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欠けない月の輝く夜  作者: メグミ アキラ
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 月を見ている。青白い光。


「きれいだな」


 すぐ隣で声がして振り向くと、小さな男の子がいる。

 自分はうんと微笑む。

 彼も微笑みを返してくれる。


「凄い赤だ」


(赤?)

 月に目を戻すと空いっぱいに大きな満月。心が騒ぐ赤い色。

こちらに向かって落ちてくる。どんどん近づいて視界を赤に染めていく。

 少年は気づかないようで月を背にこちらに微笑んでいる。


「また一緒に見ような。次も、その次も、一緒に…」


 その微笑が赤く染まって、そして自分の目の前も何もかもが真っ赤に―――





「――っっ!!」


 声にならない悲鳴をあげて輝也かぐやは飛び起きた。

 鼓動が激しい。

 額にびっしりと浮かんだ汗が顎につたった感触で我に返り、思わず周りを見回す。

 自宅の自分の部屋のベッドの上にいることを確認して大きく息を吐いた。

 朝が早くなった5月だというのに窓の外はまだ暗い。

 時計に目をやれば4時を回ったところだ。

 身体中を暴れまわる心臓をなだめながら、輝也は耳を澄ませた。

 過保護な兄を起こしてしまわなかっただろうか。

 またあの夢を見たと知れば大げさに心配されるだろう。

 家は静まり返っていて、輝也はほっと息をつきベットに倒れこんだ。

 見慣れた天井に確かめるように呟く。

「久しぶりだな、この夢…」


 月が落ちてくるこの夢は、輝也にとっておなじみのものだった。頻繁に同じ夢を見ては、そのたびに飛び起きる。

 しかしそれも徐々に回数が減っていて、最後に見たのは半年以上前だろうか。

 最近ではすっかり忘れていて、何となくもう見ることはないような気がしていた。

 何で今さら、と思う。

「高1にもなって、どうしてこのぐらいの夢がこんなに怖いかな…」

 何百回と見た落ちてくる月にはいいかげん慣れていいだろうにと思うのに心臓はいまだに落ち着かない。

 夢で親しげな少年のことは知らない…というか、わからない。

 毎回のことだが今日もその顔を思い出せないのだ。夢ではハッキリと見たはずなのに。

 小学生くらいの少年。視線の高さが同じだったということは夢の輝也も小学生なのだろうか。

「これってやっぱり記憶なのかな…?」

 久しぶりだからか、この夢を見るたび考えて、そのたび投げ出していたことが唇からこぼれた。

 輝也には幼いときの記憶がない。

 あるのはこの葉山家に養子に入った10歳の頃からのものだけだ。

 記憶にない頃の姿の自分。

 男にしては少し長い左の耳元の髪を引っ張りながら目を閉じて答えを探すが今日も何も見つからない。

「まぁ、いいか」

 記憶だとしても、別に不自由もない。輝也はそのまま身体の力を抜いた。



「おっきろー、輝也!」

「うわっ!!何?!」


 明るい声と共にガンガンと大きな金属音が耳元で破裂して、輝也は飛び起きた。

 今日はよくよく静かに起きられない日らしい。

 驚いて目をやると、その身体には少し大きいエプロンを身につけた兄がフライパンとお玉を手に笑っていた。昔の漫画よろしく、それを人の枕元で炸裂させたらしい。

 そんなこと現実にやっちゃう人いるんだ…と脱力してしまう。


綺里きり…何の騒ぎなわけ?」

「輝也が起きるのが遅いから、古きよき方法を試してみてやったんだよ。ご飯できてるから、さっさと降りてこいよ」


 ニコニコと上機嫌で言いたいことを言うと、さっさと部屋を出て行ってしまう。見えた背中はエプロンの紐の下に制服がみえた。

 輝也が今年の三月まで着ていたのと同じ中学の制服。

 つまりは綺里は世間一般的には弟な訳だが、養子として家に入った時に世話を焼いてもらって以来、輝也は綺里に弱い。

 精神的には輝也が弟で綺里が兄。

 葉山家ではそういうことになっていて、つまりは逆らえない。

 深いため息をついた途端、目覚ましが鳴り出して、輝也は思い切り叩いて止めた。


初投稿です。

手探りでやっていきますので、暖かくお付き合いいただけると嬉しいです。


読んでいただいて、ありがとうございます。

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