘の様な物を携え、綺麗に整列していた。泥塗れになる理由だが、毛の擦れる音と、獣独特の匂いを少しでも無くすためのカモフラージュである。人間の中には嗅覚と聴覚、視覚のどれかだけが妙に鋭い者が、たまに紛れ込んでいる可能性があるからだ。そうでなくても、異世界であれば獣人と呼ばれる獣の特徴を持った人間が存在するかもしれないのだ。打てる手は打つ、死んだら元も子もないのだから。
「(…俺たちにとって、初めての対人戦闘だ。相手を侮らず、俺の指示があるまで、不用意に攻撃する事は許さない。それでは諸君!生きて帰ってくるぞー!)」
チューと掛け声をあげ、町を後にする。
我々の作戦はまず、ネズミ達を天井に隠しておき。俺が探検者達に誰何をして、強そうなら素通りさせて、弱そうならネズミ達の奇襲で1人は仕留めるというものだ。穴がありまくりな作戦だと思うが、初陣だし仕方ない。
そして、環状洞窟入り口に辿り着くと、遠くに人型の体温が3つあるのを確認した。
彼らは、壁や床を物珍しそうに観察しながらゆっくりと近づいてくる。その間に、柱を伝い順次袋に入っていくネズミ達。緊張からか、ペタペタと騒がしく登って行くグループも居るが、冒険者達は、俺やネズミ達には気がついていない様で、何やら会話をしているようだ。
距離がだいたい10mぐらいに来たな、そろそろか...
「(貴様ら、何をしに来た?)」
少しの威圧と、疑問を抱いたような口調で語りかける。
RPG恒例の誰何は必須だ。まさか、誰何をする側になるとは思わなかったが。
誰何を行うと意識を3体の人間に向ける。
「(誰だ!姿を現せ!)」
「(ひぃっ!声が直接脳内に響く感じですぅ!)」
「(む!これは念話のようです。)」
ほうほう、思っていた通り、人間相手でも考えが分かるな。それぞれ、いい反応を返してくれる。姿を現すのは良いんだけど、今は演出不足だからなぁ...
「(姿を現せとは、ひどいじゃないか、君たちの前に居るというのに...)」
もうちょっと魔法を鍛えられたら、地面をところどころ溶岩に変えて明かりを作ろうと思うんだけど、今は一度に5立方cmの範囲を3分かけて溶岩にすることしかできないのよねぇ。維持にも魔力持って行かれるから、30分が限界だし。今回は相手さんに、照明を任せることにした。
そして、彼らが浮かせている光源をこちらに向けて、ゆっくり動かしてきた。
「(な!あれはッ!)」
「(おっきい蛇さんですぅ!?)」
「(まさか!ブラックパイソンの亜種か?大きすぎる...)」
ふむ、大きすぎるのか?比較対象が蛸と蝙蝠しかいなかったからな、正直分からんのだよな。
「(さて、こちらの正体は明かしたんだ、今度はそちらが名乗る番ーーー)」
と、話し終える前に、騎士風の男が剣を抜き放ちそのままこちらへと走ってくる。
念話が通じていない訳ではないんだろうが、これだから脳筋は困る。
「らぁぁぁぁぁ!」
男が剣を振りかぶりこちらに近づいてくる...が。
ベキベキッ
ズシャ
距離が3mぐらいに迫ったところで、落とし穴に落っこちて金属の針山に刺さる音が聞こえる。これで今週のノルマは達成である。他の2人も殺してしまっていいのだろうが、下階のフロアマスター達のためにココは通してあげよう。
「(全く、碌に会話もままならんとは...ところで、下の階層に行きたくはないか?)」
質問をするも、他の2人は固まったまま動く気配がない。
仲間の死を受け入れられないのだろうな。仕方ない。
「(麻痺針部隊、攻撃を開始せよ!)」
ネズミ達の各リーダーに攻撃命令を下す。すると、レンジャー風の人間と魔法使いっぽい人間の頭上から、針を持ったネズミ達が無音で落下してきて、持っていた針を上半身に突き刺しては、離れていく。
「キャーッ!!」
「ヌグァーー!!」
最初の2、3匹の攻撃は素の状態でくらうことになった。が腐っても冒険者、他にも来るかもしれないととっさに頭を守ろうと動く。
ブスッズシュッ
と、肉に針が突き刺さる生々しい音がしたかと思うと、2人ともその場に崩れ落ちる。2人ともピクピクと痙攣しており、俺の毒が人間にも効果を発揮することが伺えた。これは大きな収穫である。
「(あ、あぁぁぁ、う。)」
「(くぅ!痺れ毒が塗ってあったのか!)」
声は出ていないが、考えていることが分かるので念話は便利である。
近くに行くと、レンジャー?は女性で魔法使い?が男性であることが分かった。そのレンジャーだが、頭に深々と針(釘)が刺さっていて、助かりそうになかった。ついでに言うと、いろいろ漏らしていてバッチィ事になっている。男の方は、頭へのクリティカルヒットは免れていた。
「(おまえは運が良かったようだな。そんなおまえには、俺が直々に下の階層へ運んでやろう。)」
魔法使いにそういうと、「(クソッ、嫌だ!やめろ!)」等という言葉が返ってきたが、冒険とは常に死と隣り合わせの物であり、それを承知でここにきているはずだ。ならもっとスリルを味わって貰わねば...
「(そう焦るな、地下への入り口へ放り込んでやるだけだ。死にはしないさ...すぐにはな)」
それだけ答えて念話を切った。そして、刺さっている釘を回収して魔法使いの足を、俺の足で引っ張って移動した。
とても重かったが、ネズミ達と協力し何とか運ぶことができた。下の階に通じる怪しい雰囲気の坂道に、その魔法使いを放り込む。ドサドサと転がりゆく音を聞きながら、レンジャーの元に戻る。もう体温が低下し始めていた。とりあえず服を脱がして汚物を拭き取る。ソコソコある胸に引き締まったくびれ、整った顔立ちは、どこかの貴族ではないかと思えるほどである。脱がした服で汚物を拭き取り、黙とうを捧げる。
「(すべてのタベモノに感謝をこめて、いただきま~す!)」
そうして頭からかぶりつく。ファサファサしたのど越しに、柔らかくもしっかりとした筋肉の弾力を噛みしめる。薄い本では、ままあり得るシチュエーションだと思いながら食べているが、嫌悪感を抱かないことがショックだった。そして、感想は何よりも大きい!。それからショッパイ!
どうにかこうにか苦戦しながら、15分かけてその巨体を飲み込んだ。正直動きづらいどころの騒ぎではない。
ちなみに、落とし穴に落ちた戦士は鎧の金属を加熱してドロドロにし、一緒に溶けてもらった。そして、落とし穴はまたそれっぽくカモフラ―ジュしておいた。
(うぷっ...腹が、はち切れそうだ)
町にネズミ達と帰ると、居残り組と巫女たちが出迎えてくれた。
「(...まさか人間も食べてきてしまったのですか?)」
巫女が驚いたように聴いてくる。映像などで、人間を丸呑みにする蛇を見ても、「スゲー」ぐらいにしか思ってなかったのだが、実際に飲み込んで見て、初めてそれがどれ程大変なのか分かった。
「(まぁな。それより、これは土産だ。研究するなり、材料にするなり、好きに使うがいい。)」
レンジャーの持っていた道具や衣類を、足先で引きづりながら帰ってきたので、それを門の内側の広場に置く。ちなみに、汚物は豚蝙蝠街道の苔植物の周辺に撒いてきた。汚物で汚れた物は水洗いを済ませている。
「(ふぅー、俺はしばらく眠ることにする。何かあればすぐに起こすように。それから、生き残った人間を1人、下の階層入り口から転がしておいたから気おつけるように...)」
そうして念話を切って、家まで移動するのが億劫だったから門の外側で眠ろうと丸まっていると、激しい激痛が体を襲った。
次回更新も土曜日です