カミサマの思い付き
どうしてこんなに簡単なことに気づかなかったのだろう?
どうしてこんなに当たり前のことに思い至らなかったのだろう?
口さみしくなれば果物を齧り、とりあえずベッドでごろごろとしているだけの自分は。
万年筆をあろうことか凶器として使おうとした翌日のこと。涙で顔を濡らしながらふて寝した自分は、いつものように日の光に緩やかに起こされた。
自分の周り以外はぽやぽやとしていてよくわからないこの場所だけど、
太陽のようなものが時間の流れを教えてくれるのは唯一の救いと言っていい。
そうだ、ノートに何か書こう! と思い立ったのだった。
今まで何を書いていいかも分からず、だからといって折り紙にするにももったいない、微妙に高価そうなノートと。
黒に金の装飾と、いかにも高級ですよ感を漂わせる万年筆。
それを使って、なんでもいいから書いてみようと思ったの。
インクが無い。今更ながらそんなことに気が付いてしまった。
筆先を見てもインクは入っていないようね。もうやだ。せっかく暇つぶしができると思ったのに。
そんなことを思いながらノートの表紙に「カミサマ」となぞってみる。うん。なかなかきれいに書けた。
ってあれ。書けてるじゃん。思わずしばらく使われていなかった声帯が震え、「ぉぉ……」と声が漏れ出る。理屈はわからないけれど、とりあえずインクは気にしなくてもよさそう。
ボクはカミサマである。
ボクはカミサマだ。
誰が何と言おうと、ここにはボクしかいないのだから、そうすることにした。
今日からボクは毎日をこのノートに記そうと思う。
今日からボクの一人称はボクに決めた。
ボクの格好、白いズボンとローブ、そしてショートからセミロングにまで伸びた、根元から毛先まで真っ白な髪の毛。
あとその他、もっと分かりやすい身体的特徴からも、
ぶっちゃけ男の子とも女の子ともわかりやしないけれど。
とりあえず、しばらくの間は「ボク」でいようと思う。
では、また明日が平穏な一日であることを。
……などと記して、「ボク」はノートを閉じた。
すでに辺りは夕闇に包まれかけていて、この場所の時間のてきとうさを再確認する。
今まであれだけ長かった一日がこんなに短く感じるなんて。
にしても、明日が「平穏な一日」であることなんて、ボクにはわかりきったことなのに。
だけど、少し変わったことをした今日くらい、期待をしてみてもいいでしょ?
ほんのちょっとだけボクは明日に胸を膨らませながら、眠りにつくことにした。