第三話 そして俺は自分の部屋に入った
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俺は自室と思われる部屋へアイリに案内された。しかし中々広い館だ、正直案内が無ければ迷子になってしまいそうだ。
しばらくするとアイリが立ち止まる。心なしか嬉しそうだ。
「こちらがユーリ様のお部屋になります」
中に入ると、――なんだろう。温かいものを胸に感じた。そして懐かしい空気も感じる。
「相変わらず訓練道具ばかりですが、いつ戻ってきても良いようにきちんと清掃はしてましたよ」
アイリが胸を張って俺に言う。程よい程の胸が少し揺れる。
一瞬胸に目が行ってしまったのはきっと気のせいだろう。そうだ気のせいだ。
しかし訓練道具ばかりとは、中々言ってくれる。すごく住みやすそうな部屋じゃないか。
「そんな顔しないでください。部屋にあるのが武具に家具だけですし、殺風景と言われてもしょうがないですよ」
……確かに、室内に娯楽関係は一切存在しなかった。一体俺の趣味はなんだったのだろうか。俺は特に不便には感じないのだが。
「ユーリ様は口癖のように私たちを守ると言いながら、常に訓練に稽古、また訓練に稽古と修練と家事ばかりしていましたね」
以前の俺は脳筋だったようだ。間違いなく褒められていないのはわかる。
「ここから中庭が見えるでしょう?」
俺は窓から中庭を覗く。
そこには先程案内してくれたコウランと統率の取れた男女が鎧を着て訓練をしていた。
「毎日朝昼夜と、その中庭でコウラン様とユーリ様は兵士達と訓練をしていたんですよ」
俺はじっとその流れを見ていた。
ここからでは何を言っているのか聞こえないが、すごく必死な表情で動き回っているのは見て取れた。
「兵士の方々はまだユーリ様が起きたことを知らされておりません」
俺は少し驚いてしまう。
アイリの方へ振り向き問う、なぜ教えていないんだ。
「コウラン様から口止めをされています。ユーリ様が直接伝えるまで黙るようにと」
――――コウラン、兄の名前だ。
兄か、だめだ。やはり思い出せない。
すこし頭に痛みが走った為顔をしかめてしまう。
「ユーリ様、大丈夫ですか?」
俺は気にしないで欲しいという、何故か悩むと頭痛がしてしまうのだ。
早めに何とかしないといけないか。
「記憶障害の後遺症だとは思いますが」
アイリがションボリとしてしまった、俺は元気だとカッコつける。
両腕を上にあげて大きく万歳をしながらスクワットをしてみせる。
「ふふ、そんな事をしないでください、笑ってしまいます」
馬鹿な事をしたとは思うが、うん。
少しは元気を出してくれたみたいだ、よかった。
「どうしましょう、今から下に降りて皆さんに会っていかれますか?」
俺は考える、さてどうしようか。
いや、まだ会わない。きっと俺が記憶喪失だと知ると悲しまれると思うから。
「そんな事はありません。皆さんはユーリ様をすごく尊敬しております。逆に黙っていられた方が悲しくなってしまわれると思います。私もそうですから」
残念ながら違ったようだ、悲しまれてしまった。
俺の覚悟が無かったんだな、気合を入れなければ。
俺は両の頬を叩いた。
「私も付いていきますので、一緒に行きましょう」
俺は覚悟を決めると、中庭へ向って行った。
「あ、先程私の胸をじっと見たのは内緒にしておきますね」
――――見ていたことがバレていたようだ。
読んでいただき有難うございます