第5話 見送り
エルダの畑を耕してから半年、流石に10面はやりすぎで、其の内6面は他の農家に譲る事になった。
この半年で新しい畑の作物もすくすく大きくなりあと一ヶ月もしたら収穫の時期に入る。そして収穫を行う前に兄エルダがついに12歳を迎え、成人の儀として都へ向かい【職】に就くのである。
成人の儀とは言うものの、別に単独で都まで行く訳ではなく、町から今年12歳になった子供を集めて全員で都へ向かう。移動には幌馬車を使い、護衛も付く。
其の為の準備は既に昨晩終らせ今は家族全員で兄の見送りに来ている。周りにも同じような家族が何人も居る。
「それじゃぁエルダ、大体1ヶ月だが体には気をつけてな。」
「職に就いても直ぐにLvを上げようとしてはダメよ?他所の土地でやると色々面倒になるし。」
「親父も母ちゃんも分かってるよ、もうガキじゃないんだから。」
エルダが呆れたように肩を落とす。
「親からしてみたら子供は何時までたっても子供なのさ。」
「そうよ、何なら今のうちに母さんの胸で泣いとくかい?」
「だー!もう!泣かねーよ!」
両親から諭されたエルダだが顔を赤らめながら両親から離れて俺の方へ近寄ってくる。
「兄貴。」
「どした?ヒルド。 お土産なら簡便しろよ?俺、金持ってないしよ。」
「いやそうじゃなくて、帰ってきたら直ぐ収穫だろ?体壊さないようにね。」
「そうだな、でも【農夫】なって直ぐ収穫だからな。きっと直ぐにlv上がるぜ?」
「今植えてる野菜は収穫したら次は何か考えてるの?」
「次は連作のモノを植えようかなと思ってるんだ、Lv10になれば加護の範囲が畑2つに広がるだろ?一つは連作で安定させて、もう一つは売値が良い奴をって思ってる。」
「父さんと同じやり方にするんだ?」
「このやり方が安定するしな。親父がLv30になれば連作を3つ担当してもらうんだけどな。」
「あー、連作が3面もあればかなり楽だねぇ。生活水準を上げれるよ。」
そんな捕らぬ狸の皮算用をしていると、マルクスが話しかけてきた。
「よう、エルダあんちゃん、それにヒルド。」
「お、マルクス。ああ、そういやガラハはまだ成人の儀を終らせてなかったんだっけか?」
ガラハとはマルクスの3つ上の兄で本来は【職】を得ている年だが、前回行われた成人の儀の時は体調を崩していて、今回の成人の儀に参加するらしい。
「そそ、家の兄貴、前回寝込んでて参加出来なかったろ?で、今回改めてってね。」
「マク兄はガラハ兄に挨拶しなくていいの?」
「高々1ヶ月居ないだけだろ?帰ってきたら嫌でも顔付き合わせるんだから良いよ別に。」
「それよりヒルド、今度西の森の採取に付き合ってくれよ、前手に入れたナイフの稽古とかもしたいしさ。」
するとエルダがマルクスに質問を投げかけてきた。
「お?何だ、マルクス。ナイフ買えたのか?高くて買えねぇーとか言ってたのに」
「違うよ、森で拾った石で出来たナイフだよ。鉄のナイフも欲しいんだけど高いからね、暫くは石のナイフで頑張るの。」
「石のナイフ?ちゃんと切れるのか?それ。」
「うん、俺も始めはナイフの練習にでも使えればいいな程度だったんだけどね、武器屋のおっちゃんに見せたら加工してくれて割りと切れるんだ。」
俺が使えないモノとして放置した石のナイフだったが手を加えればちゃんと使えるのか、今度手に入れたら取って置くかな。
「まぁ少しお金取られたけどね。」
何事も甘くは無いらしい。
「採取は良いけど森なの?南の草原の方が出てくる魔物のLvも低いからそっちが良いんじゃない?」
「草原だと角兎とか花狐位じゃんかー、12歳迄に種族Lv10にしたいんだよ。」
「マク兄、そりゃ早く上げたいだろうけどさ、命あっての物種だよ。死んだらそこまでなんだし。」
「そうだぞマルクス、死んだら何にもなんねぇんだ。こいつはまぁムチャクチャだから早々くたばる事は無いだろうけど、お前は普通なんだから草原にしとけ。」
「えー、そりゃないぜ。」
「別に一日でLv10にする必要が無いならちょくちょくヒルドに手伝って貰えばいいだろ?ある程度Lv上がれば単独で草原の魔物位ならやれるぞ?実際俺でも草原なら一人でも平気だし。」
エルダの単独で討伐が可能という言葉にマルクスは目を丸くしている。そんなにエルダのLvはそこまで高く無いと思っていたのだろう。
普段から「安定したが一番」と言ってる兄なので仕方ないと言えば仕方が無いのだが。
「エルダあんちゃんってLv高いの?」
「ん?お前に見せた事無かったっけ?ホレ、これが俺のカード。」
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《エルダ》 Lv17
人族 男性 12歳
体力 618/618
魔力 97/97
技力 388/388
筋力 135
頑強 208
知性 58
器用 79
敏捷 270
職業【なし】【なし】
特技【乾坤一擲】【全力開放】【隠密】【逃げ足】
称号【恐怖を乗り越える者】【鍛えられし者】
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「・・・・・・何これ?」
マルクスが眉を寄せた顔でエルダに質問している。
「ヒルドの子供の頃の遊びに付き合ってたらこうなったんだよ。」
「あそ・・・び?」
「応、こいつのお守りは俺がしてたんだがな、こいつあっちにフラフラこっちにフラフラ。目を離すと直ぐに森やら山に行こうとするからな、それに付き合ってたらいつの間にかこんなステータスになってた。」
「懐かしいね、あの頃は魔物見るのが楽しくて色々出歩いたね。」
「楽しくねぇよ。お陰で死ぬような思いを何度した事か。」
エルダは心底嫌そうな顔して俺を睨んで来る。
「マルクス、悪い事は言わん。草原にしとけ、身の丈にあった鍛え方して段階を踏んでLv上げるのが一番だ。」
エルダの真剣な顔を見てマルクスも何か感じ取ったのか素直に頷いた。
「エルダあんちゃん、俺間違ってたよ。」
「そうか、お前は分かってくれるか。まぁコイツと一緒に居れば早々危ない目には会わないけど、気をつけてな。」
「2人ともヒドイな。」
「お前な、普通10歳の時に食人巨躯に追われる事なんて無いからな?」
「え”」
「でも無事に帰ってきたじゃん。」
「そういう問題じゃねぇよ!」
兄弟でギャーギャー騒いでいると周りの家族に挨拶していた両親が戻ってきた。
「エルダ、そろそろ出発するそうだぞ?」
「荷物、忘れてないね?」
「うぃー、それじゃ行って来るわ。ヒルド、俺の畑の水遣り頼むな!それとマルクスちゃんと身の丈にあった場所でやれよー!」
そう言いながら荷物を背負い、馬車に向かって駆け足で走っていく。
「帰ってくるのは1ヵ月後か・・・。」
「どうせ直ぐよ。帰ってくる頃にはすでに農夫ねぇ。」
「そうだなぁ、何にせよ無事帰ってきてくれれば良いさ。」
両親はどうにも2人の世界に入っているっぽいのでマルクスと話す事にした。
「マク兄は良いの?家族の所行かなくて。」
「良いって、どうせ兄貴を見送るだけだし、それよか今度草原での採取に付き合ってくれよ?」
「あれ?森じゃなくていいの?」
今俺はとてもいい顔をしていると思う。そしてソレを見るマルクスはちょっぴり汗をかいている。
「え、え~と。エルダあんちゃんの忠告もあることだし?無難に草原にしとくよ。」
「そか、じゃぁ時間が空いたら草原だね。」
「ん、小遣いになりそうな依頼探しとくわ。」
「んじゃ、又ね~。」
後日マルクスと依頼を受けて採取をする事となったが、簡単にLvは上がらないので暫く一緒に依頼を受ける事となった。
弟に付き合わされた兄は結果として鍛えられ、危険な事には近づかない性格になったようです。