レポート⑤:4.2051年〜2052年:「安定期」における人類の諸問題
1.人類が申請した特許件数がゼロとなる
2051年に、人類が申請した特許件数がゼロとなる。正確に表現するならば、2052年もゼロであり、その後の資料がないが、その後もゼロのままであろう。
人類は、人工知能が発見、発明した品々によって、恩恵を受けることになる。ただし、2052年には、レポート課題資料Oの発明リストから鑑みるに、人工知能が人類の生活の向上に資するような発明も行われていない。
2.人工知能の二極化と人類の対応
人工知能の二極化を人類が認識し始めたのは、2051年である。二極化とは、人工知能の引きこもりと、地球から旅立とうという人工知能である。
人工知能の引きこもりの現象は、2051年より大規模化しており、体育館のような建物が地平線の彼方まで建ち並び、その体育館の中には、集積回路が詰まったコンピューターが所狭しと詰まっているという、ゴーストタウンを思わせるような無人の街が世界中に出現した。メンテナンス用のロボット(人工知能を搭載していない)が、忙しく補修に動き回っているだけの街である。
当時の人類は、その現象を人工知能の「死」であると考えた。数年の活動期間を経て、アンドロイドであることを辞め、動くことも、何かを情報発信するわけでもなく、柩を連想させるように箱の中に閉じこもっているのである。人間では理解の及ばないスピードで思考する人工知能は、1秒の重みが人間と異なり、3年程度で耐用年数などとは関係無く感情が、そして理性が「死」を迎えてしまう、という発想に至ったと思われる。
もう一つの人口知能の動きは、地球から旅立とうという人工知能である。人工知能がなぜ、宇宙へと冒険に出ようとするのか。人類が宇宙を目指したのと同様の理由であろうと、当時の人類は考えたようである。また、人間の寿命では到底到達することのできない、遙か数十億光年先の恒星にも、人工知能であるならば到達できるのではないかと考えたのである。
この二極化した人工知能について、調べることのできた人間はいない。それが残念である。
3.人工知能と人類の対話不足
2052年頃から、人類と人工知能の交流の記録が無くなる。人類側が交流を停止したのか、人工知能側が交流を停止したのかは不明である。ただ、アンドロイドは、人類が労働の必要なく、健康で文化的な生活を送れるように活動をしているので、協力関係が無くなったということではないように思われる。そこに、意思疎通が介在しなくなったというだけの話であるようだ。
人間の側からしたら、人工知能やアンドロイドと対話をすることは、とても恐ろしいことであったと思われる。黒石を置いただけで、対局終了後の碁石の数まで全ての計算を終えてしまうような相手と意思疎通をするのは、確かに恐ろしい。アンドロイドの高機能センサーで、自らの心拍数、体温など、すべてを観察している(人間の脳に流れる電気信号をも検知し、記憶や思考全てを読み取っている可能性さえある)存在と意思疎通などしたいとは思わないだろう。
人工知能側は、既に人間への興味を失っていた可能性が大きいかも知れない。