2話_食べる子は育つ
(か、かゆい!)
激しい痒みに襲われ、意識を覚醒させる。すると、体がダブっているように見えた。
(どうなってんだ?)
体を動かしてみると、ダブっている体は、皮だということが分かった。近くの壁にある、突起などを利用し皮を脱いでいく。感覚的には服っぽいのだが、どうにも痒くて仕方がない。
(服の繊維が肌に合ってない感じだな)
そんな感想と共に脱皮を終える。昨日食べた蝙蝠は、半分くらいの大きさになっていた。そんなおなかを見て、燃費の悪さは、生まれ変わっても治らない。と、ため息を吐いた。
(赤ちゃんだし、多少はネ!)
気を取り直して、二本目の登り道を上る。因みに一本目は、豚蝙蝠街道という名前を付けることにする。
二本目の道を登りきると、特に何もない大きな空洞になっていた、目につくものといえば、壁から飛び出した水晶っぽいモノが、いくつもあるぐらいだ。蛇の目には分からないが、もしかしたら、この水晶は何か特別なものかもしれない。水晶街道と命名する。
この二本の登り道の間に、平坦な道と下り道があるのだが、下り道方面からは、偶に奇妙な鳴き声が聞こえてくるので、近づかずにいようとおもう。
平坦な道はまっすぐ行くと、40分ほどで行き止まりにぶつかった。特に何かがあるわけでもないので、大人になった時の寝床として候補に入れておこう。行きと帰りで80分とか、かなりの重労働だが大きくなればそれも苦にならないだろう...多分。
取り合えず、円になってるであろうこの場所の半分は、確認できた。残りの半分を確認する前に、蝙蝠をパクつきに行くことにする。
豚蝙蝠街道に入ってしばらくすると、ちょうどお昼時なのか、蝙蝠たちがコバエに群がっていた。そのうちの一匹を噛みついて捕まえ、そのまま絞める
。
(今日、這いずり周ったおかげで、体の使い方が分かってきたかも)
体に慣れ始めたので、ご機嫌に蝙蝠を丸呑みする。昨日よりも早めに飲み込めたのも、慣れてきた証拠かもしれない、と思ったが、どうやら体が昨日より二回りぐらいでかくなっているようだった。それでも、蝙蝠のサイズが大岩から岩になっただけでまだまだでかい。
池の水を少し飲んでから帰ることにした。
帰宅後、すぐに寝るもアッという間に痒みで起きてしまった。
(脱皮早くね?)
それだけスクスク成長していると思えばいいのだろうか。そう思考していても痒みが治るはずもないので、すぐに脱皮を始める。器用に自分の皮から脱出すると、寝床の皮が二つになって少し手狭に感じる。
(ポイ捨てしても、きっとネズミが食べてくれるから汚れないよね!)
そう思い、通路に脱皮した皮を投げ捨てる。きれいになった寝床で綺麗にトグロを巻いてみる。思った以上に綺麗にできている。ただ、おなかの出っ張りが少し気になるが。前回の蝙蝠は、おなかのどのあたりにいるのかわからなくなっていた。
本当に燃費が悪い...いや、蛇の赤子とは、こんなものかもしれない。
脱皮するときの作業で、少し目が覚めてしまった俺は、噛みつくことと、締め付けること以外の攻撃方法を考えた結果、自分の下半身をしならせて鞭のように打つ攻撃方法を思いつく。
ヒュンッ
風切り音が気持ちいいが、打った体の部位が少しヒリヒリする。柔らかい豚蝙蝠や、ネズミならいいかもしれないが、亀とかの硬い物には使えなさそうである。後は、体を固定する関係上リーチが短い。
次に豚蝙蝠を落とす時に、実戦での有効性を確認しようと決め、もう一度眠りについた。
どれくらい経ったか分からないが、腹の減りに気がついて目が覚めた。体を動かして、寝起きの運動をしていると、この寝床が、自分の体で埋め尽くされていることに気がついた。
(...1晩で成長し過ぎだろ)
蛇を飼った事など無いし、こういう種類の蛇なのかもしれない。そもそも、大きくなって大変なことなど特に無いからコレで良しとした。
まぁ、強いて言えば、大きくなる分食べる量が増すことぐらいが、悪い事に分類されるのだろうか...
腹が減っては何とやら、先ずは豚蝙蝠で腹ごしらえをする事に。
地面に降りると、昨夜ポイ捨てした俺の皮が綺麗さっぱりなくなっていた。予想通りネズミ達が回収したのだろうと、ゆっくり豚蝙蝠街道に向かった