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『矯平、前方からまだまだ来るよ』
「まだ来るのかよ……」
これは骨が折れるな。敵の裏に回っても、さすがに廃墟の近くだし守りもいるかとは考えていたがこれは多くないか?晃嘉が敵勢力は五百近いと言っていたが、絶対それ以上いるだろ。
「誰だ!」
「はぁ……またかよ」
刀を抜き、氷を纏。
「そこにいるのは分かって――」
「はいはい、遅い遅い」
後ろに回って首を斬る。
『矯平ってさバカなの?』
「なんだティト、バカとは失礼な」
『いや、どう考えたって今の状態で廃墟に行けばいいのになんでしまっちゃうの?』
「あぁ、癖だから直しようがないんだよ」
纏は意識していればずっと纏わせたままでいられるのだが、以前、刀をすぐ収める癖のあったため纏をすぐ解くようになってしまった。そのまま収めたら鞘が大変なことになるもんな。
『ティトと仲良くしゃべってるのはいいけど、そのままだと鉛玉当たるわよ』
「は?」
上空から銃声がしたかと思ったら、前方で悲鳴が聞こえる。悲鳴のした方に走って行くと、倒れているスナイパー、その近くには何が起きたか分からず呆然としているアサルトライフルを持った敵が四人。
「どうした、撃ってこないのか?」
「クソ!」
挑発されて我に返ったのかフルオートで銃弾を連射してくるが反応がイマイチだな。
銃弾を躱しながら回り込むように走り、弾が切れたところで凍る球を使い四人を攻撃し倒す。
いくらなんでもあっけなさすぎるだろ。
『矯平後ろから来るよ!』
体を右に少し引くと、先ほど体があった場所に刀が振り下ろされる。
「どうやって逃げてきたんだ?」
後ろを振り向くと、先日戦った少女が立っていた。前とは格好が違い戦いやすい格好で来たみたいだな……相変わらずフリフリとかいっぱい付いてるけど。
「ふん、私をなめるなッスよ?」
少女はバックステップで距離を取った。
「別になめちゃいなさ、で俺になんか用か?」
「なんか用かって……アンタと私は敵、戦うのは当たり前じゃないッスか?」
殺気が異様に出てるところから察するに、ただ単に刀を折れれた恨みを晴らしに来ただけだろ。
「そうだな――ティトもう援護は要らない、他のところに回ってくれ」
『いいの?』
「あぁ、ここからは一人で行く」
ヘリが方向を転回し川神さんがいる辺りに戻って行く。
「追い返しちゃっていいんッスか?」
「あぁ、問題ない」
もしかしたらだけど、朱雀さんが言っていた次の段階を使わなきゃいけなくなるかもしれないからな。
「今回は最初から本気でいくッスから、この前みたいにはいかないッスよ」
「そりゃ楽しみだ」
黒巫女を抜き斬りかかる。
「前とは構えが違うッスね」
「当たり前だ、家系的に構えを持たないからな」
斬り上げ攻撃を止め刀を振り払い、攻撃に転じてくる。振り下ろされた刀を右に体を捻り躱し、右に刀を振る。すると少女は刀を支えにし足を持ち上げ刀を下からすくうように、俺の手から黒巫女を蹴り飛ばす。
「前みたいな格好しない方が強いんじゃないのか?」
結構上がったなと思いながら落ちてきた黒巫女をキャッチする。
「あの格好じゃないと戦闘意欲がわかないんッスよ」
「その割には殺気立ってるんじゃないのか?」
少女は振り向き、俺を指さし大声をあげる。
「五月蝿いッスね、実際のところアンタが敵とかどうでもいいんッスよ。この間愛刀をブチ折ってくれたお返しがしたいだけッスよ!」
言いやがった!包み隠さず自分の欲望言いちまったよ……まぁ、それだけあの事が頭にきてるんだな。
「おかげでボスにまた怒られちゃったッスよ」
少女は、以前戦った時のように顔の真横に刀を垂直に立てるような構えをとる。
「さて、それじゃ俺もちょっと本気を出すか、黒木流術式、閃影」
出し惜しみしてる暇なんてないので今回は全力で行かせてもらう。
黒木流術式、これは自分の体全体に魔術を纏わせ戦闘能力を上げる魔術。いわばドーピングの様なものである。他にもいろいろあるらしいが今のところ使えるのはこの閃影だけだな。
刀を振り上げ再び攻撃を仕掛ける。
「どこが本気なのかわかんないッスけど」
そういう事を言うな、俺はこれしか使えないんだから。
オレンジ色の火花を出しながら刃がぶつかり合い、森の中に甲高い金属音が鳴り響かせる。
「剣技、氷斬波」
「剣技、火焔斬波」
距離を取り遠距離型の剣技を使うが相手も同じ手を使って来たため、相手との間合いの中央あたりで術が衝突し爆発を起こす。様子をうかがっていると立ち込める煙の中から少女が飛び出してきた。
「てぇやっ!」
刀を目の前に出して斬撃を防ぎ刀を弾き、隙が出来たところを斬り上げようとするがギリギリのところでバク転で躱されてしまう。そこで追い打ちをかけようと刀を振ろうとするが、こちらを向く瞬間にナイフが3本こちらに飛んでくる。
「あぶねっ!」
まず頭を狙ったナイフをブリッジのように体を思い切り反らせて躱し、ナイフが通りすぎる瞬間に素早く足を持ち上げ、一時的に逆立ちの状態になり腕の力で後ろに跳ぶ。いわば逆ハンドスプリングの様なもの……前にもこんな動きしなかったか?……
まさか俺までこんな回避行動させられるなんて思わなかった……判断ミスってたら顔と足をやられてたな。というか本気を出したにしても規格外に強くなりすぎだろ、変な薬でも飲んだんじゃないのか?
着地しようとしたところ、少女が逆に追い打ちをかけにこちらに向かって走ってくる。これは防げないか?……いや、このまま素直に斬られてたまるかよ!
着地の瞬間に上から刀が振り下ろされる……その刀の側面を右手の拳で外側に押すようにして刀の軌道を無理やり変化させ、それと同時に体左に引いてより刀をから遠ざける。刀を振り切って隙が出来たところを右のハイキックで顔面を狙う――
「これを躱すかよ」
しかし向こうは上半身を反らしキックを難なく躱す。俺は勢いを落とさず右足を振り抜き今度は左足で胴を狙って後ろ回し蹴りを繰り出す。さすがにこれは躱せなかったようで、俺の足は見事に少女の腹部を捕らえる。
「くっ!」
蹴りの衝撃で少し後ろに少女が吹き飛ぶが何とか少女は体勢を立て直し、構え直す。
「黒木流剣技、氷染」
これを当てれば終わるか……刀を振りかざし距離を詰めていき、刀を振り下おろす。
「私はこんなのに騙されるほどアホじゃなッスよ!」
刀と刀がぶつかりあった瞬間、一瞬、相手の刃が氷で包まれたと思ったのだがすぐに氷が蒸発してしまった。
「やっぱり、纏してやがったのか」
「当たり前じゃないッスか」
まぁ、これだけわかりやすく刀に氷纏ってたらわかるか。体勢を整えようと後ろに下がろうとしたとき、
「なんだよ、コレ」
足を何かに押さえつけられていることに気が付いた。足元を見ると木の様なものが足に巻き付いており、いくら足を動かしても抜けることが出来ない。