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欠けない月の輝く夜  作者: メグミ アキラ
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 短い、冷え切った静寂が流れて、動いたのは咲夜だった。

 輝夜のネクタイに指をかけて引き抜くと、背を向けてどこかへと歩き出す。

 それをじっと見ていた輝夜は、咲夜が立ち止まった場所に気づいて顔を青ざめた。


「咲夜!」

「足りないんだろう、輝夜」


 緑の光に包まれながら意識のない綺里の身体が宙に浮かぶ。

 止まらず空へと上り続ける途中で、咲夜の手からすり抜けたネクタイがそれを追いかけ、綺里の首に巻きついた。

 綺里の顔が苦悶に歪むのが輝夜には見えた。

 力の入らない膝を叱咤して立ち上がる。


「咲夜ぁーっ!!」


 風の刃を放ちながら走る。もう輝夜の身体はボロボロで、風を纏うことはできなった。気力を振り絞って綺里の下へ向かって走る。


「こんな威嚇で俺を止められると思うのか」


 咲夜は下がらず、前に出ることで風の刃を避けて輝夜との距離を詰めた。

 力で加速をつけた裏拳で輝夜の頬を殴り飛ばす。

 血を吐き、もんどり打って倒れた輝夜の顔は血と涙でぐちゃぐちゃだった。地面に指を立てるが、顔を上げるのもやっとだ。

 その間も綺里の身体は空へと昇り続けていて、ずいぶん小さく見えた。


「そろそろ窒息死してるかもな。あそこから落として確認するか?輝夜」


 無表情のまま咲夜は問う。


「自分は輝夜の家族だとかあいつは言っていたが、どうでもいい奴だからそこで寝てるんだろうお前は」

「違う、咲夜…やめてくれ…」

「つぶれてしまえば、そこに倒れてる奴らと同じになるさ」


 咲夜の右手がゆっくりと挙げられて振り下ろされるのを輝夜は見た。

 吊られていた糸が切れたように落下を始める綺里に向かって輝夜は意味を成さない悲鳴を上げていた。

 なんと叫んだのか、本当に叫んだのかもわからなかった。

 輝夜を中心に爆発するような勢いで竜巻が巻き上がり、全ての音を吹き飛ばした。



 竜巻は屋上の床を覆うコンクリート材を全て巻き上げ、建物を破壊しながら成長した。

 風は破壊すればするほど暴威を上げ、近くにいた咲夜に襲い掛かった。

 ぶつかる瞬間、力を使って耐えようとしていたが、すぐにその姿は風の中に飲み込まれ、どうなったかはわからない。

 輝夜はひたすらに綺里だけを見ていた。

 感情の爆発に呼応して暴走した力を必死で押さえつける。

 上部を漏斗状に広げ、慎重に竜巻の中心で綺里を受け止めた。下降気流で落ちてくる綺里を渾身の風の層で受け止め、両腕で抱きとめた。

 その瞬間、安堵と、こんどこそ気力が尽き果てて竜巻が霧散した。

 空を厚く覆っていた雲さえ払った竜巻が消えて、輝夜の視界が一斉に広がる。

 屋上の柵は全て吹き飛び、輝夜の足元以外に崩れず残った床があることが不思議なくらいの有様だった。

 そのタイミングにそちらを見たのは本当の偶然だった。

 自身から流れる血にまみれた咲夜が身体を起こそうとして、その足元が揺れた。

 そこからはスローモーションだ。



 輝夜は身体を投げ出すようにして咲哉に手を伸ばした。

 咲哉はその手を掴もうとせず、輝夜に手を伸ばして指先で頬に触れた。

 その手の血が。

 輝夜がつけた傷から流れた咲夜の血が輝夜の頬に移って。

 その顔を見て咲夜は破願した。


「俺の月」


 どうしても細部が思い出せなかった、何度も見た夢から霧が晴れる。

 幼い自分の横にならんで月を見上げていた少年が―――幼い咲夜がこちらを振り返って見せるその顔は、とても優しく笑っていた。

 慈しむように、嬉しそうに、眩しい月を見るように。

 記憶の中のその顔と、今目の前の咲夜の顔とがだぶって、重なる。

 つい先ほどまでお互いを傷つけあって戦っていたのに。


「咲夜・・・」


 背中から倒れていく姿に向かって、呼ぶでもなく、輝夜はその名を口にしていた。

 答えるように咲夜の笑みが深まって


 その姿が視界から消えた。


短い…。そして残りももっと少ないかもですが、続く!

明日で本当に終わりです。

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