6話_戦闘準備完了
土曜日ですが、時間が定まっていなくて申し訳ありません。
あれから5日、魔法を使う技術と体力を高めるため、色々な事をやっていた。土属性魔法で、崩れる床のトラップを作成し、耐久試験をしたり、豚蝙蝠を食べたり、水晶部屋をリフォームして、罠を作ったりなど、冒険者対策兼、魔法の実験をしていた。もちろん対人間用訓練をネズミ達に行わせていたりもした。
1番の成長は、幻覚魔法を2匹同時に、最大10分、掛け続ける事が出来るようになった事だ。更にいえば、用途別なら複数匹に、5分程度掛けられる。幻視だけとか、幻聴だけとかなら最大10匹にかけれるが、全部乗せの幻覚魔法は辛い物がある。その分威力は絶大で、実験台にしたネズミ達は、暗闇への恐怖心と、音に敏感になっており、3日3晩背後を注意して過ごしていたという。なお、幻覚魔法の犠牲になった、複数匹のネズミ達は、その恐ろしさを後世へと伝える為に、色々なネズミ達に自分の恐怖体験を触れ回り、街では1時期ホラーブームが巻き起こっていたと言うのは、また別のお話しである。
もちろん、戦闘場所の整備も忘れていない。環状洞窟の、上からの入り口から約15m圏内の天井部分には、ネズミ達が入る事の出来る袋をある程度まばらに作っており、岩を操りそれっぽい形に加工してある。袋は無作為に配置してあり、入ってくる時には、モッコリした岩の影になっていて、穴が空いているとは分からない仕掛けになっている。
地面から天井までは、大体3メートルぐらいで均一になるよう加工し、通路は奥行約30m幅10mの神殿風(実際に見たことが無いので、ローマ時代の柱ぽいものとかを置いて、それっぽく壁画をネズミ達に書いてもらっている)に改造して、あからさまな人工物感を出す。さらには、壁を平らにしてそれっぽい繋ぎ目を、天井と床に作りつつ、床は中央をやや盛り上げ、壁際に作った排水溝に水が流れる仕様にした。なお、その排水溝には、噴水の原理を利用して常に水が流されている。その為、豚蝙蝠街道にある池の水位が少し下がってしまった。
「(町の者達よ!遂にこの日が来た!)」
広域念話を飛ばして、町のネズミ達に話しかける。場所は町の門前で、そこには、兵士ネズミと一般ネズミ達が静かに耳を傾けている。
「(人間という、我々より大きく、力のある生物が、本日この洞窟に侵入してくる可能性がある!)」
なるべく大袈裟に、そして、攻撃的な口調で演説を行う。
「(しかし、臆する事はない。俺たちはこの日の為に様々な努力をして来た!)」
実は、そこそこの量の金属を手に入れて、ネズミ達に与え、防具や武器を作らせていた。大型の武器が作れるほどの量はないが、細い針や、彼ら用の槍や盾なんかを作ってもらっていた。彼らは、結構器用に物を作れるので、即席の王冠みたいなものも作ってもらった。サイズがそこまで大きく無いので、被りはしないが飾っておく。意匠が凝っていて素晴らしい。ちなみに鉄鉱石から鉄を抽出して石炭と配合するのはすべて俺が土属性魔法と加熱魔法で行った。配合比を何百回も確かめるのは骨が折れた。
「(訓練通りに動いてくれれば、死者は1人も出ないだろう。)」
「「「「チュー...」」」」
兵士ネズミ達から、安堵の声が聞こえてくる。が、すかさず空気を絞めに行く。
「(だが、人間は我々以上にずる賢く、非常に高い知能を有する!訓練通りにいかない事も有るだろう。そこで、臨機応変に動ける戦士こそが、町を守る英雄となれるのだ!)」
辺りし静寂が満ちる。
「(俺は、諸君一人一人が英雄だと思っている...俺たちの居場所を守り通すぞ!)」
すると、そこかしこから、勝鬨の声が上がる。
チュー!
チュッチュチュ!
いや〜、まさか蛇なのにネズミ相手に演説をするとは、思いもよらなかったな。
ウンウンと感慨に浸っていると、巫女のネズミが寄ってきて、両手を合わせて祈る姿勢になった。
「(...コレで良かったのか?)」
実は、今日起きた時に、是非演説をして、士気をあげてくれ、と頼まれていたのだ。
「(えぇ、素晴らしい演説でございました。さすが蛇神様です。)」
正直、始めての事で少し緊張はしたが、失敗しても大丈夫だろう、という気持ちはあった。それ程までに信頼関係も構築できている...筈だ。
「(うむ、なら良かった。俺は、腹ごしらえしに行ってくる。)」
それだけ伝えると、ゆっくりと門を潜り、豚蝙蝠街道へ向かう。
うぅ〜む、最近は、1匹だけだと足りないな…かと言って2匹食べるわけにもいかないか。
俺はもう豚蝙蝠ぐらいなら軽く平らげられるぐらいの大きさになっていた。蛸も、少し苦戦するが、幻覚魔法を使わずに倒せるようになった。
罠を作成する時に使っていた土属性魔法は、触れたところから、半径10mまでが変形可能になった。そして効果範囲内の岩や鉱石を圧縮したり分離する事も出来るようになっていた。まだ試したことはないが、やろうと思えば成分の均一化などもできるかもしれない。
余談だが、自分の両手を池に浸して電気分解の実験を行ってみたが全くうまく行かなかった。やはり電気を帯電させられるだけでは無理だったようだ。せめてフォース○イトニング出来るようになるぐらいに操れてから、もう一度試そうと思った。他にも、加熱魔法で溶岩を作って扱いに困ったりもしていた。そんなこんなで、2匹目の豚蝙蝠は食べずに、お土産用として絞めて帰る事にする。
町に帰ると、兵士達が慌ただしく走り回っているのが分かった。門の上には、両手を合わせている巫女が待っていた。
「(...何かあったのか?)」
巫女だけに念話を送ると、閉じていた目を開けて頷き、返事を返してきた。
「(はい、人間がやって来たようです。)」
次回更新も土曜日ですが...
閑話を投稿するかもしれません(予定は未定...)