4話_文明誕生
どれくらい寝ていたのか分からないが、かなり長い間寝た気がする。久しぶりのむず痒い感触に襲われて目が覚めた。すると、自分の周りが小さな石の壁で覆われていた。精巧に組まれた石壁はドーム状に積み上がっており、トグロの中心に、太いの石柱が存在していた。
ネズミ達が自分のために、家のようなものを作ってくれたのだという事が分かるほど、丁寧に作られていた。が、ただ一つ、気に入らない事をあげるとすれば…
(ちっさ!)
壁と体との間には、頭1つ分の隙間しかない。コレが人間なら、出るときに破壊せざるを得ないだろう。正面に出れそうな両開きっぽい扉がある以外、窓も明かりも存在しない。
扉には蛇の模様が施されていて、少し禍々しい気もするが、きっと友好の印に彫ってくれたのかも、と思うと少し嬉しい。
(結構時間たったのかなぁ、それにしても器用に作るよなぁ…)
自分が爆睡していて、工事の音が聞こえて居なかったのかもしれないが、それにしては出来るのが早すぎる気がする。
兎にも角にも、外の様子を確かめよう。そう思い、扉を鼻先で押して開ける。すると、そこには石を組み上げて出来た家と、二足歩行で歩くネズミ達。中には、骨の棒に石の先端を付けた槍を携え、昆虫の一部を盾代わりに持っている者までいた。
(…俺、何世紀ココで寝てたんだ?)
呆気に取られていると、一般市民と思われるネズミがこちらに気づいた。
目と目合う瞬間...
...チュー!
ネズミは大きな声で鳴くと、走って逃げていってしまった。
まぁ、そうなるよね知ってた。
ため息をついていると、衛兵のようなネズミ達がやってきて、盾と槍を構える。
(スンゲェ、組織だった行動してるな。って言うか、本当にどれくらい寝てたんだ?)
感心していると、衛兵ネズミ達の後ろから、骨に水晶玉をはめ込んだ、杖を持ったネズミが現れた。
(...占い師の真似事か?)
何をする気なのか、観察してみよう。と思ったら、何やらチューチューと歌い始めた。所々音程が違うのが分かる。街の営みがあるという事は、言語も確立されているのか...1世紀寝てたと言われても信じてしまうだろう。
しばらくすると、杖を持ったネズミは歌を辞めた。何が始まるのか楽しみにしていると、声が聞こえてきた。
「(お目覚めですか?蛇の神様)」
おお、女の子の声がする。もしかして、先の歌はコレのためか。っていうかコレは魔法?ココ地球ですら無いのか?その前にいつ蛇の神様に成っちまったんだ?
「(蛇神様、どうか私めに繁栄の時を今しばらくお与えください!)」
(念話的なものなのか?すごいな!俺からも質問とかできるのかなぁ。)
脳波を電波のように送るイメージで、思いと考えを伝えるのだ!
「(コホン...あー、すまんな、起きたばかりで騒ぎになるとは思わなかったのだ)」
無難な返答で、先ずは相手を怖がらせないようにしなくては。伝わって居ると良いのだが...
「(…あ、いえ。大丈夫です。)」
ヨシヨシ、出だしは上々...だよな?
返答が来たと言う事は、こちらの質問が伝わったと言う事だろう。
「(うむ。して、俺が眠ってからどれ程の時が流れたのだ?)」
なんか偉そうな口調になってしまう。でも、威厳って大事だよね。神様にはそれ相応の答え方があるってもんよ。
「(はい、おおよそ15日といったところです。)」
(なにぃ!2週間ちょっとだとぉ!そんな短時間でローマが出来るわけないだろ!)
「(お、お鎮まりください!何か気に触るような事をしてしまいましたでしょうか?)」
杖を持ったネズミがプルプル震えだしてしまった。い、いかん。彼女には俺の感情の変化が、伝わってしまうようだ。冷静に、落ち着くんだ。ふぅ〜。
「(あ〜、すまんな、少し取り乱してしまった…それにしても、どうやって2週間でここまで発展したのだ?)」
1番の謎である。RTSを間近で見れてるみたいで楽しいのだが、ゲームではなく現実なので、信じがたい。
「(コレも全て、蛇神様のお陰です。あなた様の皮を食す事により、我々は、知恵と魔力を手に入れることができたのです。)」
俺の皮にそんな効果が、っていうか、垢を煎じて飲ませるみたいな事で知恵が付いて良いのか?
「(ふむ、原理は分からぬが、この発展具合を見るからに、本当の事であるようだな。)」
って答えるしかないよね!?
心の動揺を抑えながら、感心してるように周りを見ながら答える。すると少し緊張したような様子で杖っ娘が聞いてきた。
「(蛇神様、お起きになられたという事は...何かなさるんですか?)」
まぁ、食べられるとか、殺されるとか、そんなことを考えているのだろう。まぁ、全然違う事をしたいんだけどね。
「(その通りだ。まずは、俺の脱皮を手伝ってもらおう。話はそれからだ。)」
それだけ言って、返事を待たずに、大通りへと出る。
俺が動き出すのと同時に、杖っ娘が周りに何かを叫んでいた。すると、衛兵達が矛を引いて道を開けてくれた。すごい!息ぴったり。いやぁ〜、魔法がある世界だったか。生物が少し変だから、もしかしたらと思っていたんだけどね、別世界かぁ。
そんな事を考えながら体全部を家…というか、祠?から出し、大道路に伸びる。
「(さて、それではやってもらおうか)」
杖っ娘(今後は巫女と呼ぶ)は、ビクッと肩を震わせた後、こちらを向き大きくうなずく。そして、何かを叫ぶと2匹のネズミたちが出てきた。
もしかしたら、この三匹があの時のネズミたちかもしれない。聞いてみれば分かる事だと思い、今度は3匹に念を送ってみる。
「(...もしや、2週間前に俺のところに来た3人組か?)」
3匹とも、ビクッと反応してコクコクと頷く。どうしよう、カワイイ。
とりあえず、よろしく伝えてのんびり皮を剥いでもらうか。
「(ふむ...そう緊張せずともよい。我よりきれいに皮を剥いでくれるのだから、感謝こそすれ、嫌うことなどありはせん。)」
それに、脱皮の皮も有効利用してくれてるみたいだしね。知恵がつくのは良いことだけど、それを使って謀反を起こされないかが心配だな。
3匹ともが顔を見合せた後、丁寧にそれでいて手早く皮を剥いでくれた。おかげで、自分でやるよりも相当早くに終わってしまった。
脱皮した後は、いつも以上に運動をしておいた。寝ている間、ずっとトグロを巻いていたからだ。寝返りを打つことが許されない空間に居たのだから、体のところどころが、凝ってしまっていた。
凝りを解したら、2週間ぶりの食事に出かけることにする。2週間前に持ってきた生き物を、狩りに行くことを伝え、洞窟の道に出る。ネズミの郷...町入り口にはネズミ三匹が肩車したぐらいの高さ、約30センチの石壁が築かれていた。小石ばかりを積み重ねても、重さ的に人間とか来た日にゃ意味ないな。とか考えながら門をくぐる。ミニチュアな町とか好きだから良いんだけどね。門をくぐると、さっきの巫女さんたちが城壁の上でお見送りをしてくれていた。
(帰る場所があるのは良いな。)
鼻歌混じりに通路を抜けると一瞬の浮遊感の後、見たこともない場所に居た。
(ん~、ココ何所?)
正面には階段らしきものしか見えないが、どこからともなく声が聞こえてきた。
「(よく集まってくれた!みなのもろ!)」
次回も土日更新です