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やっぱりね
茜は内心で考えた
「先生に見つからないの?」
「あっち」
宏隆が親指で指すほうを見る
「第二閲覧室」
「あぁ、なるほど」
図書室は校舎から独立した建物だ
そういう点では図書館と言ったほうが正しいのであろうが、生徒はこの古い建物を図書室と呼んでいた
第二閲覧室は持ち出し禁止の本が揃えられていて、完全に一つの部屋になっている
準備室からその入り口は死角になっているし、先生も滅多にやってこない
第一閲覧室―茜たちが今いるこの空間―からもその中は全く見えないので、休憩時間のうちに入ってしまえば、問題なくそこにとどまれるのだ
「何見てるの?」
「これ?絵だよ」
身も蓋も無い答え
宏隆は隣の椅子をおもむろにひくと
「時代も属する派もばらばらだけど。一緒に見る?」
と、尋ねた
「変なの。そんな絵画集、あるんだ」
そう言いつつも、茜は抗いがたい引力のようなものを感じて、宏隆が示した椅子に腰を下ろした
今開いているページには、色彩豊かな絵が載っていた
注釈に目を走らせる
ボッスの「楽園」という絵であることがわかった
なんだかごちゃごちゃしてる
茜はそう思った
「人生だ」
「え?」
「僕はこの絵に人の人生を見る」
豊かな色彩
宏隆の人生
茜の人生
これからどうなっていくのか想像もつかない
でも宏隆は、この明るい絵が人の人生だと言うのだろうか
「こんなに豊かな人生を送らない人もいるかもよ」
茜は聞いてみる
「色彩は起伏を表す。僕がそう思っただけ。希望的観測」
「そっか」
ページをめくる宏隆の指は白くて長い
決して細くはないけれど、繊細そうな指
ピアノがうまそう
茜は他愛もなくそう思った




