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それから二日後の今日、十九学区の林間部入口の場所に人が集まってくる、予定時間の五分前には百五十人近くの生徒が集まっていた。
「それじゃ、俺から作戦の説明をする。お前らにやってほしいのはこの森の中にある廃墟まで進軍してほしい――」
この十九学区は自然が豊かな学区である。人数に差があったとしても暗い森の中、相手の戦力も落ちるだろうということで、ここにいるみんなに真正面からぶつかってもらう。とはいっても、他にも作戦をいろいろ用意はしたけどな、一応。
「そして、途中に諒子か姫条から指示があると思う、それにしたがって行動してくれ、以上だ」
すると晃嘉が全員の携帯に地形情報、そして座標を送る。
「そうだ、このカゴからナイトビジョンを持って行ってくれ」
川神さんが目の前にナイトビジョンが山積みのカゴを五つ置いていく、カゴは重みのある音と共に地面に落とされる。よくこんなの持てるな……
「それじゃ、作戦開始だ!」
すると、全員林の中に突撃し、林の中で散らばる。さすが川神さんと晃嘉が借り受けた戦力は凄いな。
「私たちも行くぞ」
感心しながら森を見ていると川神さんに声をかけられる。
「そうですね、諒子、姫条、匠こっちは任せたぞ」
「黒木君は私をなんだと思っているんですか、こっちは任せて早く行ってください」
「そうだな、俺らがいればこっちは全然大丈夫だぜ!」
「矯平こそ、頼んだわよ……」
三人も遅れて森の中へ入って行く。
「それじゃ、行くか」
上空から風を切るような音と共にエンジン音が聞こえ、眩い光が視界を遮る。
「みんな、はしご下ろすよ」
ティトが下ろしたはしごを上り、俺、川神さん、晃嘉はヘリコプターの中に乗り込む。
「でも、ティアの運転だと少し不安だな」
運転席に座っているティアに向けて言葉を投げかける。
「あー何も聞こえないわ、ウチ対して不安なんて言ってる声なんて聞こえない」
「しっかり聞こえてるだろ」
「さて、遊びはこれくらいにして……川神さん、本当にやんなきゃダメなの?」
「当たり前だ、そのためにナイトスコープもサーモスコープも用意したからな」
「それなら運転変わるよ、姉さん」
「そうね、それじゃ頼むわよ」
ティトがバトンタッチでヘリの運転を始め、ティアは奥に立てかけてあるAR‐50を持ってヘリの真ん中……俺らの足元に寝そべってスナイパーライフルを構える。
「少し高度を落とすよ」
ヘリコプターが高度を少し下げていくと陸上でドンパチやっている音が顕著に聞こえてくる。ヘリの窓から下を見ると所々で煙が上がっていたり、爆発物を使ってるのか赤い点がポツポツ見えてくる……戦闘が始まったみたいだな。
「ティア、いくらスコープ使ってるからって誤射とかあるだろ?大丈夫なのか?」
「あぁ、それは無いから大丈夫よ」
「なんでだよ」
いくら腕が良くてもさすがに見分けをつけるのは簡単ではない。これだけドンパチやってるんだ、かなりの混戦状態のはずなのに……
「ほら、覗いてみれば?」
いきなりスコープを投げ渡されたので驚いて落としそうになるが、何とかキャッチする。
「覗いてって……」
スコープを通して外を見るとティアの言ってることがよくわかった。味方のいる側を見るとサーモスコープに体温が表示されない。
「これは一体どういうカラクリだ?」
「川神さんが配ったナイトビジョンに体温を表示しないようにする機能が付いてるの」
ナイトビジョンなんて基本使わないから詳しくは分からないが、普通はそんなチート機能付いてるのか?川神さん、あそこから勝手に持ち出してきただろ、絶対。
「嬌平、そろそろ着くよ」
「そうか、それじゃ行くか」
「そうですね」
近くにあったパラシュート背負い黒巫女の入った刀袋を持ち、ティアが寝そべっている脇に立つ。ここから見ると意外と高いんだな、ココ。
「川神さん、今さらなんですけど、実は――」
「行くぞ!」
背中を押されて、強制的にダイビング開始!
「――俺まだ、うあわぁぁぁぁぁ!」
これはヤバい絶体絶命だぞ。
『どうしたお前らしくもないぞ?』
「俺一回もスカイダイビングなんてしたことないんですけど!」
『そうか……頑張れ』
耳元からは通信機を通じで川神さんの声が聞こえてくる。川神さん、完全に他人事だと思ってるよな!?作戦を考えておいてこんなことを言うのもアレだと思うが、俺の人生でパラシュートを使ったことが一度もない。ロープとか使って滑り下りたことはあるんだけどな……
とりあえず、テレビで見たのをまねて何とかするか。
川神さんのパラシュートを開いたタイミングに合わせて背負っているギアの下部分にある丸い球を引っ張る。
『矯平、森が近くなったらパラシュートを切り離せ。木に引っかかるぞ?』
「わかりました」
なんとか、うまくパラシュートを開けたようで落下スピードが下がった。
『本当に私たち二人で良かったのか?』
「大丈夫だと思いますよ、ただ空中であれだけ派手な音を鳴らしたから、敵にはバレバレだと思いますけどね」
下を見下ろすと暗い森の中で人影がこちらに向かってきている。
『そうか、それじゃこれでも使うか』
そこで川神さんが取り出したるはRPG7、ごくごく普通のロケットランチャーである――いや、ロケットランチャーであるじゃない、なんであの人そんな危険物を……
「撃ったらさすがにヤバいんじゃ……」
『心配するな、体が吹き飛ばないようになんとかする』
そういう問題なのだろうか?そんな俺の心配をよそに、川神さんはすでにRPGの狙いを敵に定めていた。
「あーもう俺知らないですよ?」
川神さんがRPGを発射すると着陸地点の辺りで大きな爆発が起き周りの木と一緒に敵が吹っ飛んだ。
『パラシュート切り離す必要がなくなったな』
「そうですね……」
俺と川神さんは無事に着陸地点に着地した。
「と言っても、ここってどのへんなんだ?」
「敵勢力の裏と目標地点の間なんで、早めに準備しましょう」
川神さんが別に背負っていたバックを受け取り、中から呪符が貼ってある杭の様なものを二つ取り出す。
「でも、よくこんな面倒な手を思いついたな」
川神さんはひどく呆れ口調であった。
「まぁ仕掛けは大変ですけど、後々が楽になりますよ」
「そうだな」
杭を地面に垂直に立て、魔力を込める。
「オルティス弟、聞こえるか?」
『なんですか?』
「もうそろそろ例の指示を出せ」
『了解です』
魔力を込め終えると、杭は青白い光を放っていた。
「矯平、終わったならもう行け」
「もう行けって一体……」
川神さんは胸ポケットからスマートンを取り出すと俺に向けて画面を見せる。
「戦況はいい、ならば今のうちに白雊を救うのが得策だろ?」
画面には匠からのメールが来ていた。そこには策がなくても押し切れる、ただその後が心配なので仕掛けておくべしと文字が打ってあった。
なんでメールなのかと思ってたけど、あいつには通信機器渡してなかったな……匠は回線切り替えをしないから作戦が狂うんだよな。
「わかりました……もし使うときはタイミングには気を付けたくださいね、なるべく大人数を引っかけないと意味がないですからね」
「分かった、早く行け」
刀袋を背負い急いで白雊の元へ向かう。
『川神さん一応作戦内容は伝えたので、僕らも行きますよ?』
「あぁ、任せたぞ」