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扉を開けると、中には何もなく本当に闘技場という雰囲気、言うなれば無駄なものがない。しかし、そのほかの構造が木造で外見そのまま体育館で耐久性が心配になる。
「あ、ちょっと君たち、結界を張り直すので、手伝ってください」
「「「「分かりました」」」」
結界を張り終わる頃にはみんな集まっていた。
(改めて思ったけど、制服着て武器持ってる集団ってシュールだな)
服で思い出したのだが、服は特殊な糸――術糸でできていて、破れたところが勝手に修復する学生思いの仕様になっている。確かに普通の服だったら、服代だけで家計に大打撃になりそうだしな。
「それではみなさん、授業を始めます。まずは纏について実技練習をしたいと思います」
(纏か、もうできるんだけどな……)
纏とはその名の通り、纏うこと――武器で魔術を制御する技術。普通に魔術を唱えることも可能だが、それだけでは勝てない。利点としては銃火器の弾を発射する代わりに魔術弾を放つことが出来る……つまり弾切れがない。接近武器に関しても、斬りつけたときに発生するダメージの量が格段に違う。そして最大の利点が、詠唱時間がないことだ。大体の魔術は魔術が出るまでにちょっとしたタイムラグが出てしまうのだが、武器に魔力を込めるだけなのでラグがない。
「お、結構簡単にできる」
「そうだね、もっと難しいと思ってたのに……」
実は難しそうに見えて、魔力供給のコツをつかんでしまえばすぐにできる。
うちのクラスはみんな優秀なのか、ほとんどのクラスメイトが10分足らずで習得してしまった。
「それでは、ほとんどの人が出来たみたいなので、代表の人に戦闘してもらいます」
草延先生は笑顔を作った。
「それじゃ、最初は委員長と副委員長にお願いしましょうか」
姫条と副委員長の島田喜輔は中央に、俺らは建物の端の方に散らばった。
「公的戦闘なのでみなさん本気で戦ってください」
学校、学区大会などの授業や大会の類いの戦闘では、勝敗に関わらず戦学の単位が貰える。しかし喧嘩などの私的戦闘に関しては勝てば単位が貰えるが、負けると単位が減る。しかも勝敗なんてヤマかけれバレないだろうと思っていたが、学期末の検査で正確な数値が出てしまうんだな、コレが。
「それでは戦闘開始!」
――その瞬間、刀と刀がぶつかり合い甲高い音を響かせる。
島田はどこにでも売ってそうな普通の脇差、姫条は刃長が九十センチ近くある太刀――マジかよ、なんで太刀であんな攻撃スピード出せるんだ!?普通はもうちょっと動きが鈍るだろ!
そして鍔迫り合いになったまま、姫条が予想外の行動に出る。
「剣技、雷斬波」
その声と同時に、島田が消えた――いや、吹き飛んだのか!闘技場の隅を見ると島田は壁にもたれかかっていた。
剣技、雷斬波――刀身に纏させた電撃を、斬撃として飛ばす技だった気がするんだが……あの距離でやるヤツは初めて見たぞ。
「ってか、もうダウンかよ!」
島田は一発で戦死したらしく、起き上がらなかった。
(でも、あの距離で撃波食らったら、それはそうなるか?)
「あらぁ!」
先生もびっくりしてるぞ。
「誰か副委員長さんを医務室に連れて行ってあげてください」
実は、都合のいいことに傷の回復や戦死状態から復帰させるための回復薬がある。回復魔法はないわけではないんだが、使える生徒が少ない。
「あ、俺が運んできます」
名乗りを上げたのは匠だった。島田を軽々と担いで保健室へ向かった。
「早く終わってしまったので、誰か代わり姫条さんと戦ってくれる人」
切り替え早すぎだろ、とりあえずめんどうだから、誰かやってくれるの待つか。しかし、さすがに今の見てみんな怖気づいたようで、誰も立候補しない。
確かに剣技一発で敵をノックアウトする姿を見たら誰でもビビるか……
「先生、私から指名しても構わないでしょう?」
「はあ、そうですね。誰も立候補しないので、本人に決めてもらいましょう」
本人からの指名か、選ばれる可哀想な相手は誰だろ「黒木君」うなぁ……ちょっとまて、
「なんで俺なんだよ!?」
「今朝の武田君にナイフを構えるときのスピードが、ほかの人と明らかに違ったので」
しまった、いつもの癖でナイフの早抜きしちまった。諸事情で小さいころから、刃物の扱い方をみっちり叩き込まれてせいで、抑えてるつもりなんだがたまに出るんだよ。
「なるほどね……わかったよ」
持ってきた刀袋を背負って、ダラダラと歩く。
「先生、もう開始していいですよ」
「そ、そうですか?戦闘開始!」
「それじゃ、行きますよ!」
姫条は刀を右脇にとり切っ先を後ろに下げ、突っ込んでくる。たぶん剣道の脇構えをベースにしたカウンター防御、攻撃の特化した攻撃方法でくるな……
「てやぇっ!」
そして、そのままのスピードを殺さず、太刀を振り下ろしてくる。とりあえずポケットからバタフライナイフを取り出し、切り上げるような形で太刀を弾く。
「抜かないんですか?」
「一応、追い込まれない限りは抜く気はない」
すると姫条が少しムスッとした。怒るなよ、うちの家訓の一条が《むやみに抜刀するべからず》なんだから。
太刀は弾いたが姫条は弾かれた状態から右に薙いでくる。このままナイフ振ったら間に合わない!右手に持っているナイフを刀が通るであろう位置にほおり、それと同時にグリップに向けて左手を動かす。
「なにっ!」
ナイフが弾かれる前にグリップをキャッチし、太刀を受け止める。速いことは速いがやはりエモノが大きいせいですこしラグができてる。
そこから足を払って、姫条をコケさせ、隙をつくり距離を取る。
「小癪なことをしますね」
姫条は腰をさすりながら立ち上がる……あの状態でよく腰から落ちたな。
「こっちからも行くぞ!」
これも授業だから、しっかり受けるか。もちろん授業じゃなかったら、相手が疲れて戦意喪失するか自爆するのを待つだけである。
ナイフを投げ、ナイフを追いかけるように走り、突っ込む。
「投げナイフの後に隙を見て攻撃なんて通用しませんよ」
もちろん、ナイフを弾こうとした、いい反応だけど……
「っ!」
かかった!姫条も気づいたようだが、もう遅い。
ナイフを弾こうとして姫条の手がナイフに触れた瞬間、ナイフが爆発する。
これが纏の応用、いろいろ応用があるのが面白いんだよな。俺の中では、新技の開発ほど楽しいものはない。
そのまま姫条が怯んでいるうちに畳み掛ける。
「黒木流足技、二則」
右足の足刀で脇腹に強烈な横蹴り、そして流れるようにバックキックで顎をとらえ、蹴り上げると、姫条の体が少し浮いて仰向けに倒れる。とりあえず再び距離を取る、間合いを詰められたら一発で終わりそうだからな。
「これなら刀を抜く必要はないな」
やはりダメージがすこし大きかったらしく、弱々しく立ち上がり刀を拾い上げる。
「黒木君がそんなことをするなら、私にも考えがあります」
姫条の構えが変わった。左足を前に出して刀を顔の高さで水平に構え、剣先をこちらに向けてくる。確かこれって、剣道の霞の構えってやつだったよな……
「舐めたようなこと言わせませんよ」