寂れ
小惑星、隕石と太陽とがぶつかり、光を失った世界。
科学者たちは、試行錯誤しつつ研究を繰り返し光に似ても似つかぬ<トレイル>を生み出す。
一定の力を加えれば、瞬く間に発光し辺りは明るく照らされた。
人々は幸せを取り戻したと思っていた。
思っていたのだ。
「いや~、すっごいね。此処も。」
「…見慣れた。」
「流石に見慣れるよなぁ。」
赤く短い髪を掻きながら面倒くさそうに歩く一人の少年は、藍色の腰まである長い髪を揺らしながらそそくさ歩く一人の少女とある目的のためにこの街へ来ていた。
一見何の変哲もなく草木も枯れていない、人々が幸せそうに暮らしているこの街に<それ>が侵食しているらしい。
彼らには見えるのだ。<それ>が。
「さてと。リグ、此処ら辺だよな?」
「うん。此処が発生源みたい。」
「館長、今日は何奢ってくれるかなぁ…」
「大量だからきっとお寿司だね」
「寿司か!うっしゃ、やりますか!」
空が瞬間に黒くなり、人々の動きが止まり、'リグ'と呼ばれる彼女はぼそぼそと字列を唱える。
黒い空へ人々から瘴気が昇っていく。
辺りの家々やすべての建物が崩れ落ちていく。
この状況に彼らは固唾を飲み、お互いがお互いを見た。
そして同じことを思ったんだろう。
―いつもと何かが違う。
手に力を込め、彼女は最後の字を言った。
「…!?」
目の前に現れた<それ>は予想以上の数だった。
苦しい、悲しい、辛い、痛い、悲痛な叫びが彼らを蝕み、襲ってくる。
この街はやはり<それ>によって腐れ寂れてしまっていた。
人々の<悲哀>によって。