第8話 本格的なダンジョン攻略に向けての準備
某月某日金曜日、時刻は20時。明日、明後日は休日なので今日から本格的なダンジョン攻略が可能になった。
俺は今ダンジョンの入り口に立っている。なぜダンジョンの入り口で立ち止まっているのかというと、いくつかの準備をするためだ。
まずはダンジョンの入り口を閉鎖するための大きな岩を探す。もしもこのダンジョンのことが公の場に公表でもされたら世界中が大騒ぎになるだろう。そうならないためにも大きめの岩を入口に置いて、見つからないようにしようということだ。
ダンジョンに入るときには毎回その石を持ち上げなければならなくなるが仕方ないだろう。
俺は辺りを見渡す。相変わらず周りには人工物は何もなく、スマホの懐中電灯機能がないと何も見えない。しかしここは岩場になっているので大きな岩はいくつかあるな。
「お、いい感じの岩発見」
俺は近くに板のように薄く伸びている岩を見つけた。おお。これはほかの岩に比べて幾分か運びやすそうだな。よし、こいつにしよう。
俺は岩を持ち上げるために全身に力を入れる。そして勢いよく上体を起こした。
「ぐおおおおおお!」
何とかして岩は持ち上がった。しかし俺はあることを忘れていた。
「あ、やばい。これどうやって下せばいいんだろう!」
俺は頭をフル回転させた。案外早くこの状況を打破できる策を思いついた。
「そうだっ!はあはあ!魔力で身体能力の強化を!」
俺はそう思うなり自分の体に流れる魔力に意識を集中する。重い岩を持っているせいか制御が難しい。が、できないこともない。こう体全体に流れる魔力の流れを強く、速くするイメージで!
「おおお?かなり運びやすくなったぞ!」
運びやすくはなったが依然として岩の重さは自己主張をやめない。しかしこれなら何とかなるな。俺はダンジョンの入り口のすぐ横に岩をゆっくり立てかける。
「ふぁーーー!つかれたー」
漏れ出た声とは裏腹に身体のほうはまだ力が残っていることが理解できた。すげぇな魔力の力。だがまだ時間はたっぷりあるのだ。少し休憩してからダンジョンに入るとしよう。
俺は岩場の穴の中に入った。この空間自体はとても狭い。ダンジョンへと続く下に降りる階段が見える。俺は階段は下りずにその場に座った。
魔力といえば俺はもう一つ準備したいことがある。まずリュックサックから木刀を抜き出す。この木刀に魔力を送り込むとどうなるのか。俺は今日の昼に立花で実験をした時からずっと試してみたかったのだ。
俺は早速身体に流れる魔力に意識を向ける。そしてその流れを木刀のほうに向けて.....いいぞ。魔力がどんどん木刀に流れている。前回よりとても精密な魔力操作ができている実感がある。どうやら俺は魔力操作の才能があるのかもしれない。
しばらくして木刀に流していた魔力を止める。ずっと集中していたので結構疲れてしまった。が今は俺の自由を妨げるものなどいない。背中から地面に倒れこみ、俺の無駄に大きい体を地面に投げ出した。
「ふ~」
一息ついてから木刀を見てみる。外見には特に変化は見られない最近になって毎日のように見ている赤茶色の木刀だ。だがその内に秘めている魔力をこれでもかと言うほど感じる。なんかめちゃめちゃつよそう。
俺は立ち上がり、試しに木刀を振ってみる。
ぶん!ぶん!
「降り心地は変わらないか」
まあ外見的な特徴は皆無だから当然か。それではと俺は次の行動に出る。
俺は木刀を持ったまま洞穴から外に出て、周りを見渡す。春の終わりがはじまって少しずつ気温が上がっているはずなのだがまだ少し肌寒いな。
それはさておき俺は1メートルほどの長さの木の枝を探す。いくつかあるな。
「よし、こいつでいいか」
俺は身近にあった木に生えている直径10センチ程の枝に向かって木刀を構える。そして思い切り木刀を振りおろした。
バキィ!
なんと木の枝が簡単に折れてしまった。この木には少し申し訳ないがかなり気持ちいい感覚だった。木刀の刀身を触るが特に傷や凹みはない。おいおいまじかよ、この木刀ほんとに木でできてるのか?たぶん魔力を流したことにより威力というより硬さが変わったのだろうか。
少し気味が悪かったがそれ以上に今俺はワクワクしている。
「よし、準備完了だ。ダンジョンに入るぞ。」
防具には少し不満があるが、武器に関しては文句はない。俺は軽快な足取りでダンジョンへと続く階段に向かった。