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  作者: 樋渡 幸
3/5

†3†

やっぱりね

茜は内心で考えた

「先生に見つからないの?」

「あっち」

宏隆が親指で指すほうを見る

「第二閲覧室」

「あぁ、なるほど」


図書室は校舎から独立した建物だ

そういう点では図書館と言ったほうが正しいのであろうが、生徒はこの古い建物を図書室と呼んでいた

第二閲覧室は持ち出し禁止の本が揃えられていて、完全に一つの部屋になっている

準備室からその入り口は死角になっているし、先生も滅多にやってこない

第一閲覧室―茜たちが今いるこの空間―からもその中は全く見えないので、休憩時間のうちに入ってしまえば、問題なくそこにとどまれるのだ


「何見てるの?」

「これ?絵だよ」

身も蓋も無い答え

宏隆は隣の椅子をおもむろにひくと

「時代も属する派もばらばらだけど。一緒に見る?」

と、尋ねた

「変なの。そんな絵画集、あるんだ」

そう言いつつも、茜は抗いがたい引力のようなものを感じて、宏隆が示した椅子に腰を下ろした

今開いているページには、色彩豊かな絵が載っていた

注釈に目を走らせる

ボッスの「楽園」という絵であることがわかった


なんだかごちゃごちゃしてる

茜はそう思った

「人生だ」

「え?」

「僕はこの絵に人の人生を見る」

豊かな色彩

宏隆の人生

茜の人生

これからどうなっていくのか想像もつかない

でも宏隆は、この明るい絵が人の人生だと言うのだろうか

「こんなに豊かな人生を送らない人もいるかもよ」

茜は聞いてみる

「色彩は起伏を表す。僕がそう思っただけ。希望的観測」

「そっか」


ページをめくる宏隆の指は白くて長い

決して細くはないけれど、繊細そうな指

ピアノがうまそう

茜は他愛もなくそう思った

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