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「――平、矯平起きて!」
との声で重いまぶたを開けると、額に重みのあるプラスチック質の感覚……そして
「ちょ、待て、なんで朝から眉間にMARK23突きつけられてるんだ?」
H&K MRAK23特殊な改造なしでサプレッサー、LAMが取りつけられるうえ、.45ACP弾を使用し命中精度は競技用ライフルにも劣らないというバケモノ銃だ。
そして目の前には日の光を浴びて輝く銀色の髪、その奥には怖いくらい笑顔な幼馴染……。
「え?矯平が早く起きないせいでお腹減ってるからだよ?」
「お腹すいたら人に銃突きつけるのは人間的にどうかと思うぞ!?」
とりあえずこの幼馴染――白野諒子を押しのけ部屋から追い出して制服に着替えようと思い、クローゼットから制服を取り出す。
俺は黒木矯平、赤城高校へ通っている、運動能力が高いことが取り柄のイチ生徒だ。
まずは、なんでこんなヒヤヒヤした朝を迎えなければならないのかというと、ここが加護の領域と呼ばれる場所を開発して作られた日本二十三学区という場所であるからだ。ここでは特別な加護があるらしく人間は死なない。
「朝起きたら眉間に銃口向けられるこっちの気持ちにもなってみろよ……」
そんなことをボヤきつつ、ワイシャツを着て制服のズボンをはき、ネクタイを締める。机の椅子に掛けてあったブレザーを羽織り、机に立てかけてある全長八十センチ程度の打刀――氷牙という刀を持ってキッチンへ向かう。
なぜ武器を携帯するのか、それは将来必要な戦闘技術や魔術を学ぶために、戦闘学科と呼ばれるカリキュラムが組まれている。ちなみに俺らは戦学や、闘学など俗称で呼んでいる。
階段を下りて廊下を進み、少し大きめなリビングへ入る。そして、リビングの中央にあるテーブルに刀を立て掛け、みそ汁を作る準備をする。
「諒子、早く朝飯を食いたいなら手伝え」
ネギを切りながら、何回か諒子に呼びかける。
先ほどとは違い制服に着替えた諒子がリビングに入ってくる。いつも思うんだけど、コイツは何もしなきゃ可愛いんだよな。
諒子のプロポーションは誰でも羨ましがるような仕様になっている、いわば中身空っぽ?
「分かってるって、あんまり五月蝿いと弾くよ?」
ここまでの流れで大抵の人は、「死なないんだったら、銃にビビる必要なんてあるの?」などと思うかもしれないが、実はビビる必要大アリだ。死なないといっても痛覚はしっかり有るうえに受けた傷は受けたダメージによって感知度が違う。あくまでも死なないだけなので、骨折や動脈を切ってしまった時は完治まで時間がかかってしまう。簡単に例えるならちょっとリアルなアクションゲームの中にいるような感じだ。
「冷蔵庫に肉じゃがの残りが入ってるから温めてくれ」
「えー、昨日の残り物?」
「文句を言うな、俺だって手を抜きたいときはあるんだ」
具がワカメとネギだけのシンプルなみそ汁をお椀に盛り付け、ご飯をわけてリビングのテーブルに運び着席。
「ちょっとどいて」
諒子が温まった料理を運んできて、食べる準備完了。
「「いただきます」」
朝から脂っこいものを食べるのはキツイと思っていたが、そうでもなかったなと自分の若さに一人で驚きつつ箸を進める。
「そういえば矯平」
「なんだ?」
「川神さんがさ、『バイトサボるな、シバくぞ』って言ってたよ?」
「マジかよ!しょうがない今日の帰りに寄るか……」
川神さんとは二年ほど前にいざこざがあって知り合った女性だ。体の半分くらいが殺意でできてるんじゃないか?と疑いたくなるところがある人だ。
「ちなみに笑顔で言ってたよ」
あの人が笑っているときはロクなことがないので、かなりヤバそう。
「そうだな……指二、三本で済むか?」
「ん?人間サンドバッグくらいじゃない?」
諒子は軽く恐ろしいことを言ってくる。他人事だと思いやがって……
(ダメだ、事務所に行ったら必死に土下座しよう……それが無理だったら全力の逃走を試みよう)
自分の近くにあった新聞にふと、目を向けると
――新技術開発!対魔物用の強化――
これが、この学区が作られる原因となった一つである。学区の外には魔物が生息していて、将来ある若い世代が犠牲になっては困るという考えのもと、この学区が作られたそうだ。
ちなみにここは加護があるおかげで、魔物が侵入することはないが、学区外に住んでいる人たちは結界を張って魔物の侵入を防いでるらしい。魔物と言ってもペットとして飼えそうなものから、町や村を一日で滅ぼすものまでさまざまだけどな。
新聞に目を通した後、何気なく時計を見ると、
――7時30分――
「マズイ……今日、日直だったんだ!悪いけど昼飯は自分で調達してくれ!」
刀袋に氷牙を入れ、カバンを担いで舞い散る桜の中ダッシュで学校へ向かった。
戦闘学科って普通に漢字読みなのにわざわざルビ振るあたりやさしい(自画自賛)