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純粋に昨日更新するの忘れていました。
予約更新入れてるつもりだった・・・
待っていてくれた方いたら、本当にごめんなさいでした。
教室を見渡して霜月咲哉がいないことに気づいて輝也は小さくため息をついた 。
ブレザーの内ポケットに入れているピアスが存在感で重く感じる。
どう話せばいいのかまだ決めれていなかった。
すぐに顔を合わせずにすんで少しほっとしながらも、輝也は教室の入口を見つめた。
「転校二日目にして休みとは咲哉もやるな」
小野田が妙な感心をして笑うのを聞きながら、輝也は妙な不安が胸に湧くのを感じていた。
霜月咲哉は二時間目が終わっても姿を現さなかった。
出席で教師が特に気にすることなく進めるので欠席なのだと思う。
それなのに、このまま消えてしまうのではないかなどと考えてしまうのだ。
昨日感じた違和感や、夢で顔がわからない少年、つかめないイメージがそう思わせるのだろうか。
三時間目の途中に教室の扉が開いた。
重い木の扉がレールをすべる音がしだした瞬間に輝也は全身の肌が粟立った。
反射的に振り返ると、上下共に黒を纏った霜月咲哉が立っていた。
目を見開いて見つめる輝也に気づいて、しかし霜月は気にせずに自分の席に着いた。
同じように音に反応して顔を上げたクラスメイトは沢山いたけれど、誰も輝也が感じたものに気づいている様子は無く、授業に意識を戻していく。
輝也は冷や汗をかいていた。
霜月が扉を開いた瞬間、血の匂いが教室に這入ってきた。
昨日の夢のように、濃密な匂いを感じていた。
授業が終了し、教師が教室を出た瞬間、輝也は席を立った。
勢いに机が揺れて、前の席の俵の背もたれと音をたてる。
「葉山?どうした、そんな慌てて」
「あ、ごめん俵」
驚いたように振り向く友だちに謝ってから、急いで霜月の席に目をやる。しかしすでに姿が無く、教室を見渡すと大野と2人で話していた。楽しそうに笑顔で話す姿は違和感以外感じない。
「霜月か大野に用があったのか?」
「あ、いや。いいんだ」
声をかけられて、凝視してしまっていたことに気づいて目を逸らす。
なんでもない風に自分の席に座りなおして、輝也は俵と向き合った。
「授業の途中さ、なにか、鉄が錆びたような匂いがしなかった?」
「いや、俺は気づかなかったけど。してたか?」
「うん…僕の勘違いかな?」
「夢でも見たか?」
からかうように笑って言う俵に、輝也はぎこちなく笑い返した。
あの時、輝也だけが気づいた血の匂いは衝撃的なほどだったが、気づけばすぐに消えていた。確かに夢のようだった。
4時間目が終了した。
今度は慌てず、まず霜月を視界に捉えてから落ち着いて立ち上がった。
昼休みで人の動きが活発になる中、霜月はすり抜けるように静かに教室の扉に向かう。
「俵。僕ちょっと出るから、先に食べてて」
早口で言い置いて、輝也は後を追った。
廊下に出ると、霜月は人の流れに逆らって専門教科室棟の方へ迷う様子も無く1人で歩いていく。 授業を終えてクラスに戻る集団と何度かすれ違うと、後はすっかり人気が無くなった。
輝也は特に隠れるでもなく、少しの距離を置いて後ろを歩いていた。
廊下に2人きりになっても、霜月は振り返らない。
奥まったところまでたどり着いて、霜月が扉に手をかけたのは技術室だった。
授業の時以外は必ず施錠されている部屋だ。
どういうつもりだろうかと輝也が見ていると、カチリという小さな音が耳を掠めた。
「え?」
思わず声を漏らしてしまう。鍵を差し込んでいる様子は無かったのに、今耳にしたのは開錠の音ではなかっただろうか。
霜月は当然という風に扉を開いて入室していく。
輝也は扉の前で立ち止まった。
技術室は変わった形状で、廊下から中が見える窓が無い。耳を澄ませてみるが、無音だ。
ここまで来て引き返すという選択は無い。
少しの躊躇の後、輝也は扉を開けて中に入った。
「葉山君、僕に何か用かな?」
霜月は教室の中央で机にもたれるようにして立っていた。うつむき加減で表情は見えない。黒い髪に全身黒い服のせいで、影のようだった。
他に人はいない。
「なぜ僕の後についてきた?」
近づこうとすると質問を重ねられて、輝也はそこで足を止めた。
内ポケットからピアスを取り出して見せる。
霜月が顔を上げて、無表情で輝也の持つピアスをじっと見つめた。
「僕は何度も同じ夢をみる。その夢に出てくる子どもが、これと同じピアスをしてた」
「へぇ…」
「霜月のピアスと、同じピアスじゃないか?」
「それで?」
「それで…」
問い返されて、言葉に詰まる。
それでどうしたいのかはわからない。
輝也は過去を思い出すことを恐れることはやめた。
だから、記憶につながりそうな人物が現れたなら、思い出さなければいけない気がして。
夢に思い出せと言われている気がして。
――わざわざピアスを見せてきたのは、そういうことじゃないのか。
浮かんだ問いは、輝也が見せたピアスに反応しないことが答えなのかと思い当たって、唇を震わせるだけで消えた。
違うのだろうか。ならば何故?それとも偶然…そんな偶然があるのか。
黙り込んでしまった輝也に、霜月はにっこりと笑って見せた。机から腰を上げて、ゆっくりと近づいてくる。
「葉山君は子供の頃からの記憶が無いんだってね。大野君から聞いたよ」
「…大野から?」
「仲がいいんだね。他の友だちには話してないようなことも大野君には話してる。養子だとか、2人のお兄さんのこととか」
それは確かに他に話した人のいないことだ。ついさっき話してるのも見た。けれどそれを大野が会って二日目の霜月に話すということが輝也には信じられなかった。
「信じられないって顔だね」
顔をこわばらせる輝也を見て霜月が笑みを深める。
「葉山君は記憶を戻したいのかな?」
「なにを…」
「俺は君に思い出してくれと頼むつもりはない」
目を覗き込むようにして言われて、輝也は息を呑んだ。
霜月の口調が変わって、纏う空気が密度を増したようだった。真っ暗な瞳は底が見えない。
「俺は5年間、ずっと探してる子がいる。俺と同じピアスをしていて、俺が呼べばどれだけ離れていても答える。俺を一番知ってる子だ」
息苦しさに輝也は喘いだ。霜月がスッと身体を引く。
「それは葉山輝也ではない」
霜月の視線が外れて、輝也は荒い息をついた。膝が崩れる。
興味をなくしたように背を向けて部屋を出ようとする霜月にそれでも輝也は叫んだ。
「何で、血の匂いがする!」
ぴたりと霜月が立ち止まる。
振り返った顔は今までの中で一番違和感を感じない、笑顔だった。
「なぜかなんて、よく知ってるだろう?カグヤ」
同じ音なのに明らかに何かが違う呼び方に輝也の身体はなぜか震えた。
午前中、お腹が痛くてのたくってました。
暑いのに寒いし、体温調節おかしくなってます。
冷房の効かせすぎにご注意あれ。
次の更新は月曜日です。