第7話 不安
マルクスとの採取及び狩りは順調に進み、西の森でのゴブリン討伐もどうにか単独で行える様になった頃。
成人の儀開始から1ヶ月経ち、そろそろ戻ってくるだろうとの話だったがそれから一週間経ってもエルダ達は帰ってこなかった。
「母さん、まだ兄貴達は帰ってこないのかな?」
「そうねぇ、足止めを食う所だと女人鳥の渓谷かしら?何にせよ組合に依頼を頼んでるから直ぐに帰ってくるわよ。」
母に色々聞いてみると到着が遅れる事はそこまで珍しい事でも無いらしい、且つ遅れて三日目の時点で組合に迎えに行く依頼を出しているから心配無用と言い放つ。
心配じゃないのかと質問すると「護衛も居るから平気よ」とあっけらかんとしている。
まぁ、兄のステータスからしてそこらの魔物に襲われても逃げ切るだけなら何も心配はしてないのだが、何せ集団行動故の不測の事態という事もある・・・。
そんな訳で一応組合に顔を出してみる事にした。
「こんにちは、エル姉ちゃん。」
「あら、ヒルド君 依頼?」
「今日はこの後畑の世話があるんだ、それより町からの依頼はまだ達成されないの?」
成人の儀で予定通りに帰ってこない場合は参加した子供達の親全員で依頼を出す取り決めがされていて、それは町としての依頼になる。
町からの依頼という事で腕の良い人間が廻されるのだが今回選ばれた人選の中にあまり宜しくない奴が居た。
依頼を受けたのが2PT、『ハンマーヘッド』と『ハルトマン兄弟』。
『ハンマーヘッド』は普段この町の警備を行っており素行も良い、何せ殆どがこの町出身の人間ばかりのPTなので信頼も置ける。
問題は『ハルトマン兄弟』こいつらは実力は確かにあるし特に大きな問題を起こしている訳でも無い。だが細かい問題は割りと起こしている。そしてそれ以上にこいつ等が持ってるスキルが問題だった。
普通は相手のステータスは相手から開示されない限り分からないのが普通だが、俺の場合は神様達に鍛えられた観察眼がある。ぶっちゃけ知ろうと思えばアカシックレコードだってどんと来いって言っても良い。
閑話休題
兎も角、『ハルトマン兄弟』の所持スキルの中でやばいのが以下の通りだ。
【拉致】【強襲】【暗殺】【強制制約】
スキル名からしてやばいのは察して頂けると思う。どれも危ないのだがこの中の最後の【強制制約】が非常に厄介だ。
スキル【強制制約】:自身が所持、又は強制的に隷属させた人物のステータスに対して一時的な枷をはめる事が出来る。
つまり直接的にでなくとも、例えば人質等で隷属させてしまえば相手のステータスを封じてしまえるという極悪極まりないスキルである。
こんなスキルを持つ奴が全うな人間では無いが流石に町で問題を起こしている訳でも、ましてや賞金が掛かっているわけではないので現状手が出せない。
そんな奴らが兄貴達を向かえに行くのだがら気が気では無い。差し当って『ハンマーヘッド』の方が人数的にも実力的にも上だし、元々成人の儀に就いた護衛も『ハンマーヘッド』のメンバーなので一応は安心なのだが・・・。
「まだ出発して四日目よ?戻ってくるにしても六日とかじゃないかしら?」
「そっかー、でもちょっと不安なんだよね、今回の面子って。」
エルメラルダがきょとんとした顔で聞いてくる。
「ハンマーヘッドならPTランクC+よ?防衛はお手の物だし護衛も初めてって訳じゃ無いと思うのだけど?まぁ個人で見るとちょっと頼りないかもだけど。」
「そうじゃなくってハルトマン兄弟が今回の依頼に参加してるでしょ?」
「ええ、でもそこまで気になる?アレだってランクDで働き自体は悪く無いわよ?」
恐らくハルトマン兄弟の書類だろうか、エルメラルダは書類に目を落としながらそう答える。兎耳がピコピコ動いてて正直可愛い。
「依頼の達成率だって8割超えてるし、魔物討伐も成功率は7割で高めだから戦力としては良いと思うけど?」
「でもぶっちゃけあいつ等って盗賊っぽくない?」
「あら?ヒルド君にしては珍しく外見で判断してる?でもあのPTって結構礼儀正しいわよ。」
そりゃ組合で騒ぎ起こす馬鹿は居ないでしょうよ、と口に出したかったが止めておいた。
「何か嫌な予感がするんですよね、ハンマーヘッドの人が無事ならいいけど。」
「幾らなんでも心配し過ぎじゃない?遅れるのは今回が初めてでも無いし。」
自分を誤魔化す様にため息を吐く。
「ふう、そうですね。又来ます。」
「ふふふ、案外心配性なのねー。」
「違いますよ、いざとなったら自分で確かめに行くだけですから。」
「成る程、ってダメよ。 ヒルド君はまだ遠出の許可は出せません。」
「それを決めるのは家の両親ですよ。」
「常識的によ、6歳なんだから大人の言う事は聞きなさい。」
「へーい。」
そんな大人の常套句を聞きながら俺は組合を出た、兄貴が帰ってきた時に畑が枯れていない為に・・・。
それから二日経ったが誰一人帰ってこなかった。