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第伍話「ロリババア、爆睡中。」

 朝日の射し込む、小綺麗に整えられたそれなりに広い部屋に三人の男女がいる。石と木で作られた部屋は文化的で、ゴブリンたちの原始的な住まいとは対照的であった。


 ここは、城壁に囲まれた人間たちの住む城郭まちである。


 無駄に豪華なデザインの制服に袖を通して髪型を整える少年に、神官風のローブを着た女性が心配そうな声をかける。


「今日も行くの?」

「行かなきゃしょうがないだろ。早く元の世界に帰らないといけないし」

「それはそうだけど……」


 紫の髪を朝日に当てながら安心できなさそうな表情の女性に、学生服の少年のそばで暇そうに立っている金髪ツインテール少女が強気な瞳を向ける。


「グズグズ言わないの。アナスタシアだって早く帰りたいでしょ。だったら、このカリン様となつめに任せておけば平気よ。あたしたちは誰にも負けないんだから」

「珍しいな。お前がそんなにやる気なのも」


 少年が笑って少女の頭をぽんぽんとなでると少女は耳まで赤くしてその手を振り払う。


「き、気安く触るんじゃないわよ! バカ! あたしは早く帰りたいだけなの!」

「へいへい」


 二人がじゃれていると、神官風のローブを着たアナスタシアが不安そうに聞いてくる。


なつめは、大丈夫なの?」

「何が?」

「その、邪竜の力を使ったりしてないかなって」

「ゴブリンたちは大したことないし、オークだって邪竜なんかに頼らなくても余裕だ。それに、こっちの世界に来てから邪竜も大人しい。何も問題はないさ」

「それならいいんだけど……」


 なつめはアナスタシアの肩に手をおいて安心させるように見つめる。


「大丈夫だ。アナスタシアは俺が守ってやる。だから心配す――痛て!」


 話している途中で金髪少女が少年の足を蹴ってくる。


「何すんだカリン!」

(べっつ)に~。アナスタシアは良いわね、守ってくれる人がいるんだから」


 そう言ってカリンはベッドに飛び乗って背を向ける。


「なんだよいったい。なに不機嫌になっているんだ」

「ふん!」


 カリンの怒る理由を知っているアナスタシアは微笑み、知らないなつめは黒髪を掻くだけであった。


「しっかし、まさか異世界に飛ばされた後にまた別の異世界に連れて行かれるとは思いもしなかったな……」


 そうひとりごちた時、部屋のドアがノックもされずに開け放たれる。


「どうだ、異世界の戦士よ。首尾は上々か?」

 部屋に顔を出したのは醜く太った男である。金ピカの煌びやかな衣装に身を包み、重そうな体を揺らしている。脇には護衛の兵士を二人連れている。


「大臣とかから聞いてるだろ。あんな奴ら敵じゃない」

「そのようだな。それでこそ異世界から呼び寄せた甲斐があるというものだ」


 勝手なことを、と黒髪の少年は内心で苦い顔をする。

 少年としても、さっさと元の世界に帰りたいのだが、帰る方法が分からないし、王が『頼みを聞けば帰してやる』というので、仕方なく従っているだけなのだ。


「お前がいれば我が国は安泰だ。これからも良き働きを期待しているぞ」

「ゴブリンたちを追い出したら帰すっていう話だろ。忘れるなよな」

「もちろんだとも。余は約束を守る男だからな」


 金髪ツインテールの少女が『どうだか』という視線を向けるが王は気にしていない。


「なあ、本当にゴブリンたちがあんたの国の島を占領しているのか? そんな感じはしなかったぞ」


 少年が遠征の時に感じていた疑問をぶつける。

 これまでに二度ゴブリンたちの島に上陸して攻めたが、彼らはただ襲いかかってくるだけであり、少しぶつかりあってはすぐに逃げてしまう。もっとも、大型のオークですらなつめには敵わないので無理はないが。しかし、彼らは口々に「なにをしに来た」「自分たちの島から出て行け」と言っていた。どうにも、占領した島を守っているようには見えなかったのだ。


 少年の言動に兵士が口を出す。

「貴様、無礼だぞ。そのような言動は慎め」

「三下は黙ってろ。それともやるってのか。図体と態度だけがデカいお前たちの隊長ですら敵わなかった俺とやるか?」


 兵士は舌打ちをして黒髪の少年をにらみつける。


「良い。余は気にしておらん。あの島は本当に余の島である。お前は、人間の言うことと化け物の言うことのどちらを信じるのだ。聡明なお前なら考えなくても分かるであろう。ではな、今回も良い知らせを待っておるぞ」


 そうして太った体を揺らしながら部屋から出ていく。その王の背中にローブの女性は不安そうな目を向け、金髪ツインテール少女はあっかんべえをし、なつめは不信な目を向ける。


 王が出て行った直後、執事服の背の高い老人が入ってきた。

「船の準備ができました。こちらへ」

「わかったよ。行くぞ、カリン」

「ええ。行ってくるわね、アナスタシア」

なつめもカリンも気をつけてね」


 カリンが先に部屋を出、その後に黒髪の少年がアナスタシアに振り返って小声でささやく。


「この世界には妙な感じがある。もしかしたら邪竜を封じる手がかりがあるかもしれない。アナスタシアはそれと帰る方法を探してくれ」

「わかったわ。こっちは任せて」

16/01/17 タイトル修正。

17/03/30 文章微修正(大筋に変更なし)

17/04/05 文章微修正(大筋に変更なし)

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