会敵
(仮装パーティではないよな、明らかに・・)
次から次へと訪れる非日常の状況について行けず、映画でも見ている様な感覚に落ち入り始めていると、更に驚愕する光景が視界に入る。
(って、おいおい!! 死体を喰ってやがる!)
窓に張り付きながら外の光景を呆然と見ていると、小鬼が人間の死体を貪り喰い始めていた。
ギャギャッギャギャッと美味しいと言ってるかの様に騒ぎながら、ニヤリとさせた醜悪な笑みを浮かべ、口から鮮血の血を流している。
その光景を目の当たりにしてようやく恐怖心が哲哉を襲う。
恐怖を意識した途端、ガタガタと体が震え、目の前の光景が現実なモノだと強制的に認識させられる。
(どう、したらいいんだ・・死にたくない・・けど、このまま隠れてたら、他の人たちは・・・)
どうにかしなければと、考えようとするが、怖いというよりも死にたくないという感情が強すぎて、思考が定まらない。
兎に角、死にたくない、生きたいと何度も何度も頭を巡り、頭部を抱えそうになった瞬間、選択の時が訪れた。
「・・・ギギャ?」
一匹の小鬼が機内に入ってきたのだ。
「う、うわぁああああああああああああ!!」
突然の出来事で大声で叫んでしまった。
その絶叫を聞いてか、小鬼はこちらに顔を向けニヤリと楽しそうに気持ち悪い笑みを浮かべこちらへ小走りに向かってきた。
「来るな! 来るなぁああああ」
慌てて、機内の後部席方面へ向かおうと体を動かすが、自分の意識通りに体は動いてくれず、足がもたついてその場にあった死体に足を取られ、尻餅を着くような形で後ろへ倒れてしまった。
その好機を小鬼は見逃すはずも無く、持っていた錆びた短剣を振りかざし、哲哉に襲いかかった。
振りかざされた短剣は哲哉の顔を捉えた。
「ひっ!!」
哲哉は恐怖心から咄嗟に顔面を覆った瞬間、短剣が左腕に突き刺さり、落雷に打たれた様な激痛が体を駆け巡る。
「いってええええええ! くそがあああああ!! いでぇぇええええええ!」
先ほどの痛さの比では無い、恐怖と激痛と異臭と痛さへの激怒とが入り混り、混沌とした感情の渦が支配し、思考が高速に回り始める。
(――痛い)
(――なんだよこれ!)
(――死にたくない)
(――なんで人助けしようってこんな目にっ)
(――痛い)
(――逃げようとしたから?)
(――死にたくない)
(――隠れようとしたから?)
(――痛い)
(――なんでこんなに痛いんだ?!)
(―――死にたくない)
(――こい・・つ・・・か?)
(――痛い)
(――・・・なに・・笑ってやがる・・・)
(―――死にたくない)
((・・・・・なら殺られる前に殺ればいい))
思考は一つの結論を導き出す。
そう、痛い思いをさせられている理不尽な存在に同等の苦痛を与えよう。
明らかに殺そうとしてきている者へ仕返しを行うのに、何が悪いのかと。
――正当防衛万歳。
結論を出してからの行動は早かった。
ギギギャッギャ?!と何か喋りながら短剣についた血をペロリと舐め、ニヤ〜と気持ちの悪い笑み浮かべた小鬼の顔面を全力で蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた小鬼は三座席分、吹っ飛び、仰向けに倒れた。
「〜〜大体なんで小学生並の体躯の奴にビビってんだよっ!」
自身への悪態をつきながら、徐ろに立ち上がり、男物のスーツを着ている死体の胸ポケットにある、ボールペンを右手で拝借し、倒れてる小鬼へと駆ける。
「気持ち悪いんだよ! 死ねや! クソ化物がっ!!」
起き上がろうとしている小鬼を再度蹴り倒し、痛みなど忘れた左手で頭を抑え、右手のボールペンを力の限り振りかざし眼球へと突き刺す。
「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!」
耳障りな絶叫が機内を反響し、痛みのためか、暴れる小鬼から飛び退く様に離れたところを短剣が掠める。
「てめぇが俺にやろうとした事だろうが」
そう呟いたと同時に、小鬼はギャギャャと声が段々と小さくなり、完全に動かなくなった。