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欠けない月の輝く夜  作者: メグミ アキラ
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 中途半端に寝なおしてぼんやりする頭を振りながら階段を下りていくと、ベーコンエッグにグリーンサラダ、フルーツとヨーグルトに焼きたてのトーストが並んだダイニングテーブルの下から足がはえているのが見えた。

 綺里がご機嫌な理由がわかって輝也の顔も緩む。


「直美兄さん、帰ってたんだ」

「朝起きてきたらその状態。すっげえびっくりしたって」


 キッチンでコーヒーを入れながら綺里が笑うのを聞きつつテーブルの下を覗きこむと、長兄が白衣姿のまま床で寝ていた。

 直美は薬学部の大学院生で、研究のため研究室に泊り込むことが多い。昼間に戻っていることもあるようだが、落ち着いて顔を合わせるのは二週間ぶりだろうか。


「直兄、コーヒー入ったから起きて!」

「うーん、砂糖とミルク…」

「入れたよ。輝也はカフェオレな」

「ありがとう、綺里」

「さぁすが綺里君。じゃあ起きる~」


 ふにゃふにゃとした声でごそごそと這い出てくる直美は180センチを超える長身だ。よくテーブルの下に隠れていれたものだ。


「直美兄さん、何でここで寝てたの?」

「ん~、ここなら綺里君が朝に絶対気づくでしょ?部屋で寝て起きたら二人は学校でいないだろうし、つまんないからさあ」

「食事に揃うの久しぶりだよな」


 まだ眠そうで頭が揺れている直美を支えて座わらせていると、最後に自分のブラックコーヒーを持ってきた綺里も席に着いた。両親は他界しているので、これで葉山家一家勢揃いだ。

 綺里の号令で3人いただきますと手を合わせる。

 父は輝也が養子に入る前に、母は昨年、病気でこの世を去った。

 母は元々身体が弱く、亡くなる直前まで家で過ごしていたが家事の大半は以前から綺里が取り仕切っていた。特に料理の腕は上がるばかりで、いまやキッチンは綺里の城だ。

 輝也より頭一つ分低い153センチの身長、猫のように大きいツリ目で近所の奥様から可愛いと評判の綺里は、輝也にとって兄というより実は母に近かったりする。

 なんにしても、年齢に反して輝也が立場が下なのは家族の共通認識だ。



「今日は2人とも朝錬のない日だったんだね」


 せっか夜通し自転車で走って帰ってきたのに、ほぼすれ違いってことにならなくて良かったとコーヒーを啜りながら直美が微笑んだ。ようやく目が覚めてきたらしい。


「全国大会の予選が終わったとこだから。次は7月に近畿中学生弓道大会があるけど、朝錬は中間テストが終わってからかな」

「僕は帰宅部だよ、直美兄さん」

「あれ、輝也君、陸上部は?」


 きょとんとした顔で聞かれてもう5月だよと苦笑いしてしまう。


「中学でやりきったし、高校ではもういいかなと思って」

「そんなこといって輝也、たまに朝、走ってるくせに」

「だよね」


 綺里がトーストを齧りながら突っ込むのに直美もあっさり頷く。こっそりしていたつもりだったのに兄2人共に知られていたことを知って固まってしまう。口にしようとしていたレタスがポロリと落ちた。


「秘密なつもりだったのか?」

「言っちゃだめだった?」


 逆に驚かされたというような顔を返されて、この兄たちには本当にかなわないと思う。

 ばつが悪くなって視線を逸らすと、輝也はリモコンを手に取りテレビをつけた。

 食事時にテレビをつけるのを綺里は嫌がる。ただし朝は天気予報とニュースを見るのはセーフ。


「別に。走ること自体は好きだから、走るだけだよ」

 それだけ、と言い切って猛然とサラダを片付ける。なら続ければいいのにという言葉は無視だ。

「輝也、なにか悩み事とかある時は俺らに話せよ」

 静かな声に何も無いよと笑って見せるが兄たちの眼が痛い。これは心配性のスイッチが入りかけているなと焦る。


「そういえば、最近はあの夢は見ないんだっけ?」

「っ、あの夢?月の?見てない見てない見てない!!」


 おっとりと、しかし恐ろしい勘を発揮して直美が尋ねるのに輝也の心臓が跳ね上がる。

 正しく今朝見た、とはこの流れではとてもでないが言えない。動揺を隠して笑っていると、

直美の手が伸びた。無意識に耳元の髪をいじっていた左手を取られて再び固まる。

 深く考え込んでいる時や言葉とは別のことを考えてる時、焦ったり嘘をつく時にもでる輝也の癖に綺里の目がスッと厳しくなる。


「輝也…?」

「輝也君?」


 ヤバい。どう言い逃れようか、いや言い逃れられそうもないと蛇に睨まれたかえるのような気分で両手を挙げそうになった瞬間、テレビから耳を引くメロディが流れた。

 ニュース速報だ。

 輝也はこれ幸いと視線をそちらに逃がした。緊急を告げる音に兄2人もため息をついて取りあえずテレビを振り返り…表示される文字を目で追って、それぞれの口から驚きの声が漏れた。

 それはこの街の市長の変死体が早朝に発見されたというニュース。


「市長が?」「変死体って…」「病気か事件かまだ不明ってことかな」


 遠くて近いようなニュースにリアクションに迷うような空気になって、次の選挙はいつだろうなどとポツポツ話して、なんとなく沈黙が落ちる。


「そういえば、昨日は満月だったな」


 少しの間のあと、直美が呟いた言葉が輝也の耳に残った。


読みやすい改行について悩み中です。


サブタイトルもどうしたものかなぁ。

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