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神様、今日も頭が痛いです  作者: 安東盛栄
第2章 レーブル王都
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第39話 魔人族

 アラン達がレーブル王都クエルティアを訪れた日から、遡ること半月ほど前――――


 今や魔人族の領有する地となって久しく、人間には未知の地域となった大陸北部。そのほぼ中央に築かれた禍々(まがまが)しき城。かつて大いに栄え、魔人族によって滅亡したとある王国の城跡を改修した、魔人族の首都パルミドである。


 城壁内部、城の北側には直径数十メートルもある巨大な逆五芒星の魔方陣があり、紫炎のような物が絶えず噴き出している。五芒星の先端の延長線上に設置された高くそびえる5つの尖塔がそれを吸収し、尖端に取り付けられた金具から、空へ向けて度々魔力を放出していた。日が落ちると、城の輪郭が遠目からでも分かるほどであった。


 黒褐色の石材で出来た城と城壁。その内部の殺風景な玉座の間において、1人の男が肘掛けに片肘を付いて配下の報告を受けていた。人間側は名を辛うじて伝え聞くのみで、まだその姿を見たものはいない魔人族の王。大陸制覇をもくろむギーマその人であった。


 魔界の魔族や不気味な髑髏を模したデザインが所々に配された黒っぽい玉座。そこに腰掛けるギーマを始め、左右に居並ぶ側近や臣下、警護をする兵士は皆、人間に比べて非常に青白い肌をしている者が多く、額や側頭部から角が生えていた。形状や大きさは様々で、魔人族の大きな特徴の1つである。


 老境に差し掛かった外見で、灰色交じりの白髪と口髭。痩せぎすで神経質そうなギーマは、配下の報告が終わると、暫しの沈黙の後に豊かな口髭を弄びながら口を開いた。


「未だに人間ども……帝国軍を打ち破れぬと?」


 猛禽類を彷彿とさせるギーマの眼光を受け止めきれず、前線から派遣された伝令は震えながら目線を落とした。


「はっ。今回の大攻勢も失敗に終わりました。クバーナ帝国の飛竜騎士団、魔術師団、魔法剣士団。手練れ揃いの上に流れるような見事な連携で、我が軍は常に後手に回り損害激しく……」


「大敗を喫したと申すか」


「は、ははっ。全軍の半数近くを失いました。第3軍のウラヌス将軍が殿しんがりを務めて戦死。モンスターの小隊を指揮する猛獣使い(ビーストテイマー)が次々と狙われ、統制を欠いたモンスター軍団は特に大打撃をこうむりました」


「具体的にはどれ程だ?」


 前をはだけた服を着た壮年の男。引き締まった筋肉を胸元から覗かせる側近の1人が、王の代わりに訊ねた。


「8割に達するかと……」


「あらあら、再編成には骨が折れそうね」


 色鮮やかな鳥や魔物の多種多様な羽根を、首回りや袖に配した派手なローブを纏った女が、クスクスと笑った。彼女もまた側近の1人である。


「もうよい、下がれ」


 ギーマは手首を少し返すようにして、伝令に退室を命じた。重厚な扉を開け、ギクシャクした足取りで伝令兵が玉座の間から出ていくと、魔人族の王はフーッと溜め息を漏らした。


「正攻法ではダメか」


「陛下。諸国から腕利きの冒険者や傭兵も前線に集結しています。我ら五将星が出張らぬ限り、前線突破は難事かと」


 巨大な斧にフルプレートアーマー。重装備に身を固めた、身長が優に2メートルを超える巨漢の騎士が、王に進言した。


「ふむ。だが、今はそなたらにパルミドを離れてもらうわけにはいかぬ。魔方陣の効力が著しく低下するであろうからな……」


 残念そうにギーマが呟くと、5人の側近も悔しさを滲ませた。そこでふと思い出したように、ギーマが左右に10人ずつ並ぶ臣下の後方へ声を掛けた。


「あの件の続報はあるか? 少し前に、遥か大陸の南端において、強大な魔力を持つ何者かが出現した、と報告が上がっていたが」


 末席にいた者が1歩進み出て、うやうやしく頭を下げた。


「その正体は未だに掴めておりません。低級な使い魔の報告によりますと、先日マリノアという南端の港町で、古き水神ラーナが人間どもに敗れたそうにございます。その際、またもや強い魔力の波動が確認されたとの事です」


「ほう……水神を倒すほどの魔力を有する人間がいるとは、(にわか)には信じ難いが」


「その点につきまして、気になる事がございます」


「何だ? 申してみよ」


 興味を示したギーマが肘を付くのを止め、姿勢を正すと、情報網の管理・分析を担う男は、ゴクリと唾を飲み込んだ。


「確証は得られておりませんが、水神を倒した人間の少年、どうやら上位魔族を魔界から召喚し、使役したと……」


 これにはギーマだけでなく、玉座の間にいた全員がざわめいた。


「人間風情が魔界とのゲートを開いたというのか?」


「一体どのような手段を用いたのだ?」


「我らとて、ゲートを安定させるのが困難で下級のモンスターしか呼び出せないのに」


 側近の面々は驚きを隠せなかった。


「それだけではございません」


「……? まだ何かあるのか?」


「はい。(くだん)の少年が率いる若年者のパーティー内に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()可能性が……」


「何? …………クックックッ。それは興味深い。引き続きその者達の監視を怠るな」


「ははっ。仰せのままに。早速使い魔どもに指令を出して参ります」


 男が玉座の間から退室すると、ギーマの目は爛々と輝き、強い光を帯びていた。


(そやつらは、もしや……。これは面白くなってきたわ)


 低い含み笑いは、やがて大きな物へと変わった。いつしか玉座の間に、ギーマの哄笑が響き渡っていた。臣下の者達は反響する主の笑いに戸惑い、顔を見合わせるばかりであった。


 ◇ ◇ ◇


「…………はっ!!」


 何かとても嫌な夢を見た気がして、ハンナは飛び起きた。だが、起きた瞬間に夢の内容は薄れ、どうしても思い出せなかった。


 時はアラン達が冒険者ギルド本部を訪れた日の深更。ここはアラン達の滞在先である、オルドレス公爵家の客室。普段ハンナが使っている藁の寝床とは全く違う、ふかふかのベッド。上半身を起こしたハンナは、窓側の方へ首を回した。はっきりとは見えないが、マルリーナが静かに寝息を立てている。


(起こすのは悪いし、1人で行くしかないか……)


 催してきたハンナは、用を足すためにそっと廊下へ出た。すると、ちょうど小さなランプを携えたアランと鉢合わせた。


「ひゃっ!? なんだアランか」


「そっちこそ脅かさないでくれ。ひょっとしてハンナも小便か?」


「うん……って、もうちょっと遠回しに言ってよ」


「え? ごめんごめん。じゃあ一緒に行こうか」


 2人は小声でヒソヒソと話しながら、便所へと急いだ。アランはハンナに先に譲り、入れ替わりで便所に入ると、用を足した後に少しぼーっとしていた。ハッとして廊下へ出ると、窓際にもたれかかったハンナがむくれていた。


「遅~い」


「悪い悪い。ちょっと考え事してた」


「……ねえアラン、ちょっと話があるんだけど」


 ランプの灯りに照らされたハンナの顔は、いつになく真剣だった。


「ここで? 別にいいけど」


「アランが私を王都へ連れてきたのは、会わせたい人がいるから、って言ってたけど」


「うん、まあ……」


「……私、マリノアで日々の生活に追われて深く考えていなかったんだけど……。ふと思ったの。私って、子供の頃の記憶が無い。ううん、それどころかマリノアに住んでから1年にも満たないのに、それ以前はどこで何をしてたのか覚えてない」


 ハンナは窓にそっと手を当てて、美しい星空を眺めた。


「私もセシリアと同じみたい。それに、初めて彼女に会った時、変な感覚があったの。ずっと前から知ってるような……」


(……あの時、何か思いだしかけていたのか。記憶を失う以前のセシリアとハンナは、どんな繋がりが……?)


「会わせたい人って、その事と関係があるの?」


 ゆっくりと振り向いたハンナの紫の瞳は、不安や恐れの色が滲んでいた。アランは口を引き結んで黙っていたが、やがて口を開いた。


「……実は、記憶喪失になる前のセシリアとハンナは、面識があるらしいんだ」


「…………」


 ある程度の予想はしていたのか、ハンナにそれほどの動揺は見られなかった。


「君は……」


 実は魔人族なんだ、と喉まで出かけたアランは、どうにか抑えた。肩に力が入っていたのに気付き、軽く回したり力を抜いて緊張をほぐす。


「明日はその人を訪ねてみよう。何か記憶を取り戻す切っ掛けになるかもしれない」


「……うん。分かった。……おやすみっ!」


 少々不安げなハンナであったが、小さく頷くとパタパタと廊下を走っていった。


「おやすみ」


 薄暗い廊下でポツリと呟いたアランは、自室へと戻っていった。

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