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欠けない月の輝く夜  作者: メグミ アキラ
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「咲哉は帰国子女なんだってさ」


 休み時間ごとに入れ替わり立ち代り人に囲まれている霜月を見ながら小野田は仕入れた情報を輝也と俵に披露してくれた。

 なんでも親の仕事の関係で急な帰国だったとか、そのため制服も教科書もまだ準備できていない上に、私服の学校だったので前のものを着てくるということもできず、それらしい服装で来たとか。


「予想はしてたけど、早速名前で呼んでるのに驚くよ僕は」

「さすが俺、だろ?」

「しかしオーラがあると言うか、キラキラした奴だな」

「俺も思った!めちゃくちゃイケメンって訳じゃないのに華があるって言うか?てか秋田センセも咲哉に見とれてたよな、あれ」

「確かに何か今日の先生はボーっとしてたけど…」


 見とれていたというのとは違うんじゃないかなと言いそうになって、じゃあどうなのかはわからず慌てて口をつぐむ。


「なんだ輝也、認めたくねーって?男の僻みはダセぇぞー」

 小野田がカラカラと笑う声を聞きながら、輝也は謎にモヤモヤとする気持ちをごまかしたくて耳元の髪をいじった。

と、下げた視界に近づいてくる足が見えた。


「僕の話をしてる?健一」

「おー、咲哉」


 昼休みともなると転入生フィーバーも落ち着いてきたのか、霜月咲哉が1人で立っていた。

 小野田に笑いかける顔はキラキラというのともまた違って、穏やかで人好きのする感じがした。

 また印象が変わったなとぼんやり顔を見ていると、俵と言葉を交わしていた霜月がこちらを向いてゆるく首を傾げる。


「えっと…?」

「あ、葉山。葉山輝也、です」

 慌てて名乗ると、よろしくとフンワリ微笑まれる。

「カグヤ?僕たち名前の音が似てるね」

「そう、だね…」


 嬉しそうにする霜月に輝也も微笑み返すが、ぎこちなくなってしまう。

 本当になんなんだろうこの感覚は。モヤモヤと膨らんでいくこれは…

 意識が半分、内に向いたその時。

 その瞬間を狙ったように伸ばされた誰かの指先が左耳に触れて、輝也は反射的にそれを打ち払っていた。


「あ、ごめん!」


 バチッと大きく音が響いたのに驚いて反射的に謝ると、叩かれた手を握りこんでいる霜月と目が合った。

 少し驚いた顔の目がスッと細くなって、すぐにまたフンワリとほどけるように微笑む。


「こっちこそごめん。さっきから耳元を触ってるから気になってしまって」

「…癖、なんだ。無意識だから、急に触れられて、びっくりして…」


 霜月の指が触れた瞬間、静電気が走ったように感じた耳を輝也は隠すように押さえた。なぜかドクドクと心拍数が上がって、自然と声を強張る。


「輝也は人見知りだから、急なボディタッチはNGだぜ咲哉」

「本当にごめん。ピアスかなと思ったんだ。僕がピアスしてるものだから、つい」


 ほら、と見せられた霜月の左耳にはシンプルな飾りのないデザインの丸い石がついていた。

青みがかった乳白色の石に目が引き寄せられる。


「ピアスは、したことないよ」

 答えながら、輝也は声がかすかに震えてしまった。ピアスから目が離せず、鼓動がスピードを増す。


「ムーンストーンか」

「そうなんだ」


 俵の言葉ににっこりと霜月が笑う。

 その笑顔がもう駄目だった。

 衝動的に席を立った輝也に三人の視線が集まる。


「うわっ、どうした?輝也」

「えっと、僕その、トイレへ…」


 何も考えずに立ち上がったので焦ってへどもどしてしまう。と、そこへクラスメイトの女子の声がかかった。


「葉山くーん、お客さんだよ」

「僕に?あ、綺里!」


 教室の入口を振り向くと、綺里が弁当を持って覗いていた。中等部の制服姿は周りの注目を集めていて少し気まずそうだ。


「ああ、朝に言ってた弟くんか」

「うん。ごめん、僕出てくる!」


 すっかり忘れていたけれど、天の助けとカバンを引っつかむ。

 おとうと?と後ろで霜月の呟きが聞こえて、話が続いているようだったが振り返らず輝也は席を離れた。

 モヤモヤとした正体不明な気持ちが何かわかった気がしていた。



 無言で中等部と高等部のつなぐ渡り廊下がある中庭まで歩いて輝也は足を止めた。

 「おーい、輝也」「輝也どこ行くんだー」など小声で呼びながら後ろを歩いていた綺里は、途中からは黙ってついてきてくれたが、輝也が中庭の端のベンチに座ると、その前に仁王立ちしてフッと息をつく。


「どうしたんだよ輝也。なんかあったのか?」

「…何も」


 実際何もないのだ。

 ――急な転入生が来て、見ていると初対面なのに違和感を感じる。

 自分でも説明がつかなくて話せるものじゃなかった。


「何もないよ。ただ、目立ってたから。落ち着いて食べれるところに行きたいなって」

「ふーん?」


 じっと目を見つめられる。綺里の右手が熱を測るように額に当てられた。

 心配されてるのを感じて黙って受け入れていると、手が頬に移動して綺里の指先が左耳を掠める。

 輝也はハッとしたが、霜月に触れられた時のような感覚はなかった。

 嫌な感じもなくて逆に乱れていた気持ちが静るようだった。


「綺里、お腹減ったよ」

「輝也が先に出てから直美兄とおかずトレードしたりして、大変だったんだからな!」


 輝也の言葉にニッと笑って綺里は隣にドサリと腰を下ろした。



私立の中高一貫の大きな学校をイメージしています。

制服はあるけれど、校則は結構自由。

髪染め、ピアス可です。

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