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神様、今日も頭が痛いです 作者:安東盛栄

第1章 港町・マリノア

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第1話 突然の出会い

 ――神に祝福された『人間』と、魔に魅入られて人間を棄て、魔族に魂を売った『魔人族』が、覇権を競って争う世界。

 魔人族を後押しする魔族が、魔界からの侵攻を本格的に企てているとの噂が絶えない、そんな不穏な時代。

 アストリア大陸の南東部に位置する風光明媚な国、レーブル。この物語は、そこから始まる。

 鋭く切り立った岩場に波濤はとうがぶつかり、大きな音がして水飛沫が上がる。海沿いに広がる、緑豊かな草原。春の到来で草木は青々と茂り、生命力に満ち溢れている。そこから遠く、湾を隔てた岬の突端には、斜面にへばりつくように人家が密集していた。

 そんな見晴らしの良い場所に現れた人影。

 常人ならば目が眩み、足がすくむ程の高さの崖を、一人の少年がするすると降りていく。少年は高所をものともせず、器用に移動しながら断崖の所々に生えている薬草を摘んでいった。

「これくらいで十分かな」

 一息()いた少年は、一気に崖を登った。腰に付けた袋の中身を確認し、満足気に笑うこの少年。名はアランという。

 くすんだ茶色い髪に、これまた茶色い瞳。中肉中背で、ごく普通の容姿。腰には安物のショートソード。着ているのはごわごわした麻の服で、誰の目にも貧しい暮らしが見てとれた。

(よし、この薬草を売った金を足して、まともな装備を買うぞ!)

 アランは冒険者になる事を夢見て、16歳になると同時に故郷の村を飛び出した、この物語の主人公である。2ヶ月ほど経過した今は、冒険者ギルドの支部の中でも村から一番近い、港町マリノアで暮らしていた。アランが薬草を採取していた場所から遠望出来る、岬にある町である。

 アランは激しい波の音を聴きながら、弓形に窪んだ湾内の風景をしばし観賞した。

「さあ、夕暮れまでには帰らないと」

 この付近には脆弱なモンスターしか生息していないが、集団に出くわすと厄介である。アランは剣を抜いて警戒しながら歩き始めた。

 ものの数分もを進めると、小さな茂みの先は遮蔽物の無い、なだらかな起伏の草原がしばらく続いている。

(ここを突っ切れば近道だ)

 モンスターの姿が無いのを確かめると、アランは足早に移動を開始した。

 軽快に足を運び順調に進んだのも束の間、アランは柔らかな地面を踏み抜いた。茶色い土が露出し、浅い穴に足首が埋まっている。

「ん? これってまさか……」

 アランがそっと辺りを窺うと、右側の少し離れた地面のあちこちに、同様の穴がポコポコと空いていた。

「キーッ!!」

 穴の1つから頭を出した獣が、仲間に外敵の侵入を報せる甲高い鳴き声を上げた。たちまち数十匹が巣穴から湧き出てくる。

「やばい! イバの巣だ!」

 イバとは、野ウサギがモンスターとなり巨大化したものである。大きさは犬ほどもあり、敏捷性は低下したが、丈夫な歯と顎を持ち、前足の爪もなかなか鋭い。個々は弱いが、集団となると、アランのような未熟な腕では脅威である。

 白や薄茶色の柔らかな毛をしたイバがアランの姿を捉えると、一斉に駆け出す。アランが半泣きで走り出そうとした時、突然背後から首筋を掴まれ、豪快に後方へと投げ飛ばされた。

「痛っ! なっ、何だ?」

 背中から倒れ、草の上を若干滑ったアランは、一瞬何が起こったのか分からなかった。

 上半身を起こしたアランの目に飛び込んで来たのは、黄色く長い髪をなびかせ、青黒い金属製の鎧に身を固めた女性の後ろ姿であった。

「わーっはっはっは!! 少年、助けてやる。這いつくばって感謝しろ!!」

 殺到する大ウサギ(イバ)を前に、女性は居丈高に怒鳴ると、左手を前にかざし、たちまち青白い玉を形成した。声は年端のいかぬ少女に紛れもない。

「喰らえ! 裁きの(いかずち)! 『迅雷グローム』!」

 魔力が込められた玉から、バリバリという轟音と共に、凄まじい雷が幾筋も扇形に放射された。少女に猛然と迫っていたウサギの群れは、哀れにもその殆んどが黒焦げとなり、瞬時に絶命した。直撃を免れた数匹が生き残っていたが、ブルブルと震えて動かない。あちこちで焦げた草がプスプスとくすぶっている。 

「見た? どうよ、私の魔力は!」

 少女が得意気な顔で振り向き、アランは呆気に取られながらも、少女の顔をまじまじと見た。

(一体何者だ? どこから現れたんだ? 誰もいなかったはずだけど)

 唐突な救援者の出現に、戸惑うアラン。しかも尋常な使い手ではないのが、素人目にもはっきりと判る。

 年齢はアランと同じ位で、腰には長剣を差している。前髪は綺麗に切り揃え、キリッとした眉に魅惑的な青い瞳。ややあどけないが、整った顔立ち。しかし、口角を歪めた笑みはゾッとする冷たさを孕んでおり、魔法の威力も合間ってアランは背筋が凍った。

「あ、あの……。助けてもらっておいてなんですけど、イバ相手にやり過ぎじゃ……」

 アランは精一杯の作り笑顔で応えた。途端に少女の眉が吊り上がり、つかつかとアランに歩み寄ると、胸ぐらを摑んでガクガクと揺らした。

「バカね! クソザコモンスターを圧倒してもてあそぶのがいいんじゃない! 圧倒的な実力差に酔いしれ、愉悦するっ! そしてあんたみたいな貧弱なヤツの、畏敬と! 羨望の的になるっ! これぞ強者のたしなみよ! あははははっ!」

 高笑いをする少女の顔は、性格の悪さがにじみ出ていた。

(……ヤバイ! このは、あまり関わらない方がいい人種だ)

 アランは少女の言動に恐れをなし、一刻も早くこの場所から立ち去りたい衝動に駆られた。

「わ、わかったから離して……? えっ? か、身体が動かない!」

 少女はアランを突き飛ばして尻餅を付かせると、腕組みをしてフフンと笑った。

「『縛鎖タイト』の呪文よ。残りのザコ同様、動きを封じたわ」

 いつの間にか、アランの手足や身体は白い魔法の縄で縛られていた。

「な、なんで僕まで?」

「逃がさない為よ。私の華麗な魔法と、これから披露する剣術の見物料として、有り金全て出してもらうから。助けた謝礼込みで……って、よく見たらみすぼらしい格好ね。お金が無いなら、その剣と袋の中身を根こそぎ寄越しなさい」

「えっ? ちょっ……」

 狼狽するアランには目もくれず、少女はくるりと背を向けると、身動き出来ずに悶えて鳴く残りのイバに、左手の五指を広げてかざした。今度は深紅の玉が出現する。

(なんなんだよっ!? いきなり現れて無茶苦茶だっ! 冗談じゃない!)

 今のうちに逃れようと必死にもがくアランであったが、白く輝く魔法の縄はびくともしない。

「……地獄の業火よ、来たれ! 我が敵を灰燼かいじんと化せ! 『煉獄炎プルガー』!」

「うわっ?」

 熱風が旋回し、高さ10メートルはあろうかという巨大な火柱が噴き上がった。先程の呪文で息絶えた死体の多くと、残りのウサギたちが巻き込まれ、燃え上がる。

「あははははっ! 燃え尽きろ! あら、やり過ぎたかしら? 全滅しちゃったわ。まだ剣で切り刻んでないのに」

 さも残念そうに呟く少女。火柱が消滅すると、地面には直径数メートルに達する円形の焦げ跡――ではなく、灰が積もっていた。

(す、すげえ! さっきのといい、まさかこれが高位魔法ってやつか!?)

 生まれて初めて見る強力な呪文に、アランは自分の置かれた状況も忘れ、暫しの間感動していた。だが、酷薄な笑みを浮かべた少女の横顔が、すぐに現実へと引き戻した。

「あら、あっちに別の群れがいるわね。ふふふふ、次はこの剣で!」

 少し離れた場所にいるウサギ(イバ)たちを目掛けて、剣を抜いた少女が走り出した矢先――――

「きゃっ!?」
「あっ!」

 足を滑らせた少女が派手に転倒し、アランも同時に声を上げた。少女は大きな石にしたたかに頭を打ちつけ、伸びてしまった。

 少女が気絶したと同時に魔法が解けたので、即座に逃げようとしたアランであったが、一応助けてもらった恩もあるため、心配になって駆け寄った。幸いな事に、大ウサギたちはピョンピョンと跳ねて逃げ去っていく。

「だ、大丈夫ですか?」

 アランが声を掛けて介抱しようとすると、その手が触れる前に少女はパチッと目を開けた。何やらきょとんとしている。

「無事みたいですね。僕はアラン。助けてくれてありがとう。さっきの魔法、とんでもないですね! で、お名前は……ハッ!」

 上半身を起こしたままボーッとした少女の様子に、アランは頭を抱えて心の中で叫んだ。

(そ、そうだ! このままじゃ身ぐるみ剥がされてしまう! さっさと逃げるんだったあああぁぁ!!)

「あんたを助けた? 私が……? 私の……名前……分からない。思い出せないわ」

「え?」

 意外な返答に、アランは固まった。

「あなた誰? ここは……どこなの?」

「僕はアランです。ここは……って、ええっ!? まさか記憶が……?」

 先程までの凶悪な人相が嘘のように、少女は不安そうにしている。そして潤んだ瞳で見上げられると、アランは不覚にも胸が高鳴った。

 アランはこの謎の少女との出会いが、壮大な冒険の幕開けになる事をまだ知るよしもなかった。
ようやく新連載です。1週間ほどは毎日更新し、その後は2~3日に1話のペースで投稿したいと考えております。

縮尺などの単位は、既存の物を使用しております。よろしくお願いします。
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