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7話が短いのでもう一本上げます
(住宅街のはずなのに妙に物静かだな)
俺は川神さんの指示で目撃報告の高かった路地の近くに待機しているもだが、辺りは闇に包まれやけに物静かだ。ここは本当に住宅街なのかと思ってしまう。
『あーもしもし?聞こえるか?』
頭に付けたヘッドホンタイプの通信機器から川神さんの声が聞こえる。
「聞こえてます」
ティトが反応した。
「OKです」
その後、ティアが返事をする。
「特に問題はないです」
そして最後に俺が返事を返す。
『それでは、状況を開始する!気を抜くなよ』
俺は路地に入り歩き出す。路地と言っても意外と広く見渡が良い、なんでティアを援護で連れてきたか分かる気がする。
ちなみに作戦内容はざっくりしたもので俺が目撃情報の多い路地を歩く。路地はだいたい一キロ程度、結構長い路地だ。ここから少し離れたところに、その路地が見渡せるという廃学生寮があるのでティアはそこで索敵や不意打ち防止などサポートしてくれる。ティトはティアがこちらに集中しているうちに敵に背後を取られないようにするため、ティアの見張り役をする。
暗い道を街灯の光を頼り歩いているのだが、街灯が疎らになりだんだん暗い方に向かって行く、闇に吸い込まれていくみたいだ。
(そういえば三年前も……)
不意に川神さんと出会った頃のことを思い出した。あの人と出会ったのもこんな場所だった。あの頃に川神さんに出会ったから今の俺があるというものであり、あれでもあの人は一応、恩人である。
『矯平、前方で人影注意して!』
刀袋から諒子から受け取った刀をだし、いつでも抜刀できるような状態でさらに前に進む。ちなみに以前、抜刀しなかったせいで仕事をしくじったことがあるので、任務中は刀を抜くようにしている。
前方に人影っていう割には何だかいやに気配が感じられない、殺気とか感じてもいいはずなんだけどな……気配に気を配りながら前進していくと、倒れている生徒を発見した。
「おい!大丈夫か!」
近くによると覆面を被った男だった。これって報告にあった通り魔じゃないか?
「ティア、一応ターゲットは発見した、でも戦死してる……」
『え?それってどういう――嬌平、また前方から二人接近してきてるわ!』
コイツを倒したヤツか?警戒しながら待ち構える。
足音が徐々に近づいてくる……
「助けて!」
「うぉっ!?」
大きな衝撃を感じて倒れそうになるがしっかりと踏ん張ったおかげで辛うじてそのまま倒れることは防いだ。
「なんだよ……」
視線を少し下に落とすと、街灯の光に照らされの声の正体がはっきりした。象牙のような白い髪エメラルドのように輝く澄んだ碧眼、そして陶磁器のように白っぽい肌。体はティアほどではないが華奢で、まさにお人形みたいという表現がぴったり当てはまるような少女だった。
「どうした?」
そう聞くが少女は戦死してしまったようで気絶していた。
「なぁ、ティア、これってさ――」
『矯平!危ない!』
その声を聞き、少女を抱だいたまま右横へ飛ぶ……視線をさっき立っていた場所に向けると、光輝く斬撃が通過していく。俺はそのまま空中で体を捻って背中から着地する。
「な……なんだよ!今の!」
そしてAR‐50の発砲音が聞こえるが……
『ダメ!全弾切り落とされた。接近戦で何とかして、出来る限りサポートはするから』
「分かった……」
少女を路地の隅に座らせ、抜刀する。やはりこの刀を抜くと変な感じがする――本当にコレ使っても大丈夫なのか?
「いやぁ、折角ホンモノを見つけたのに邪魔が入ったッスね」
闇の中から一人の少女が現れる……見事なゴス衣装で。見た目からして中学生っぽいけど、なんかすごいのが出てきた。
「アンタがこの通り魔をやったのか?」
「通り魔……ソイツッスか?邪魔なので始末したッスよ」
「なんでだ?」
「あっちから来たからしょうがないッスよ」
うん、それは当たり前の対応だな。
「まぁ、そのことは置いといて。お前、なんでこの女の子を追ってた?」
「それは……」
その瞬間ゴス衣装の少女の顔が急に歪んだ笑顔に変わった。
「上からの命令ッスよ!」
ゴス衣装の少女は先ほど俺に飛び込んできた少女の方を見る。
「なるほどね……」
「だから一般人はどいて欲しいッス」
俺は小さくため息をつき、持っていた妖刀の剣先を下へ向けるような構えをとり戦闘態勢に入る。この状態を傍から見ればやる気がないと思われそうだ。
「悪いな、俺は一般生徒だけど、一般人じゃないんだよな」
「アンタ、面白いッスね」
少女は持っていた打刀の切っ先を上に向け右耳の横で刀を静止させる。
(攻撃、防御とも厄介だな)
あの構えには刀を振り上げるモーションがないためロスが少なく、守りも堅い。
「本当に闘う(やる)んッスか?」
俺が鞘に刀身を納めない様子を見て察したのか、ゴス衣装の少女は斬りかかってくる。
斬り上げるように刀を動かし上から振り下ろされた刀を弾き、反動で大きく空いた懐に入り右に刀身を薙ぐが……暗い中に小さな光が生み出され、あと数センチのところで少女の打刀に阻まれる。どうやら斬り込んだ際に、少女は後ろに体を引きながら肩を回し、俺の刀をギリギリのところで止めたらしい。だがそこでずっと競り合ってやるような優しい人間ではないので、空いている左手で掌底をぶち込む。踏込をしていないせいであまり強くは無いだろうが、バランスを崩すことには成功した様で少女が少し後ずさりする。それを逃がさず右手を斜め上に引き、刀を振り下ろして斬撃を叩き込むが――
その状態で止められるのかよ!
――少女は首を少し左に傾けそして手首の辺りで刀を側面から挟み込み攻撃を防ぐ。真剣白刃取りなんて久々に見たななどと思いつつも腹部に向けて蹴りを入れ少女を蹴り飛ばす。
『なに女の子追いつめてるのよ』
「いや、相手が強いんだからちょっとずつ崩すしかないだろ」
自分でやっておいて思うのだが、これって傍から見るとただの苛めだよな。
「ってか、なんでお前は援護射撃しないんだよ」
『誤射していいの?』
「いい訳ないだろ!?」
対物狙撃銃で撃たれたらスナイパー恐怖症になりかねん。
「待つッス、その黒い刀身……その刀、黒巫女じゃないッスか?」
「なんだ、お前この刀を知ってるのか?」
白刃取りした時に刀の情報を読み取ったのか?でもこれだけ魔力垂れ流ししてる妖刀ならわかるか?
「それって騎士の……いや、なんでもないッス」
騎士ね……面白い事言うな……とりあえずこの刀は黒巫女ということ、この名前を付けたご先祖にはさぞかしネーミングセンスがないということが分かったが。
「なんで……黒巫女がこんなところに……これも運命みたいなもんッスか」
「は?」
不意を突かれてはっとしていると、腹部に衝撃が加わった。威力が強かったのか体の力が抜けて体のバランスが崩れ、手から黒巫女が抜け落ちる。ヤバいと思い、顔の前で腕を交差させると案の定そこに蹴りが飛んでくる。一撃一撃が女が繰り出したと思えないくらい重い……刀を使うより普通に格闘技で闘うほうが強いだろ。でも、とりあえず動きは止めたぞ――
「ティア、撃て(やれ)」
――ヘッドショットで一発でキメてくれるだろう。
『纏したから避けてね』
「え?」
銃声が聞こえたので急いで落ちている黒巫女の刀身を足の引っかけて、身を引き後ろに下がると先ほどまでいた場所に弾が着弾し、激しい爆発が起こり酷い砂煙が立つ。危なかった、俺まで吹き飛ぶ所だった。
『うわぁ、矯平動きがキモイわよ』
「うるさい、纏するなら初めから言えよ」
俺も自分でやった行為に驚く。人間って追いつめられると予想外の行動取れるんだな。
これが銃で纏を行う場合の大きな欠点である。リロードは要らず威力が強い代わりに攻撃範囲が広い、そのせいで銃撃戦で纏を使うことはあまりない……そういう意味では近接武器が扱いやすかったりする。