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神様、今日も頭が痛いです 作者:安東盛栄

第2章 レーブル王都

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第47話 エルザ

 アランを強引に外へと連れ出し、タズマの元へ案内すると申し出た、褐色の肌をした少女。アランは突然の展開に目をぱちくりさせていた。

「さっき、タズマの爺さんの居所を聞き回ってたんでしょ? あの偏屈爺さんを尋ねて来るなんて珍しいわね」

「……! 知ってるなら是非とも案内して欲しい! あ、僕はアランといいます」

「分かった。私はエルザよ。宜しくアラン。呼び捨てで構わないから」

 耳が隠れる程度の灰色がかった髪に、大きな黄色い瞳。アランより上背があり、やや大人びた雰囲気を持っていた。鉱夫と似た厚手の服は汚れていて、半袖から伸びる腕はガッチリとして逞しく、女戦士顔負けである。17~18歳位の少女は、鉱山労働に従事しているらしい。

「どうしたのっ?」

 遠目にはアランが建物から引きずり出されたように見えたので、セシリアが急いで駆け付けてきた。遅れてマルリーナが、最後にアランの担いでいた荷物をステラがふらつきながら持ってきた。

「喜べセシリア。こちらのエルザが、タズマの居所まで案内してくれるってさ」

 エルザに対し警戒感丸出しだったセシリアは、ガラリと表情を一変させた。

「本当に!? 貴女、タズマの知り合い?」

「ああ、前に山中で助けられてね」

「やった! さあ早く案内して頂戴!」

 拳を突き上げて喜びを全身で表現するセシリアに、エルザは「お、おう」と若干引いていた。苦笑したアランは、セシリアを始めにエルザに仲間を紹介した。

「へえ、冒険者の一行か。ハッハッハ、ここで働く獣人族も多少はいるけど、猫族は珍しいね。可愛い」

 エルザはマルリーナの頭をふわりと撫でた。しかも、頬を紅潮させ微かに息も乱れている。外見は男勝りだが、内面はそうでもないらしい。アランはピンときた。

「ひょっとしてエルザも猫好き……?」

「ふあっ? い、いやその……。あれ? 『も』って言うと、アランも?」

「そうさ」

「同じく」

 アランが軽く頷くとステラも進み出て、3人は互いに視線を交わし、固く手を取り合った。

「エルザ。『リーナの猫耳を()でる会』に入らないか?」

「喜んで」

「仲間が増えて嬉しいです」

 3人が中腰になって輪になり、顔を突き合わせてニヤリとする光景に、猫耳をピクピクさせたマルリーナがのけ反った。

「いつの間にそんな会が発足していたんですか!?」

「何よそのふざけた集まりは。出逢ってすぐ意気投合してるんじゃないわよ。エルザも仲間になったわけでもないのに即入会とか……」

 セシリアとマルリーナを放置して、ヒソヒソと話し合う3人。何度か笑い声を上げては声を潜めたり、つい先程出逢ったばかりとは思えない雰囲気である。セシリアは猫好きというだけでこんなに打ち解けて距離が縮まるものなのかと、理解に苦しんだ。

(変態猫ツーチなら、狂喜して入会するでしょうね。さすがに勧誘しなかったみたいだけど)

「あ、あの! 師匠のためにもそろそろ案内の方をお願いします」

 見かねたマルリーナが強めに訴えると、ようやく3人は輪を解いた。

「ごめん。つい盛り上がっちゃって」

「…………」

 にやけるアランに、話の内容までは聞く気になれないマルリーナであった。

「なあに? そっちの2人は師弟関係なの? 師と仰ぐには若すぎない?」

「それは私が一方的に……厳密には師弟の間柄とは呼べません。そんな事よりタズマさんの所まで案内を」

「師匠……師匠か。いい響きだな。そうだ、マルリーナ……いや、リーナ! 私を『お姉ちゃん』って呼んでくれない? 一度でいいから! そしたらすぐ案内する。約束だ!」

 妙なスイッチが入り、エルザの呼吸が再び荒くなってきた。マルリーナはセシリアの顔を窺い、とっととやりなさい、と言われてる気がして承諾した。興奮気味のエルザが正面で前のめりになり、聞き逃すまいとしている。

「い、いきますよ? ……お姉ちゃん。エルザお姉ちゃん!」

 やや恥ずかしそうに、猫耳を垂らして上目遣いで口を開いたマルリーナの姿に、エルザだけでなくアランとステラも悶えた。それぞれ陶酔したように全身をくねらせたり、自分で肩を抱いて震えていた。通り掛かった者は変人を見るような目付きであった。周囲の人目が気になり、マルリーナは俯いた。

「気持ち悪い……」

 狂態とも言える3人に対し、セシリアの率直な感想がそれであった。直後にアランが頭を押さえてうずくまり、セシリアは全身がこそばゆくなってキャハハハ、と笑い出していた。


 余韻に浸っていた2人と頭痛に襲われたアランが落ち着くと、エルザは約束通り案内を始めた。アランの頬は、朝にも増して腫れていた。つい今しがた、セシリアの強烈な平手打ちが炸裂したからである。

「アランが悪いんだからね」

 セシリアは重い荷物をアランに担がせると、不機嫌そうに呟いた。ステラとマルリーナは例の変な呪いの発動だと思い、エルザはそんな2人の様子に首を傾げていた。

「さあ、まずはここだ」

 歩き出して間も無く、エルザはとある食堂の前で止まった。

「ここって……」

「私が行きつけの食堂だよ。まずは腹ごしらえしよう」

 そう言うや否や、エルザは「腹減ったー」と言いながら入店した。ちょうどお昼時だったので、アラン達も反対はしなかった。適当な席に着くと、セシリアがおもむろに提案した。

「朝から始まった諸々の罰を込めて、ここはアランの奢りね。エルザ、遠慮しないでいいから好きなだけ食べて」

 セシリアが宣言すると、朗らかな笑顔のステラとマルリーナからパチパチと拍手が起こった。エルザはギラリと目を光らせ、両の掌でテーブルをバンッと叩いた。

「アラン、いいのか!? 食うよ、私かなり食うよ? ここぞとばかりに食うよ?」

「あ、ああいいよ。案内してもらうんだし」

「気前がいいんだな! よーし!」

 昼は酒類は提供していない店だったので、エルザは片っ端から料理を注文していった。川魚や山菜料理などが次々と並ぶと、凄い勢いで平らげていく。セシリアは熊の手、稀少なキノコなど、高い物を中心に頼んでいた。

(あ、あれ? この既視感……そうか、ハンナの時と似てるのか……)

 長々と2時間近くにも渡り山の幸を堪能した結果(主に女性陣)、アランの財布からは銀貨が何枚も消えていた。

「あー食った食った。さて、タズマ爺さんの家に行ってみるか」

 エルザは太鼓を叩くように、お腹を何度もポンポンとした。アラン以外は満ち足りた顔を浮かべている。一行は街の中心からどんどん遠ざかり、盆地の西側にある渓流へと向かった。十数メートルの川幅に、立派な石橋が掛けられている。

「そういや、アラン達はあの爺さんにどんな用件があるわけ? まさか冒険者が鉱脈探しを依頼するわけないし」

「当代随一の甲冑師だったと王都で聞いて、セシリアの鎧を鑑定して貰いたいんだ」

「へえ? 意外だね。そんなの初耳だなぁ」

 エルザはセシリアの全身を覆う金属鎧に少し興味を抱き、チラチラと何度も振り返りながら橋を渡った。涼しげな川のせせらぎが聴こえてくる。向こう岸はゴツゴツとした岩場で、大きな岩の上から釣糸を垂らす子供たちがいた。

 橋を渡り川を越え、小さな林を抜けると、そそりたつ岩壁に突き当たった。坑道とおぼしき穴があちこちに空いており、そこへと至る岩肌を削った階段や坂が、幾重にも重なって見えた。階段横に手掘りで岩肌をくりぬいたような穴があり、エルザは入口に垂れ下がる藁の(むしろ)をめくると、中を覗き込んだ。この穴がタズマの住居であった。

「真っ暗だ。いないみたいだね。一応来てみたけど、最初に言った通り山に入ってるんじゃないかな」

「そうか……。セシリア、どうする?」

「……エルザ。タズマのいるおおよその見当は付くかしら?」

「う~ん、近場で未発掘の場所にいればいいんだけど。深山に入ってたら難しいよ。鉱脈探しの山男は、時には半月も戻らないって聞くし」

「それなら近場にいる方に賭けるわ。そこへ案内して」

「分かった。では山に入る準備をしようか。私は一旦家に帰るから、皆はここで待ってて……」

 エルザが張り切って駆け出そうとすると、雨がポツポツと降ってきて、あっという間に本降りになった。慌ててタズマの住居である洞穴へと避難した。エルザが備え付けのランプに火を点す。内部は数人が過ごすには十分な広さで、藁の寝床があった。空の酒瓶が1本と質素な木椀が床に転がっているだけで、生活感は乏しかった。

「師匠……これでは山に入るのは厳しいですね」

「確かに濡れるのは嫌だし」

「ちょうど雨宿りに最適な場所があって良かったですね」

 ステラはランプを囲んで輪になって話すのが新鮮で楽しい、と喜んでいた。アランはセシリアとの出逢いや、その後の旅などをエルザに語り時間を潰した。雨が止む頃には、外は日が落ちかけていた。

「山へ入るのは明朝だな。宿でも探そうか」

 アランが荷物を担いでフーッと溜め息をくと、エルザが勢いよく立ち上がった。

「それなら私の家に泊まりなよ! 雑魚寝になっちゃうけど……。近くに秘湯温泉が湧いてるから、お肌ツルツル、旅の疲れも吹っ飛ぶぞ!?」

「秘湯!?」
「温泉!?」

 レーブル国内において、温泉は憧れの的である。鉱山町バルネリオがあるここオンベルト山脈に数ヵ所点在するのみで、辺鄙な場所が殆んどなのでわざわざ入りに行く者は極めて少なかった。王侯貴族や大商人の中には、大勢の人夫を雇って湯を運ばせる者がいるくらいである。

 セシリアを除く全員が目を輝かせ、声を揃えてエルザに詰め寄っていた。
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