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泡沫人魚の嘆いた世界  作者: 朝梅雨
第一章・奇病
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部屋

大きな金魚鉢にベッドから移され、水の中に服ごと使っている。

最強さんは部屋を追い出され、植物さんと一緒に着替えた水中用の服はドレスのようで、小っ恥ずかしかった。

「植物さん、私の部屋って」

どんなところ?と聞こうとしたが、その前に植物さんが口を開いた。

「人魚さんの部屋はとっても広いんだよ!私たちの部屋もそうだけど、一人一人の部屋って奇病ごとに変わっててね、人魚さんもビックリすると思うよ!」

「・・・本当?」

「うん!嘘つかないよ私!」

ガラガラと車輪の音が廊下に響く。

随分と長く、頑丈な扉がいくつも並んでいる。

「ねぇ、植物さん」

「なぁに?」

「なんでこの病院、窓がないの?」

ふと浮かんだ疑問だった。

意外と真新しい室内に、よく整備されているであろう何かの機械や掲示板。病院らしいっちゃらしいけれど、窓が一つも見当たらなかった。

日の光を見たのは、先ほどの救護室のような場所だけで、それ以外にはない。

「あぁ、それはね。私たちが人に見つかったら困るからだよ」

「・・・そっか」

確かに、そうだ。

こんな姿は普通の人から見れば異常でバケモノだろう。少し、不快だ。

「そんな顔しないで人魚さん。ここから出なければ、私達は軽蔑されることも仲間外れにされることもないんんだよ」

ここにいる人達は奇病に理解のある人ばかりだから!と植物さんは付け足した。

なにか、あったのだろうか。私には言及する意味が見つけられなかった。

「あ!ついたよ、ここ!みんなの部屋扉だけは全部一緒で区別しにくいんだよね」

文句をブツクサ言いながらも、最強さんから受け取った鍵を使って開けてくれる。

扉の奥には予想外の光景が広がっていた。

「わぁ・・・凄いね!植物さん」

思わず手で拍手してしまう。部屋、と言っていいのか分からないが、大きなプールが広がっている。

天井はガラス張りで、太陽の光が差し込み、水面が眩しいくらいに輝く。

「気に入った?気に入ってくれた?ここ部屋は綺麗でしょ、私の部屋と同じくらい広いんだ!」

プールの側に加工されているであろう本棚が並んでいる。本一冊一冊がビニールのようなもので包まれていて防水仕様。私にとっては夢のような空間だった。

「・・・とりあえず、今は見るだけね。昼食まだでしょ?皆も集まるから紹介が先!」

「うん、わかった」

カートをクルリと回し、また廊下に戻る。

植物さんから失くさないでねと鍵も受け取った。

「まだ人魚さんは誰かに押してもらわないと移動できないけど、そのうちリモコンとかで移動できるようにするって最強さんが言ってたよ!」

最強さんって機械系も得意なのかな、その名に恥じぬ才を持っているんだろう。

「通帳と睨めっこしながら!」

・・・その言葉は先程の考えを綺麗に打ち消してくれた。

「植物さん、他の子ってどんな感じなの?」

長い廊下を歩いて運ばれている最中、会話を閉ざすのは寂しいので、口を開く。

植物さんは会話が好きなんだろうけど、すぐ打ち切れそうな話題を振ったり、答えを返したりする。

ただ、私が返すのが下手くそなだけなんだろうけど。

「うーん、そうだなぁ。皆良い子だよ?でも、注意してほしい人はいるかなぁ。見た目とか見て驚かないであげてね」

善意での言葉だ。

少し前の自分を振り返り、反省する。植物さんは「初対面の時私に向けたような反応はしないで」と釘を打っている。

「私は慣れているけど、皆はまだ言われ慣れてないの。いや、慣れない方がいいんだけどね?」

後ろで笑う植物さんの顔は見えなかったけれど、私は少しわかった気がした。




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