1話_始まる洞窟暮らし
いきなり、10日以上空けて申し訳ありません。
其処は、薄っすらと光る鉱石が、壁に埋まっている、幻想的な洞窟だった。蛇として生まれ変わった俺は、自分に見えている景色に慣れることから始めた。なにせ、見えるもの殆どが青紫色だからね。
ただ、幸運な事もあった。体の動かし方は、本能的に理解できたし、辺りには、キノコが成っていたので、最初の食べ物には困らなさそうなことである。
だが、そもそも肉食の蛇は、キノコだけでは生きていけないので、いずれはネズミなども食べなければ、と考えると、少し複雑な心境になる。
噂をすれば、そのねずみが現れた。
(...ここ日本じゃないな)
俺が抱いた感想はそれだったら。美味しそうとか思わなくて良かった。なにせ、そのネズミの手足が、カエルのような形をしていたからだ。
(不釣り合いすぎる...)
鳴き声はネズミ、動きはカエル。匂いは、動物臭と仄かにアンモニア臭がする。いつかこいつを食べるのかと思うと、気が重い。
取り敢えず、水場を探して這いずり回ることにする
20分ぐらい壁沿いを這いずっていると、元の場所に戻ってきた。どうやら今いる場所は環状道路みたく、ドーナツ型の空洞に、四方八方から道が繋がっているようだ。
その中にも、上に行く道と下に行く道、横に伸びる道があった。横に伸びる道の1つから、ほんの少しだけ風が流れてきてるのが分かる。多分外に繋がっているのだろう。
上に登る道が二本しか無かったから、先にそちらを探検してみる。
(うわぁ...)
天井に、ビッシリと蝙蝠が止まっており、赤く見える事もあって、リンゴが成っている様だった。
ここの蝙蝠たちは、リンゴの様に丸々と太っており、時々「ブフォ」と豚のような声を上げている。
(さっきのネズミよりはマシかぁ...食べるならこっちがいいなぁ)
豚声とその姿から、こちらのほうが、まだ食欲をそそられる。
もう少し奥に入ると、小さな池のようなものが広がっており、小さいハエのようなものが飛んでいたり、苔が光っていたりする場所がある以外、特にめぼしいところは無かった。
帰ろうかと思ったとき、蝙蝠の一匹が、ハエの群れているところに飛び込もうとして、目の前を通過する飛行の仕方をしていた。
どんな味がするのか気になって、思わずかぶりついてしまった。
(...しまった!)
本能のままに、牙を蝙蝠に突き刺していた。もう少し警戒しておいた方が良かったかもしれないが後の祭りである。
ブヒィッ
と豚のような鳴き声を上げて、徐々に動かなくなっていく蝙蝠。その間も常に牙はさしっぱで、長い胴体を絡めて動けなくしていく。
(...弱肉強食なんじゃ、すまんな。)
動かなくなった蝙蝠を前に黙祷をささげて、感謝と共に口に入れる。
(少し大きすぎたか?)
一口で入らないどころか、大岩かと思う大きさの蝙蝠にかみつき、ゆっくり飲み込んでいく。
味は特にしなかった。匂いも特にない。触感はかなりいい。タコのようにぶにょぶにょしていて、正直いつまでも噛んでいたい感触だ。
と、触感を堪能していたら、もうおなかに収まってしまった。
はっきり言おう、かなり重たい。自分の何倍もある蝙蝠をひと飲みしたのだから、重たいのは当たり前だが、そもそも、腹がはち切れないのに驚いた。だが、全然動けない。それでも頑張って這いずって生まれた場所まで帰った。行はよいよい帰りは辛いとはまさにこのことである。
生まれた場所は、洞窟の壁面中央より下にあるくぼみで、少し頑張ってよじ登る。
(もう無理...疲れた...)
生まれて初めての大冒険、行き50分、帰り1時間半。当分は食料を食べなくても生きていけそうである。
食後の休憩に、少し寝ることにした。カエルのようなネズミに、豚みたいに鳴く太った蝙蝠。一体どこにこんな生物がいたのだろうか。
そんなことを考えている間に、睡魔に襲われ眠りついた。