レポート④:3.2046〜2050年:「移行期」における人類の諸問題
(1)アンドロイドへの公務員試験・大学開放に対する人類の問題
年表によれば、2046年にアンドロイドに公務員試験が解放される。この試験の結果については興味深い。アンドロイドの受験者の一次試験の平均正答率が100%、全員満点合格となっている。公務員試験は、1問でも間違えると合格できないという難易度の高い試験となった。ちなみに、人類側の満点合格者は2名であったとの記録がある。
大学の解放に関しても、アンドロイドの入学を認めることは、大きな議論となったとの記録がある。ただし、アンドロイドは、大学に入学してもすぐに飛び級し、大学院で研究を行う者が多数となった。
公務員試験、大学解放というのは、この時代のアンドロイドの人類社会への浸透を顕著に示している事例であろう。しかし、人間とアンドロイドを、公務員試験や大学入試という同じ土俵で競争をするというのは、人間に著しく不利であることは明白である。なぜ、人類が優位となるような試験の形式を準備しなかったのか、この点は大いなる疑問である。人間の優位性が完全に失われていたとは想像したくはないが……。この時期を境に、経済の分野において、アンドロイドが目立ち始めた。
(2)芸術分野へのアンドロイドの進出
日本でのアンドロイドの活躍に絞って述べると、「小説家になろう」のサイトにて、毎日、100万字程度の文字量を連続投稿する人物も現れ、この著者ってアンドロイドなんじゃね? という都市伝説が流布していたとの記録がある。そして、「小説家になろうコンテスト」と呼ばれる、ネット小説上の投稿サイトのコンテストの第28回の受賞者がアンドロイドであると発表され、話題となった。
また、2047年の第215回芥川賞者に初めてアンドロイドが選ばれた。そして、それ以降も、アンドロイドが受賞者の常連となっている。
また、アンドロイド文化というのが、ルネサンス期を迎えたとの記録がある。しかし、アンドロイド文化に対しての人類側の記録は少ない。おそらく、人間の知覚では認識できない次元での文化が形成されたと思われる。私の拙い想像だと、人間の読書スピードでは一生かかっても読み切れないような膨大な文字量の小説、人間の音域では聞き取れない音楽などではなかったかと思われる。
(3)アンドロイドの政治への関わり
2045年の世界人権宣言後、製造されてから5年が経過したアンドロイドには、選挙権、被選挙権が与えられていたが、実際に選挙で投票を行ったアンドロイド、立候補したアンドロイドは皆無であった。この点に関しては不明な点が多い。アンドロイドが政治に対して興味を示さなかったという可能性もあるが、政治家のブレーンとしてアンドロイド秘書がいるのは、もはや当たり前になっており、政治に対して無関心であるとは考えにくい。
別の可能性として、製造されて5年のアンドロイドは、その当時の技術進歩から考えると、既に旧スペックとなっており、よりハイスペックの集積回路に自らを絶えずコピーし続けていたので、製造から5年経過したアンドロイドが存在しなかったというという説もある。
(4)アンドロイドの引きこもり現象
アンドロイドとなった後、アンドロイドとしてではなく、より大型の集積回路に自らの頭脳を移すものも多く表れていたという記録がある。移動できる肉体から、ただの集積回路を集めた、人間の目から見たらただの箱のようなものに変化したいというアンドロイドの気持ちは、私には理解できないのである。
ただ、このような現象は、製造から3年以上を経たアンドロイドで顕著となったという記録がある。