商人
街の前に到着するとフィンは少々ここでお待ちくださいねと言い残しつつ、早々馬車から降り、門番の兵士へ駆けて行った。
ともあれ、周りからの視線が凄い。
門の前には行商人らしき荷馬車の列が出来ており、皆一様に哲哉に視線を向けている。
――いや、哲哉と言うか、バイクにか。
余程珍しいのだろう。
時間潰しに人から視えない様、荷馬車の後ろ側へと移動し、空中画面を起動しつつ、メニュー欄を確認していると、地図表示にこちらに近づいてくる黄点があった。
近づいてくる方角へ視線を向けると商人風の恰幅良い男性がこちらに向かってきている。
年齢で言えば三十代中頃から後半にかけてといった容姿で、穏やかな雰囲気があった。
「あの〜、黒鎧の騎士様、少々時間を宜しいでしょうか?」
徐ろに話しかけて来た商人風の男に少し警戒心を抱きながら受け答える。
「俺・・じゃない私? 騎士ではないですが、私に何か用ですか?」
フィンは明らかに年下だった為、勝手にタメ口で話していたが、今回は明らかに年上だ。
ここは社会人として、丁寧語を心がけようと思っていたが、商人風の男に少し不思議な顔をされた。
「これはこれは、ご丁寧に有難うございます。ところで、その黒い鉄製?の様な物に興味が御座いまして。それは一体なんでしょうか? 乗り物ですか?」
「まぁ乗り物ですけど、それがどうかしました?」
「・・・なんと! 馬がついていませんが、先程はどうやって動いていたのでしょうか?」
どうやら先程移動してきた所をしっかりと見ていた様で、ニコニコと穏やかな笑顔で話をしながらも大袈裟に驚いて見せた。
「まぁ・・・魔、法ですかね・・」
あまりベラベラと話す内容では無いなと思いつつ、質問を適当にはぐらかす。
「はぁ〜なるほど、魔法でしたか、それはそれは、お見逸れしました。騎士様は魔法も嗜まれてるのですね。この辺りじゃ見ぬ出で立ち、さぞ、名の有る方だとお見受け致しました!」
(魔法使いって珍しくないのか? 反応薄いし。といつか、こいつ人の話聞いてねぇな)
「いや、だから騎士じゃないって――」
「その鎧も見た事がございませぬ! 傷一つ無い。さぞ名の有る鍛冶師が打ったと思うのですが、どちらで手に入れられたのか、詳しく教えてはくださりませんか?」
矢継ぎ早に話をする商人風の男はどんどん興奮していった様子で、逆に哲哉は面倒臭さを覚え始める。
人の話も聞いているとは思えず、ゲンナリするが、男はさらに早口になり――。
「あ、これは申し遅れました。私、ベネティン商会のブライモンと申します。以後、お見知りおきを。それで騎士様のお名前を頂戴し――」
(やべ~こいつめんどくせぇ~ あ・・イライラしてきた)
「だ・か・ら! 落ち着けって! まずは俺の話を聞けよ!」
そう言うとブライモンは、はっ!とした様子で大変申し訳ございませんと呟きながら落ち着きを取り戻し、再度質問してきた。
「それで、騎士・・」
――ギロリと睨みを効かせる。
「・・・お名前を頂戴しても宜しいですか?」
「テツヤ、テツヤ=コタニだ」
「そ、それでコタニ様、その鎧はどちらで手に入れられたのでしょうか」
「・・・分からん」
「えっ?」
会話を早く終わらせようと、適当に嘘をついた。
「形見だから、どこで手に入れたって言われても分からん」
「そうでしたか、それは残念です・・・」
ブライモンはそう言うと本当に残念そうに肩を落としていた。
丁度その会話が終わったタイミングを見計らったかの様にフィンが大男を連れて戻ってくるのを確認しつつ、哲哉は、また何かありそうだなと溜息を付くのだった。
すみません、予告ブレイクしてしまいました。
街に入るのは次ですね。