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「うーん、敵の数は千ってやと思いますけど」
廃墟の三階にて作戦会議、緊急事態ということもあり俺と川神さん、晃嘉の三人で行うことになった。
「そうか……矯平、あの仕掛けで何人くらい仕留められる?」
「そうですね、うまく発動できても半分というところですね」
「半分か、残りの五百も何とかなるか?」
「川神さん、このまえ俺らで二百人抜きしたの覚えてないんですか?」
「キョウちゃん、それは聞き捨てならんよ!キョウちゃん歴史に新たな一ページ!」
「そんな自慢できる歴史でもないからな!?」
「とりあえずだ、ここは攻める」
「籠城じゃないのか?矯平にしては珍しいな」
川神さんも晃嘉もかなり驚いているようで目を見開いていた。そんなに驚くことなのか?
「ええ、今回はアレを使おうと思ってるんです」
「キョウちゃんがアレを使うとは珍しい……」
これもそんなに珍しい事じゃないんだけどな……。
「でも、進軍させてよかったのか?」
「うん、とりあえず折角準備した罠は使わんといけなし、挟み撃ちなら僕らの来た方から来るでしょ?どう考えても」
確かに、俺らを挟み撃ちするんだから後方から来るのは当たり前か。
「ただ、敵がどこに陣を張っているかはさすがに分からんけどね」
その時、通信が入った。
『矯平、来たよ――』
「そうか、それじゃ引きつけて仕掛けたトラップを使え」
『了解!』
「来たそうですし、俺らも参戦しますか」
階段を下り、外に出るとすでに交戦が始まっていたようで、銃声が鳴り響いていた。
まったく、引きつけるだけでいいって言ったのに……まぁいいか、潰せるのは今のうち潰しても。
「キョウちゃん上!」
「上?」
上空を見上げると一台のヘリが飛んでいた。最初はティトかティアが操縦しているのかと思ったが廃墟の屋上を見るともう一台ヘリおいてある……ということは!
気が付いた瞬間には銃弾が放たれていた。
「いったん隠れましょう!」
急いで近くの茂みに飛び込み、何とか戦死は免れた。なんとかあのヘリを落とさないと裏を取られると厄介だぞ……。
「川神さん、確かまだRPG持ってますよね?」
「あぁ、それなら置いてきた」
「なんで置いてきたんですか!あれ落とさないとヤバいんですよ!?」
「お前が斬れば問題ないだろ?」
どう考えても問題大ありじゃないか?あの高さまで行けないことはないが結構強引な方法を使うことになるぞ……。
すると晃嘉がバックの中を漁りだし、何かを探している。
「ちょっと待ってね、確かこの辺にあった気がするんやけど――あったわ!」
晃嘉がその手に持っていたのはM26手榴弾と――スリングショット?しかも普通より少し大きくないかソレ?
「晃嘉……それってまさかだと思うが、手動グレネードランチャーをしろと?」
「やるのはキョウちゃんじゃないけどね」
となると、やるのは川神さんか……。
「川神サン、ちょっとこれであのヘリ落としてくれますかね?」
「わかった」
川神さんは晃嘉からM26とスリングショットを受け取ると、ピンのリングを指にはめスリングショットの中央にM26を添えるとゴムを思いっきり引っ張る。
なんか、普通より伸びてないか?あのゴム。
川神さんが茂みから咄嗟に飛び出し、ゴムから手を離すとM26ピンが抜けると共に打ち出され、爆発が起きる前にヘリに到達、そこで火薬に火が回り爆発を起こす。
「マジかよ」
爆弾の爆発するまでの時間、高さや角度、遮蔽物の位置まであのあの一瞬で把握して撃ち出したな。この人の戦闘センスは一級だな。
「僕もさすがにここまで予想してへんかったわ」
すると、コントロールが利かなくなったのか運転手が戦死したのかヘリが落ちてくる――俺らの上に。
「ちょっと落とすところを考えてくださいよ!」
刀袋から黒巫女を取り出し、刀を抜き振り上げる。そこで氷を纏、落ちてきた機体を真っ二つに両断する。
「悪かったな、いちいちそんなこと考えている暇もないのでな」
頼むから考えてください、被害を被るのはアンタの周りの人なんですから。
ここが諒子と川神さんの違いなんだよな、たぶん。諒子は頭がいいから計算して行動するのに対し、川神さんは直感を頼りにして動くタイプだからな。
刀袋に黒巫女をしまい、背中に背負う。
「なんだかんだ言っても、キョウちゃんもいっつも想像の上を行くよね」
「は?なんだよ急に」
「まぁ、気にせんといて」
『矯平?今外で凄い音がした気がするんだけど?』
「ティア、上の敵は任せたぞ」
『へっ?う、うん』
さすがにヘリ一台ってことはないだろう。
三人で先へと進む。十分くらい歩いただろうか、まったく敵と遭遇せず軽いハイキング状態に俺らに諒子からの通信が入った。
『みんな、そろそろトラップ起動するよ!』
そろそろ起動するのか、ここで何人潰せるかで戦況が変わってくるな。
「トラップを起動するみたいですね」
「そうだな、あれだけ準備に手間がかかったんだ、派手だぞ」
話していると、不意に目の前が真っ白になる。
来たな……俺の人生で一番デカいトラップ、大喰らい。
次第に目の前に森の景色が現れてくる。
「凄いな!」
「もうトラップっていうより芸術やね」
遠くにはダイヤモンドのように輝く光の柱。大喰らいの名に似合わぬ、とても綺麗な光であった。
「見とれてないで進むぞ」
川神さんの一言で我に返り、あとに続く。
「白野、どれくらい仕留められた?……そうか、それは豊作だったな」
「どうしたんですか?」
「敵の分隊をほとんど仕留めたそうだ」
分隊か……規模が分からないうちは何とも言えないが、とりあえず失敗はしなかったことを喜んでおくか。
「あそこにいるのってシロちゃんじゃないん?」
晃嘉の指差した方へ視線を移すと、
「クラクラする」
さっきの光のせいで頭がクラクラして歩けないのか、座り込んでいた。
「おい、大丈夫か?」
「キョウ、なんでキョウはクラクラしないの?」
「慣れだ、慣れ」
使い方がわかってるやつだと、俺みたいに近距離で閃光手榴弾を使うのはザラであるため、そのうち慣れてきてしまう。ティアも言っていたが、慣れってのはやっぱり大事だな。
「キョウちゃんどうするん?」
「しょうがない、白雊、ほら」
「うん」
背中に白雊を背負いまた歩き出す。
「キョウちゃんってなんか変なところで紳士的だよね」
「そうか?」
「そうだよ、まったく天然フラグ建築士が」
「フラグ?」
「気にせんといて」
川神さんが目の前で足を止める。
「どうしたんですか?」
「どうやら敵さんのお出ましみたいだ」
背中のバックからM4を取り出す川神さん。もう、そんな前線に来たのか。
すぐ近くまで人影が迫っていた。
「キョウ、大丈夫なの?」
「あぁ、お前背負ったくらいじゃ負けなよ」
「キョウちゃん余裕やねぇ」
晃嘉は笑顔で腰のホルスターからデザートイーグルを取り出す。