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泡沫人魚の嘆いた世界  作者: 朝梅雨
第一章・奇病
1/5

苦しい日々の安らぎよ

私は憧れていた。

絵本の中の人魚姫に。声を失っても王子愛を愛し続けた彼女に。

綺麗な海の中で歌っている透き通るような声をいつも想像して、あんな風になりたいと努力して。人魚姫のように強くなりたくて。

だけど、何年も経っていくと何処かで諦めている自分がいた。そんな私を見てお母さんはこう言ったの。


「涙は真珠、身体は貝殻。脆くて美しい人魚姫を目指すのはもうやめなさい。いつか本当にそれのせいで傷つく事になるよ。」


って。悲しかった。でも嬉しかった。だって私を心配してくれたって思ったから。お母さん達の気を引きたかったからから私こうなったのかな。分からない。

でも結局は人魚姫は好きだった。あの時少しでも興味が好きがなくなってたら...。


「私は....消えなくて...済んだのかな...?」


「わー!綺麗!」

海を眺めながら笑って喜ぶ子供。

砂の城が夕日にあたって少し輝いている。

貝殻を袋に詰めてジャラジャラと鳴らしながら走り回る子供は、足が多少濡れていても気にすることは無いだろう。

「おかーさんもおいでよ!」

砂浜にシートを敷いて座る女性は、優しく微笑みながら首を横に振った。

「貴方だけで遊びなさい。今この広い海は貴方だけのものなんだから」

丁寧に断る女性は、それだけ伝えて動こうとしない。ずっと笑ってこっちを見ている。

子供は気にせずにまた海の方へと走っていった。すると、目をパチクリさせて女性の方へ走ってゆく。

「おかーさん!あそこのとこになんかある!あれなに?!」

すごく慌てた様子で喋る子供に女性は答えた。

「あれはね?人魚って言うのよ。海に住む美しい人」

「にんぎょ?おさかなさん?」

「ふふっ。今度人魚が出ている絵本を買ってあげる」

「やったー!おかーさんだいすき!!」

飛び跳ねる子供を見て笑う女性。

仲睦まじい二人を遠くで眺める男性。

夕日が輝いているオレンジ色の空は、子供にとって最後の有意義な時間を示しているようだった。

いつの日かの幻。揺らめく海面に影を残さずに消えていく。泡のように。


********


瞼が開けば現実に引き戻される。

朝の太陽は嫌なぐらい眩しい。長い私の髪は足を伝って地面についていた。

「姫様、お目覚めですか?」

使用人達は何ら変わらない笑顔を向けてくるが、皆嫌いだ。裏表が激しい人ばかり。家を歩いていれば耳につく喋り声。父様や母様の財産が目的なのでしょう。

「えぇ、着替えを置いて出てって。言ったでしょ、私人嫌いなの」

冷たく言い放てば、一瞬苦い顔をした後に笑顔になって「はい」といった。

思っていることが何となくわかってしまう。

「...姫様。母様が部屋に来るようにとおっしゃっておりました」

「分かった」

もう伝えることはないと言うかのように、使用人は部屋を出ていった。

.....あぁ、朝からこんな気分にさせないでほしい。

溜息が室内に響きわたるほど、心も体も重くなっていく。ここ最近特に酷い。正直、学校も休ませてほしい。体調がいくら悪くても母様は許してくれないだろうけど。

「....早く着替えなきゃ...」


********


着替えを素早くすませ母様の部屋へ急ぐ。

三回ノックをして扉を開ければ、広すぎるベットの上に座っている母様が私を出迎えた。逆光で顔は殆ど見えないけれど、自分に向かって冷たい視線が送られているのが嫌でも伝わってきた。

「母様。何か私にご用事で?」

出来るだけ怒らせないように。平然と。

失敗したら学校をやめさせられてもおかしくない。爆発は避けないと。

「...分かっているのではなくて?」

あぁ、多分バレたんだ。使用人の誰かが母様に報告したとしか思えない。

「...いえ。何のことか。」

「あなたはまたそうやってっっ!!!何度も何度も何度も何度も言っているでしょう!」

母様が怒っている理由は一つだけ。絵本だ。

どの家庭だったとしても、絵本一つでここまで怒られることは中々無いだろう。

私の場合は怒られる。そして絵本は燃やされる。


_____私の大事な『人魚姫』の本だけ。




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