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茜の隣は、宏隆という男の子の席だった
高2になって初めて同じクラス
席が隣になるのも初めてだ
宏隆はやせ気味なのに背が高い
そのため細長いという印象を受ける
さらさら音をたてそうな、細い、色の抜けた髪
やや面長で、色白の顔
色素の薄い目は、長い睫毛に縁取られている
わりかし整ってるほう
茜はそう判断した
宏隆はよく授業を休む
今は夏休みで課外授業の期間だったが、宏隆の休み癖は相変わらずだった
それなら学校を休んではどうかと一度言ったことがある
返ってきた答えは
「学校好きだから、休みたくない」
だった
「茜、具合悪いから保健室で休むって言っといて」
涼しげな、具合が悪そうなどとは微塵も思わせない表情で、そう言い残し教室を去る
学校が好きなら授業、出ればいいのに
茜は常々思っていた
そして爽やかに去った宏隆が、その後本当に保健室に行っているかどうかは怪しかった
茜
宏隆は茜のことを初対面からそう呼んだ
馴れ馴れしさはない
その呼び方は、茜の胸に違和感を残すことなくすとんと落ち着いた
放課後、茜は図書室へ行った
最近はまった小説家がいて、その著作を読み漁ろうというつもりなのだ
購入したいとは思うのだが、高校生に本を大量に買い続ける金銭の余裕などあるはずも無く、こうして図書室のお世話になっていた
大人になったら、天井まで届く本棚に囲まれた書斎を造って、本を集めたい
茜はひそかに考えている
文庫本のコーナーに行く途中、閲覧席に見慣れた横顔を発見した
宏隆だ
何見てるんだろう
B4版の大きな本のページをめくっている
写真集かな
肩越しに覗き込むと、そこに写されていたのは絵画だった
宏隆が気配に気付き、茜を振り向く
視線がぶつかると、宏隆の目は微かに笑んだように細くなった
「茜。図書室にはよく来るの?」
周囲に人はほとんどいなかったが、声のトーンは落とし気味だ
「読みたい本がある時はね。宏隆は?」
「ほぼ毎日いるよ」
「へぇ、そうなんだ。気付かなかった」
「まぁ、だいたい授業中だから」
いたずらめいた輝きが目に宿る




