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どうやら俺が動ける範囲を示しているようだ。
俺は宇崎をにらみつけた。
「嫌だといったら?」
宇崎は静かに、本当に静かに俺に近づき、目の前にたった。
――!
腕に痛みが走った。
かなり強い痛みだ。
右腕の手首の近くに、棒状の痣が出来ていた。
宇崎が手にした木刀で俺を叩いたのは間違いない。
間違いないのだが、その動きは俺には全くと言っていいほど見えなかった。
「僕と愛の関係を調べたのなら、僕が学生では全国でもトップクラスの剣術の使い手であるということは、もう知っているだろう。それも二刀流の。小刀は相手が近くにいるときは、長刀よりも使いやすいんだ。片手で素早く、自由自在に動かせるからね。素人の君には、その動きはまるで見えなかったはずだ。で、もう一度言う。下がれ」
俺は仕方なく下がった。
宇崎は円の内側にトレーを置くと、俺の斜め後ろを小刀で指した。
「トイレ、洗面所、風呂はそこだ。好きに使うといい」
壁と同じくくすんだ灰色をしていたので気付かなかったが、そこにはドアがあった。
「下着などは洗面所にあるかごの中に入れて、円の外側に出しておいてくれ。食べ終わった食器なんかも、その横にでも置いてくれればいい。食事は着替えを持ってきたときに、一緒に持ってくる。今日はもう遅いから晩飯だけだが、明日からは朝昼夕食を一度持ってくるから、それを三回に分けて食べるといい。寝るところはそこのベッドだ。横に小さな冷蔵庫がある。飲み物しかないが、自由に飲んでくれ」