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神様、今日も頭が痛いです  作者: 安東盛栄
第3章 過酷な道
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第69話 大捜索開始!?

 謎の賊によるハンナの誘拐と、王都に潜入してきた魔人族デズモンドによる火事騒ぎ。魔人族の男はともかく、ハンナが国外へ連れ去られるのを是が非でも阻止したいアラン達は、王城に入るとロベルトの居場所を探した。


 すると偶然にも中庭へ出ようとしていたロベルトに出くわし、セシリアは怪しい馬車の目撃情報を伝え、北の国境にある関所を厳重に固めるよう頼んだ。


「賊はイゼリン街道に出たか! セシリア、私に任せなさい。幸い、関所には魔力通信装置がある。早速厳重に警戒するよう連絡を入れましょう。東の港にいる配下を呼び戻し、北を重点的に主な街道筋へと派遣する!」


 ロベルトの後ろにいた聖天馬騎士団の隊員が、バタバタと駆け出していく。


「お聞き入れ頂きありがとうございます、ロベルト様」


 猫を被ったセシリアがにこやかに礼を述べると、ロベルトは少しはにかんで暫し見詰め合った。アランが軽く咳払いすると、2人は視線を逸らした。


(何やってるんだか。ロベルト様もセシリアがテーブル叩き壊したの見てたのに……)


 一昨日、王城内のサイモンの執務室での光景を思い出すアラン。その視線に気付いたロベルトは、取り繕うように真面目な顔付きになった。


「コホン。ところで、何やら西側で煙が上がっていたそうだけど」


「はい。デズモンドと名乗る人間に化けた魔人族の男が、大通りの街角で火の精霊を召喚したんです。それで民家に火が……どうにか延焼は防ぎましたが取り逃がしました」


 多少なりとも目撃者がいたので、アランは包み隠さず事実を伝えた。


「魔人族だって!? 奴らとの最前線でもある帝国には、複数潜入していると噂には聞いている。かなり巧妙に人間に化けるそうだが、それがこんな南の我が国にまで……」


「ちなみに、怪我人の治療は私が行いました。これはお手柄ですよね! 治癒呪文(ヒール)は得意でして、素早い処置が効を奏し……うぐっ」


 ステラが褒美欲しさに急に自らの功績を過度にアピールし出したので、マルリーナが口を押さえた。ロベルトはステラのあまりの熱に少し面食らっていた。


「と、ところで……どうやってその男が魔人族だと見破ったのかな?」


「マリノアでの水神ラーナとの戦いが、使い魔を通じて魔人族にも伝わったらしいんです」


「デズモンドという男、私達の名前を知っていました。いきなり襲撃してきたので驚きましたけど」


「セシリアを狙うとは許せない! そいつも捕えてやります。手配書を大至急作成しましょう! 魔人族の男、赤毛以外に顔付きや特徴は?」 


 勘違いしたロベルトは発奮し、セシリアが後退(あとずさ)りするほど熱のこもった目で、その手を取って詰め寄った。セシリアは大まかな顔立ちや服装を伝える。熱心に耳を傾けるロベルトだったが、ハンナの方もお願いしますと言われると「あっ!」と叫んだ。


「絵師を呼んでくるんだ! あと魔導書記も!」


 残っていた2人の部下は、団長(ロベルト)に命じられると足早に去っていった。ロベルトはアラン達に客間で待つようにと言い残すと、慌ただしく入口正面階段を上っていった。魔人族が王都に潜入してきたが逃亡した、という話は瞬く間に城内を駆け巡った。ロベルトの父で財務大臣のサイモンへ、更に国王へと伝わり、事は大きくなっていった。


 アラン達はエントランス横の客間に入り、やって来た絵師にデズモンドの特徴を伝え、マルリーナはハンナ捜索の為に彼女の人相を細かく話した。やがて2つの似顔絵が完成し、絵師の男はこれを元に魔導書記が手配書を作成するのだと語った。特殊な紙と魔法を用いて複写まで行うと聞いて、アラン達は驚くばかりだった。


「おい、魔人族の野郎が王都から逃げたらしいな!」


「朝の火事騒ぎはそいつの仕業らしいぞ」


「混乱に乗じて城内への侵入を……」


 客間の前を兵士が通り過ぎていく。客間といっても一時的な待合室のようなもので、扉は無く外の声はよく聴こえる。


「陛下のお命を狙ってたって?」


「いや、クラリネ様を(さら)おうとしたって話だぞ?」


「何だと!? あんな可愛らしい、年端もいかぬ王女様を! 許せねえ!」


 憤慨した兵士の1人が、何やら喚きながら正面玄関から外へ飛び出していった。


「なんだか大事(おおごと)になってきたぞ。1時間くらいしか経ってないのに、話に尾ひれが付いてるな」


「聖天馬騎士団だけじゃなく、大々的に動いてくれるのね。ロベルトも張り切ってたし、まあいいんじゃないの」


 室内の豪華な調度品に手を伸ばすステラを牽制しながら、アランとセシリアは外の様子を窺っていた。


「ハンナの誘拐とごちゃごちゃになってるような気もしますが、これなら早く解決するかもしれませんね!」


 使用人の女性が運んできたお茶を啜り、クッキーを頬張りながら、マルリーナは猫耳をせわしなく動かしてはしゃいでいた。力ずくでステラを椅子に座らせたアランとセシリアは、ようやく自分達も腰掛けてお茶を飲んだ。


「ふーっ、美味い。……あとは情報が集まってくるのを待つだけだな。国境さえ固めてもらえば袋のネズミだ」


「魔人族の男はともかく、ハンナは早く助け出さないとね」


「師匠、なぜハンナを誘拐したのか、賊を捕まえたら私が聞き出します!」


 昨日から少し塞ぎ込んでいたマルリーナだったが、段々と生来の活発さを取り戻していた。その時、ある一団が玄関から入ってきた。


「あっ、あれは先日の貴族のお坊っちゃん」


 ステラの声に皆が腰を浮かして外を見ると、見覚えのある少年がいた。横には腰にレイピアを差した短髪の青年がおり、年配の貴族に挨拶をしていた。


「ジャシンとかいう、マセたクソガキじゃない!」


 ティーカップを小さなテーブルにガチャン、と置いてセシリアが苦々しげな表情になった。それは紛れもなく、モーガン親方の工房の前でアラン達と一悶着あった、名門貴族トゥラーダ家のジャシン少年であった。横の青年はアランと戦ったリカルドである。アランは自然と力んでいた。


 マルリーナが猫耳をピクピク動かして、客間の出入口からそっと聞き耳を立てていると、ジャシンはそれを目敏く見付けた。挨拶を終えると、ツカツカと客間に向かってくる。マルリーナはサッと身を引いて仲間の元へ戻った。


「おい、冒険者風情のお前達が何故城内にいるんだ?」


 ジャシンは入ってくるなり、不愉快そうに訊ねた。リカルドも目付きが鋭い。アラン達は壁際に並んだ椅子から一斉に立ち上がった。


「お聞き及びかは存じませんが、王都の西側で人間に擬態した魔人族が火の精霊を召喚し、街に火を放ちました。我々が交戦したので、手配書の作成に協力したのです」


「ふん、そうか」


「相変わらず可愛いげのないガキね」


「貴様っ!」


 セシリアに腹を立てたリカルドが、レイピアに手を掛けた。


「あら? 城内で無闇に剣を抜いたら罪に問われるんじゃないかしら?」


「ぐっ……」


 レイピアの柄を握るリカルドの手がプルプルと震えている。


「リカルド落ち着け。この女は無礼だが、さすがにここではまずい。いずれ……」


 ジャシンはリカルドを宥めたが、アランが腰に差す剣に目を留めると黙り込んだ。美しい鞘と柄に目を奪われているようであった。セシリアはその視線に気付くとニヤリとした。


「お目が高いですねえ? アランの新しい剣は、モーガン親方に打ってもらった逸品よ。魔人族と出くわしたのが工房の前で、ちょうどよく依頼していた剣を受け取ってね。この剣の力で民家の火事は鎮火したの。さしずめ水の魔剣かしら」


「な、なんだとっ? 僕があれほど命じたのに、お前に作ったと言うのか? そんなの認めないぞ! イヤだイヤだ! 僕も魔法の剣が欲しい! 欲しい! それを寄越せ!」


 駄々っ子のように喚くジャシン。


「そんなに欲しいなら忠実な部下を使って強引に奪ってみたら? また決闘する?」


「お、おいセシリア……」


 アラン専用とも言える魔剣なので、ジャシンが手にしたところであまり意味が無い。そもそも子供が持つには長すぎる剣である。アランはセシリアの提案に戸惑った。


「面白そうね! その決闘、私が許可するわ!」


「!?」


 皆が驚いて振り向くと、そこには緩やかに波打つ癖っ毛をした金髪の少女。アラン達が王都に到着して早々に謁見した人物────クラリネ王女の姿があった。


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