第5話 自堕落少年とうるさい少女
俺は今眠るために自室のベットに横になっている。ダンジョンに入ってから丸三日経ってやっと筋肉痛が収まった。
ダンジョンに入った翌日はあまりの痛さで学校を休んだが、2日目、3日目は学校に行った。まるで地獄だった。何をするにしても痛いのだ。歩いているだけで痛いし、立っていても痛い。終いには寝転がっても痛いのだ。
たぶんこの3日間で俺の精神力がかなり上がった。あと、そんな3日間だったが、毎日ちゃんとご飯は食べた。俺えらい。プロテインもしっかりと摂取していたので多少なりとも力は上がっただろう。
上記のとおりのことからわかるように俺はあの時以来ダンジョンに行っていない。ていうか行けるような状態ではなかったのだ。明日からはダンジョンに行けるな....けど筋肉痛にはもう二度となりたくないな.....。
~~~~~~~~~~
「ふんふん~」
俺は鼻歌交じりに学校の校舎内を歩いている。今は昼休みで学生たちが各々の目的のために校舎内を所狭しと駆け回っている。
俺は突き当りを曲がり、特別棟に続く廊下を渡る。俺の通っている南村山北高校は校舎が二つに分かれており、一つが普通棟、もう一つが特別棟になっている。
教室は普通棟にあり普段はみな普通棟にいるのだが、音楽の授業や家庭科の調理実習などの普段の教室を使わない授業の時はこの渡り廊下を渡り特別棟に向かう。
そしてなぜ俺は特別棟に向かっているのかというと、最近俺は音楽室にあるピアノでピアノを弾く練習をしているのだ。
なぜピアノを練習しているのか?と聞かれたら、これと言って理由がないと答えるだろう。いつも一緒に昼を食べていたやつらには申し訳ないが俺は俺のやりたいことを優先したい。
そうしているうちに俺は音楽室の前に立っていた。音楽室の防音性のある厚い扉を開ける。特別棟の周りには豊かな緑があり音楽室の窓からの眺めはとてもいい景色だ。
ん?なんで電気がついてるんだ?授業終わってから先生が消し忘れたのかな?んん?よく見ると端にあるグランドピアノの椅子に見覚えのある人影があるのに気が付いた。
「おっ立花じゃん」
「えっ山宮君!?」
この少女は立花美緒《たちばなみお》。俺と同じクラスで学級委員をやっている。青みがかった黒い長髪が特徴的なうるさい奴だ、身長は高い方だと思う。
「なんで山宮君がいるの!?」
まるで俺みたいな芸術性のないやつがなんでこんなところに?と言外に言っている。けんか売ってんのか?
「俺もピアノを弾きに来たんだよ!悪いか!」
「いや、山宮君みたいな芸術性のない人がピアノなんて無理だよ!」
俺はダンジョンに入って予知能力を手に入れたようだ。やっぱりけんか売ってんのかこの女。
「人は見かけによらぬものっていうだろ。決めつけんなっての」
俺は愚痴をこぼしながら、いくつかあるピアノでもお気に入りのピアノの椅子に座った。すると立花が話しかけてくる。
「山宮君ピアノなんかやってないで勉強してよ。クラスの平均点を上げないと他のクラスの学級委員に顔向けできないんだけど」
「どゆこと?」
俺はいまいち内容を理解できず、質問をした。
「私たち4組って平均点いつも低いじゃん。私の能力が低いからだと思われてそうで嫌じゃん」
「はあ」
「山宮君いつも赤点ぎりぎりでしょ?だから何とかして山宮君の学力が上がれば平均は大きく変わると思うの」
立花がこちらに向かって期待のまなざしを向けてきている。どうやら俺に勉強させたいらしい。しかし。
「それはそうだけど最近忙しいからな~ちょっときついかも」
「へ~忙しいんだ~。部活サボりまくってるくせに?」
やはり学級委員は生徒のそういう事情に詳しいようだ。立花はこちらに揺さぶりをかけているのか軽く笑みを作っている。実に腹立たしいが、言ってることに間違いはないので何も言えない。
「うっ」
そう。俺は一応バスケ部に入ったんだがほとんど部活にいっていない。中学からバスケをやっていて、中学の頃は一回もサボっていなかったんだが高校に入ってからは月に一度行くぐらいでそれ以外はほとんど行かないようになってしまっていた。
「いや最近はマジで勉強も部活もできないぐらい忙しいんだよ」
「ふ~ん。そうなんだ。何やってるのか聞いていい?」
今度はこちらに向かって疑惑のまなざしを向けてくる。
「えっ?えーと。」
さすがにダンジョンに入っています!、なんて言ったら今後立花に話しかけてもらえなさそうなので他にそれっぽい理由を探す。
「バイトやってんだよ。俺大学行くから親にちょっとでも楽させたいし」
よし、うまく返せたぞ。でもごめん父ちゃん母ちゃん。今言ったようなことのできるいい子にはなれそうにないや。俺は俺のやりたいことを優先してしまう。ホロリ。
「へ~そうなんだ~いい子じゃん。それでどこで働いてるの?今度遊びに行くよ」
この女ァ!俺の咄嗟のナイスアイデアを......。
「どこだっていいだろ?ピアノ弾かせろやこら!」
俺は会話を強制終了してピアノの練習を始めた。
あぁ。やっぱりピアノのこの音は良い。今俺が練習している曲は「海の魔王の宮殿にて」だ。最初は音程が低く、腹に響くとても重い音がつづき、比較的弾くのは簡単なのだが、曲が進むにつれて速度が上がり音程も上がる。もちろん難易度も跳ね上がるのだ。俺はイントロ部分の音程が低くゆっくりなところしか弾けないので、これから頑張っていきたいところ。なのだが。
「ほんとに弾けるんだねピアノ」
「まあ始めたばっかだけどな、てか立花もピアノ弾けたんだな」
当たり前のことを聞いてしまった。
「そうだよ。気晴らしにたまに来てるんだ~」
そうだったのか。昼休みにピアノを弾く奴なんて俺ぐらいだろうと思っていたのだが予想は外れていたようだ。
「昼休みにピアノを弾く人なんて私ぐらいだと思ってたんだけど予想外だったよ」
立花は無邪気な微笑みで言った。俺は本当に予知能力者なのか?
「俺もだよ、てか立花ピアノできんならコツとか教えてよ」
「ピアノはコツとかじゃなくて、続けることができれば誰にだって弾けるようになるよ」
「ほう」
彼女は良い事を言った。これは良い教訓になりそうだ、憶えておこう。
このことはピアノだけではない、ほかの大体のものにあてはまるだろう。ダンジョン攻略だってそうだ、この前の大量にいた魔物どもだって倒せるように努力を重ねていけばいつか倒せるようになるのではないだろうか。
そうだ、ダンジョンで思い出した。俺はこの前ダンジョンに潜ったとき、魔力のようなものが自分の体に流れる感覚を覚えた。
それは今も続いていて、さらに強力な魔力が体に流れているのを感じている。理由はたぶん俺がダンジョン内に入ってあれやこれやしたからであろう。
ここまでなら驚くべきことではないのだが。なぜか他人の体にも魔力が微量ながら流れているのを感じているのだ。俺のファンタジー妄想が大好きな頭で考えた結果、このような結論になった。
もともと人は魔力を持っているのだが、魔力が活性化していなく魔力を行使することができないのでは、と。
そして俺もつい最近までは魔力が非活性化状態だったわけだが、活性化したんだ。そのことからさらに予想をする。
魔力が非活性化状態の人間が活性化している強い魔力に晒されると、その人間の魔力も活性化するのではないだろうか。
「ちょっと聞いてるの山宮君!」
「わっごめん何?」
思慮をめぐらしていたら立花のことをすっかり忘れてしまった。これは俺の悪い癖だ。会話中につい黙り込んで考えてしまう。
「もういいよーだ!」
立花がそっぽを向いてスマホをいじり始めてしまった。どうやら怒らせてしまったみたいだ。俺はこの癖を早く直さないとな。さっきの話は後回しだ。
しばらく俺のピアノを弾く音だけが室内に満たされた。ピアノに意識が集中していたので気まずさは感じなかった。
ふと時計を見る。昼休みは45分間なのだが残り10分になっていた。俺は昼休みに音楽室を使うために音楽の教員とある契約を結んでいた。それは音楽室の掃除である。残り時間が十分になったらたまにでいいので掃き掃除をしてくれというものだ。
「立花~掃除しようぜ~」
俺と同じ契約を立花がしていることを予想し立花に話しかける。すると立花は立ち上がり俺に話しかけてきた。
「そうだね。掃除用具とりいこ」
案外立花は普通の態度だった。ひょこっと立ち上がりこちらに向かって歩いてくる。
「おう、あとさっきは...そのごめんな。あれは俺の悪い癖で.....」
俺は後頭部を掻きながら謝った。少し恥ずかしかったがきちんと謝ったほうが後味が良いのではと、そう判断したまでだ。すると立花は楽しそうに笑いながら言った。
「そんなことより早くしないと昼休み終わっちゃうよ!」
くぉの女ぁ!ってうわ!立花は俺の手を引っ張り、音楽室を飛び出した。あざとい奴め。俺はそう簡単には堕ちんぞ!
俺が煩悩と戦っている間に、立花と俺は掃除用具入れの前に立っていた。俺は箒2本と塵取りを取り出して立花に箒を1本渡す。
「よし!音楽室に戻るぞ」
「うん」
立花は頭もよくてかわいらしい奴だが体力には自信がないようだ。少し走っただでけもう息切れしている。
「暑いし歩いて行こうぜ。時間はまだあるしいけるだろ」
「そだね...ふぅ」
音楽室に歩いて向かった。ふと周りを見渡す。特別棟には文化祭に使う飾りや道具などがたくさん置いてある。おそらく倉庫にはもう入りきらないのだろう。その中でも俺の目を引くのは校門の前に建てるであろう大きなアーチだ。たぶん全長5メートルぐらいはあるだろう、アーチは組み立て式のようでいくつかのパーツに分かれている。
ってあれ!?やばくないか!?こっちに倒れてきているぞ!
「きゃあああ!」
「うお!」
同時に叫びながらも俺たちの行動は正反対だった。立花はしゃがみ、頭を抱えこんだまま動かない。俺はアーチを正面から受け止めようとしたのだ。だが。
「これはかなりやばいって!」
アーチのパーツがばらけて倒れてきている!目測で一つ当たり50キログラムといったところか。俺一人だけなら何とかなるかもしれないが立花が!
その時は咄嗟の判断で考えもなしに行動したが、あとあと考えるとそれが最適な行動だった。
「おら!」
俺は振り返って勢いよく立花に覆いかぶさる。四つん這いの形だ。これ絶対入ってるよね?とか考える暇もnバキイイイイイイイイイイイイイ!ガラガラ!!!ガッシャーーーン!!!!!!!!!
アーチのパーツの大体は俺たちに当たらなかったがその中の一つが俺の頭に運悪く当たってしまった。
俺の意識は一瞬で刈り取られた。