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第3章 初めての東京生活(小秋さとみ)



 「はぁー・・・・。」


夜の空気を大きく吸い込み、今日一日の疲れを逃すように大きく息を吐く。


初めての東京生活は二日前に始まったばかりで、まだ夜の明るさに慣れない。


おとといから住み始めたアパートは予備校から徒歩二十分の所にあり、遠いとも近いとも言えない距離だが、アパートからも予備校からも、いや、どこから歩いてもコンビニは五分とかからないところにやっぱり都会を感じる。


そして二十二時過ぎに女子が一人で歩いていてもあまり危険を感じないところが田舎者には驚きだ。


 アパートの玄関にあるオートロックを解除し、階段を登る。二階の一番奥に向かい、鍵を開け、中に入る。気力でなんとか靴を脱ぎ、カバンを置くと同時に座り込んでしまった。


 「あぁ・・・。緊張した・・。よくやったよ私・・。本当に怖かった。」


呼吸が速くなっていることに気づく。恐怖から自分を守るように膝を両手で抱え、心を落ち着けようと目をつむる。


声を発することで少しストレス発散になる気がして私はよく独り言を言うが、今日は声が震えてうまく話せない。


 「どうしてこんな風になってしまったんだろう。・・・・しかも初日からこんなに緊張しててこれから持つのかな・・。心配だなぁ・・。私大丈夫かな・・。でも・・・・とりあえず今日は上手くいったよね? 誰にも迷惑掛けてないよね? 近藤君と全部の講習を一緒に受けるのが本当に心配だけど・・・・今日は・・なんとかなってるんだよね? 近藤君、気づいてないよね? 」


誰かに相談するわけではなくても、気持ちを声に出すとやっぱり少し緊張がほぐれるような、何かから解放されるような感覚になる。


少し落ち着いたところで、さっき買ったクリームパスタをレンジにかけ、待っている間に部屋着に着替える。


 最近は疲れると無性に炭酸が飲みたくなるので、入居日に親に買ってもらったコーラをコップに注いで一気に飲んだ。


 「っあぁーー美味しい。」


仕事終わりのオジサマがビールを飲んで声を漏らすように、私もコーラを飲む度いつもやってしまう。


これが本当にスカッとする。


私はありがたいことに可愛いと思われることが多い。それで妬まれることもあったが、このオヤジっぷりを知って仲良くなった子もいるくらい女子受けのいいギャップだ。


ただ可愛いホワホワした存在でいるのではなく、可愛くない一面を見せることで”女から見た敵“感が弱まるのだろう。


わざとではないし、寧ろこれが素なのだが、自分のオヤジらしさには妬まれ防止にも笑いを誘うのにもよく助けられる。



チン!



 クリームパスタを取り出し、勉強机に置く。


小さなちゃぶ台でも用意しようかと思ったのだが、部屋が狭いため机は勉強用のもののみで生活することにした。


あぁー美味しいなぁクリームパスタ。何か食べるのって本当に幸せ・・。こんな平和な時間が続けばいいのにと、本気で思ってしまう自分がいる。


明日からまた戦いだ・・・・。


あぁ、また不安が強くなる・・。


でも・・


でも食事くらい楽しい時間にしなきゃ。悩み事は一旦忘れよう。


気を取り直し、コンビニの美味しいパスタをほおばった。









 「んっ・・・・んーー。」


大きく体を伸ばし、目を開けるとなんだか左目だけ眩しい。


きっと何か高い建物が影を作り、たまたま右目にだけ朝日が当たっていないんだろう。


私の住むアパートはすぐ近くにビルがいくつかあり、窓の外見てもあんまり心地いいものではない。心地よくないなんて思っちゃ良くないか。


でも今までは広い空とおばあちゃんの畑が見えるのが当たり前で、きっと無意識のうちに癒されていたんだろうな。


あれ、時間大丈夫かな? 



ジリリリリリリ!!



見ようとしたところでちょうど時計が六時半を知らせてくれた。


前の私なら、お! いい時間にスッキリ起きれた! なんて思いそうな目の覚め方だったが、今の私にそんな爽やかな思考はできない。


いや、できないこともないけど・・・・。


緊張して眠りが浅いまま目が覚めてしまったんだろうなという感じ。


まぁいいんだ。少なくとも一人でいる時は、感じたままの気持ちを潰すことなく大事にしたいから。





 予備校に着き、自習室へ向かおうとするとトイレから人が出てきた。


 「お! おはようさとみちゃん。」


 「あ、うん・・おはよう。」


しまった。


まさか近藤君だとは思わなかった。


心の準備ができてないとなんだか挨拶って上手くできない。


しかも・・・・。


 近藤君が気になったがとりあえず自習室に入る。


あ・・・・昨日私が座った席、近藤君が使ってる。


なんだかなんとも言えない気持ちになる。


近藤君の二列後ろに座ろうとしたが、もう教室に行って席を取ることにした。





 「さとみちゃんってもしかして一番前の左の席好き?」


四講目が終わってすぐ、近藤君がニコニコしながら言う。


 「え・・・・うーん好き・・なのかなぁ。」


 「やっぱり。昨日今日とどの教室でもそこだったもんね。実は俺もなんだ。」


 「え、そうなの! ごめんね、私席取っちゃったみたいで。」


 「いやいや気にしないでよ。俺もいっつもそこ座ってたからさー、合うなぁと思って。」


朝の自習室で、私が座ったところに座りたかったのかななんて思ってしまった自分が恥ずかしい。


 「じゃあ俺さとみちゃんの隣を指定席にしよっかなーなんて。嫌かな?」


一瞬戸惑う。私の隣になんて座ったら・・・・。


 「うーん、何でもいいよ。わ、私が決めることじゃないし。」


 「俺ねー、分かるよ。さとみちゃんちょっと困った顔してる。じゃあしばらくはここだなー。」


と言って二列目の右、さとみの斜め後ろを指差す。


 「さとみちゃんの隣を許してもらえるように俺頑張るわ!」


これは・・好意とみていいいのかな? 


それとも気さくな性格の人には普通なのかな? ・・・・っていうか冗談だよね! 


そうそう、冗談きっと。


それに・・こんなこと考えてる場合じゃない。


隣に来て欲しいなんて・・・・そんなのダメだ。受験勉強のために来てるんだし、第一私は普通じゃ・・うっ!


 「おっはよーうさとみちゃん! びっくりしたでしょー。」


誰かに押され振り向くと大岩さくらちゃんだった。昨日の四講目の英語で一緒だった、同い年の子だ。


 「あ、さくらちゃん、おはよう。」


 「お昼今日も一緒に食べていい?」


 「うん。どこにしよっか。」


休憩室を見渡すとそれなりに席が埋まっている。


 「あれ、あそこの机誰も座ってないよね?」


 「あ、そうだね。そこにしよっか。」


たまたま机が丸ごと空いていたので窓側に向かい合わせで座る。


すると後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。


一回パッと後ろを振り返り、何事もなかったかのように横を見つめ、さも横が見たかったかのように振る舞った。


真後ろには近藤君と女の人が一緒に座っている。たしか名前は・・・・美姫さん。


近藤君は美姫さんのことを呼び捨てで呼び、昨日今日と話しているのを何回か見た。


美姫さんと話している時の近藤君の声はなんというか・・・・いい意味で気の抜けたような、肩の力が降りたような感じがする。


気のせいかな。


でもなんとなく素で楽しんでるような気がして、少し気になってしまう。


男の人は結構肉付きのいい人やぽっちゃりが好きなんて言うけど、やっぱりそうなのかな。


私はやや細めで、下手すると小学生のようなストンとした体型になってしまう。


それがコンプレックスなのもあって、いい意味でかなりグラマラスな体型の美姫さんが少し羨ましくもあった。





 お昼休憩を終え、休憩室から出て行く人で出口が詰まっている。少し待っていると誰かが近づく気配がした。


 「あれ? さとみちゃんここにいたの? なんだよー俺に声かけてよー。」


 「そう、お昼ずっとここにいたんだ。なんか私男の子に声かけるの得意じゃなくて・・。」


 「そんなこと言ったら俺ガンガン話しかけちゃうぞー。」


 「ふふっ。」


さっと振り返ってさくらちゃんに話しかけようとする。


あぁーなんか避けてるように思われたかなぁ。変なタイミングで話切っちゃったよね。


講習が全て一緒で、仲良くしようとしてくれて、しかも異性となるとどうしても意識しすぎてしまう。


中高と女子校だった私にとって男友達という概念はハードルが高い。急に、いいかも・・・・となってしまうのだ。


 「あ、そろそろ行かないとマズイよ!」


あわててさくらちゃんが立ち上がり、それにつられてスマホをポケットにしまった。


声が聞こえたのか周りの残っていた人たちも一斉に出て行き、数秒で休憩室はガラガラになった。





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