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36.厄介な置き土産②

 

 

~ナイナス・ヴェルウントからの視線~

 セキト(王都)からのグスワ(大燕)が来たのが、あの日の夜から2日経ってからだった。うん、アズナル(アズナマル・ソルメタル)がちょうどセキト(王都)に居てくれて助かったぜ。さて、さて……、早速グスワ(大燕)で届いた、ゴワゴワのパピス(パピルス)を開いてみるか……。


『ナイよ。理由は良くわからんが、問い合わせのあったスピシエデフルド・サラについて知らせるぞ。確かにスピシエデフルド・サラで、12日前にちょっとした騒ぎがあったようだな。なんでも小火ぼやが起こったんだそうだ。小火の原因は酔った府員補(臨時職員)による失火らしい。この小火でサラッド(家馬)の仔馬が数頭逃亡。ただし逃亡した仔馬は全て回収出来ているとの事。なおサラッド(家馬)の逃走を防ぐ際に、スピシエデフルド・サラ独立守備隊の兵士が数人死亡、また小火の原因を作った、司府の府員補(臨時職員)も死亡したらしい。責任者であるスピシエデフルド・サラ独立守備隊の隊長は引責辞任した。これが白虎騎士団の公式な発表だ。スピシエデフルド・サラでの小火騒ぎはそうそう珍しくもないのでこちらではあまり話題になっていない。この件についてはスピシエデフルド・サラ独立守備隊と、監査を行ったセキア巡検士隊、それに司府の3か処からほぼ同一内容の報告が出されているらしい。ただし司府からの報告は一昨日やっと提出されたみたいだな。今日の事だがその報告書は王府長、臣府長によって了承された。司検府にも特に動きはないようだ』


 ここまでアズナルからの便り読んで一旦、手の中のパピス(パピルス)から目を離す。小火だと? しかも逃亡したサラッド(家馬)は全て回収? 確かにそれなら大きな騒ぎにはならないな。注目されるのは、せいぜいスピシエデフルド・サラ独立守備隊の隊長の後任人事位だ。しかしそれだって白虎騎士団の一部やスピシエデフルド・サラ関係者に限られる。これなら俺の処までなんにも話しが伝わってこなかった事も頷けるが……。ん? でもなんでセキア巡検士隊が監査するんだ? セキア巡検士隊とスピシエデフルド・サラじゃ、管轄が全然違うだろう? ……続きを読むか。


『まぁ、小火騒ぎの方はこんな感じなんだが、どうもこの小火騒ぎだが正直いって胡散臭い。なんで小火騒ぎの監査が、セキア巡検士隊なんだって話しだな。管轄も違えば指揮系統も全然違うだろ? だけどそこら辺の説明は一切ないんだな。それに普通なら、こんな縄張り荒らしには五月蝿く噛み付く連中も何故か黙りなんだ。だからちょっと探りを入れてみた。かなり上手く隠蔽されていたんだが、隠し事ってのは難しいもんでね。やはり小火騒ぎに隠れてもうひとつ話しがあったんだ。なんでもスピシエデフルド・サラでサラッド(家馬)の横流し不正事件があったらしいんだ。なんとか俺がかき集めた話しでは病死扱いにしたサラッド(家馬)を不正に横流していた連中がいるらしい。これをセキア巡検士隊が察知してスピシエデフルド・サラに踏み込んだって事なんだ。その結果起こったのが小火騒ぎってのが真相らしい。


 サラ()管理局局長ニールエリア・サイボン、スピシエデフルド・サラ独立守備隊副長グルア・ミンシャムとそれに府員補(臨時職員)ふたりが火を放って逃亡を計り、その場で処断されたって事だ。サラッド(家馬)の横流し不正事件なんてのは王国の恥だからな。そこで小火騒ぎだけを公表したみたいだな。裏を取って見た処、確かにこの連中には病死の届けが出ていたよ。俺の処にはスピシエデフルド・サラやセキア巡検士隊の情報源がないので今の処はここまでだ。もうちょっと調べて見るが少し時間をくれ。これがお前の問い合わせの回答になっている事を期待するよ。それではな。ガダスシアプ。


 追伸、ナイどうした? 一体なにがあった? こんな話しはお前には関係ない事だろう? まぁ、俺はウズアド(12の月)(暮月)中は、セキト(王都)に居る、なにかあればまた連絡を呉れ』


 う~ん。よく判らんな。小火騒ぎに不正横流し事件……。小火の方は公表されてるが横流し事件は隠蔽されている……。誰が考えても横流し事件を隠す為に小火事件を利用してると思うよな。ああ、そりゃ当然だ。サラッド(家馬)の横流し事件を察知したセキア巡検士隊がスピシエデフルド・サラに踏み込んだ結果、小火騒ぎが起こったのが真相だと? 確かに上手い話しだ。普通だったら俺もコロッと騙されていたな、でも俺は全く違う事実を知ってる……。直ぐにアズナルへの返事をしたためる。たぶん戻って来る回答は既に判っている事なんだが……。まぁ、最終確認みたいなもんだな。それにあとひとつちょっと気にかかる事もあるしな……。






~サローン・アドバンからの視線~

 ついにあのポニ(群馬)が斃れたである。それがしが水を与えようと近づくと、必ず距離を取り、それがしをあの黒い大きな瞳でジッと見詰めるである。それは正しく非難の篭った瞳であった。仕方ないので持っていた小さな木皿に水を入れて、主人の墓の傍らに置いてみたが、一切口を付けることは無かったである。それに草を食む様子も一切無かったである……。


 そしてあの戦いから、4日ついにあのポニ(群馬)が膝を折って、主人の墓の傍らに蹲ったである。それがしが近づいてももう動くことは無かったである。ただ小さく鳴くだけである。もうそれがしには何も出来なかったである。そしてその翌朝には、ポニ(群馬)は首を横たえ静かに息を引き取っていたである。こんな話は、今までに聞いたことも見たこともないである。だが見事なのである……。フェバオロとは騎馬の民とは聞いていたが、その関係とはこれ程のものであったのか、真に魂の繋がりをありありと感じさせる姿なのである。そのポニ(群馬)に向かって、アディネ(愛情の女神)への祈りを静かに捧げたのである。それがしはその後、そのポニ(群馬)にも上から土を被せたである。同じような大きさの盛り土が2つ仲良く並んでいるの見て、ホッとしたようになにかが腑に落ちた感じがしたである。そしてその日の昼過ぎにキャスが現れたである。




「ガダスシアプ。アドバン先生、お待たせしただ、おらと交代だよ。団長様が呼んでるだ。村に戻ってくんろ」

「ガダスシアプ。で、あるか。承知である」

「あれが、ソレなんかね?」

キャスがちらりと視線を2つの盛り土に投げかけたである。


「で、ある。敬意を払うのである」

「なんで盛土がふたつあるだ?」

「偉大な勇者とその従者の墓である」

「なんで墓地に埋葬しないだか?」

「フェルムと我らとは信じる神が違うのである。フェルムの戦士は、戦場で斃れたならその亡骸はその場で埋葬するのが習慣である。そしてその身体と魂は、戦いの名誉と共にフェルムの祖神ウズマン(森の神人)の許に戻るである」

「あんだ~。変わってるだな」

「それぞれである。だが違いとは悪ではないのである。よしんば理解はできなくても、認める事が大事なのである。決して拒絶や嫌悪を示すべきではないである」

「そうなんだべか?」

「で、ある。“認める”それこそが、“諸族七民に隔たりなし”を実践する為の原理原則である」

キャスがちょっと難しそうな表情を浮かべたである。キトアはヒトが多く、あまり諸族との接点が少ないである。たぶんキャスが見た事がある諸族と云えば、イジュマー老とカリファ殿位であろう。あのふたりは、ほぼヒトと同じ風俗・習慣で生活しているので、根源的な違いは感じないであるな。だが本来ヒトと諸族では根源的に違うのである。いつかキャスもそれを知る事になろう。その時にキャスがその違いを認めて、違いを乗り越える事ができる事を願うだけである。


「出来れば覚えておいて欲しいのである。“諸族七民に隔たりなし”互いの相違とは悪ではないである。違いを持って拒絶や嫌悪をすべきではないのである。理解はできなくても、理解しようとする努力、相手を認める事こそが重要なのである」

うむ、云うのは簡単である。だがそれがしに取っても、実践はなかなかに難しい事である。だがこれこそが正道の真根則なのである。






~ナイナス・ヴェルウントからの視線~

 そして更に2日が経った。アズナルからの次のグスワ(大燕)が飛んできた。そこには……。


『ナイよ。まずは問い合わせの結果からだ。確かに小火のあった日の後で、1頭サラッド(家馬)の雄の仔馬の病死の届けが出ている。サラッド(家馬)の仔馬が病死するのは珍しくないし、書面にも怪しい処はないが、承認者があのサラ()管理局局長ニールエリア・サイボンだって事が気になるな。それとお前のお察しの通り、スピシエデフルド・サラ独立守備隊とセキア巡検士隊が別の線で繋がったよ。セキア巡検士隊の隊長とスピシエデフルド・サラ独立守備隊の隊長は、なんと兄弟だったよ。そしてその親父が、セキア巡検士隊を所管するセキア鎮守府の司令官のエタンダント・グル・モートス伯爵様って事だ。お前あいかわらず鋭いな。ただこれがどんな事に繋がるのかは、今は全く見えていない。一応事実だけを知らせておく。どうだ、これで良かったのか? 


 そうだあの後もうちょい調べた結果だが。横流し事件そのものについての新しい情報は掴めていないんだが、ちょっと変な事が判って来た。どうもあのサラッド(家馬)の横流し事件の噂のリーク元が、司府と白虎騎士団らしいんだ。普通こういった醜聞沙汰は対立する組織がリークするもんなんだが、サラ()管理局局長とスピシエデフルド・サラ独立守備隊の所管元が情報をリークしてる節がある。さっきの親子関係やら本当なら手柄を上げた事になるセキア鎮守府当たりも噛んでいそうなもんだが、そっちに動きは全くないようだ。全く持ってなんとも奇々怪々な話しだ。まぁ、そもそも王都とはそう云った処な訳だがな。今回の報告はこんな処だ。実際今王都では例の話しで持ちっきりだから、この件はほとんど注目を集めていない。だからお前の処にはなんの話も伝わっていないんだろうな。まぁ、引き続いて調べて見るよ。それではな。ガダスシアプ』

う~~ん。これは……。つまり、あのサラッド(家馬)の仔馬は、既に病死した仔馬って事だな。直接的責任者の白虎騎士団と司府が口裏を合わせていて、しかも王府長、臣府長共に了承済みな訳か……。つまりそっちが既に“既成事実”になってるって事だな。


 ()()()()小火騒ぎの報告も、サラッド(家馬)の横流し事件の噂も、全てはこのサラッド(家馬)強奪の隠れ蓑って事かっ。そうなると主犯は一体誰だ……。順番に考えてみるか、一番最初に起こったのはサラッド(家馬)強奪だ。きっとそこで実際に小火も起こったし、被害者も出たんだだろう。この場合の第一の責任者は、スピシエデフルド・サラ独立守備隊隊長だな。そうか! もしサラッド(家馬)強奪が表沙汰に成ったなら、その責任問題はスピシエデフルド・サラ独立守備隊の隊長個人のレベルじゃ、すまなくなるな。そうなった場合スピシエデフルド・サラ独立守備隊隊長はどこに泣きつくんだ? なんと云ってもお家の一大事だからな……。


 うんうん、スピシエデフルド・サラ独立守備隊隊長のビタダント・グル・モートスとしては、やっぱり父親のセキア鎮守府司令、エタンダント・グル・モートス伯爵に泣きつくよな。泣きつかれた親父としてはそりゃ驚天動地だったろうな。内容が内容だけに、下手すればモートス伯爵家の廃嫡にも繋がりかねないからな。そこでセキア鎮守府配下のセキア巡検士隊を動かしたか。なんと云ってもセキア巡検士隊の隊長は、モートス伯爵家の長男ランダント・グル・モートスなんだからな。秘密を守る上でも好都合って訳だし、しかもこのランダントさんは切れ者って評判だからな。まぁ、ランダントさんにしてもモートス伯爵家の存続と、例の話しもあるから、自分と家の両方の為に必死に為らざるを得ないよな。


 つまり主犯はモートス伯爵家そのものって事だ。今回の事件はモートス伯爵家の存続問題と例の話しに繋がるって事か……。それで多分エタンダント伯爵とランダントさんがいろいろと画策した結果が、サラッド(家馬)の横流し事件なのか……。いや違うな、もしそうならサラッド(家馬)の横流し事件のリーク元は、セキア鎮守府になるはずだ。リーク元が司府と白虎騎士団って事は、きっとその下にもう一枚隠れ蓑が掛けてあって、それが司府と白虎騎士団にとっては不都合な事なんだろう。だから司府と黒虎騎士団が、サラッド(家馬)の横流し事件なんて情報をリークしてるんだ。と云う事は、司府と白虎騎士団は真実を掴んでいないって事か……。




 さて問題はここで俺が、恐れいりますがと馬鹿正直に報告を上げるとどうなるかだな……。そりゃぁ、関係諸氏はみんなおおいに困るだろうな。すると、どうなる? 多分“既成事実”のが、都合のいい連中が、俺の報告を握り潰す……。いやっ、報告だけじゃなくて、“本当の事実”そのものを握り潰すんじゃないか。うん、間違いない……。ふ~っ、こりゃ厄介だな。下手すると関係者全員皆殺しってか……。いやっ、事が事だけに冗談じゃ済まないな。すでにサラ()管理局局長とスピシエデフルド・サラ独立守備隊副長は消されている。そうだ、このふたりの死は間違いなく口封じと見せしめだ。さて、どうしたもんか……。


 これは、マジ考え所だぞ。一番安全なのはあのサラッド(家馬)の仔馬を処分して、後は口を閉じて知らぬ存ぜぬと云った所だな。多分この問題を表面化させた場合、モートス伯爵家と白虎騎士団全体を敵に回す事になるな。勿論モートス家には家の存続が賭かってるし、白虎騎士団にも面子の問題がある。なんと云ってもサラッド(家馬)強奪の最終責任は白虎騎士団にあるからな。しかも王府長が、この件を既に了承済みってことだから、本当なら一番頼りとなるはずの、監査府、司検府も頼れないだろうな……。う~ん……。こいつは本当に厄介な置き土産だな。


 白虎騎士団は駄目、監査府、司検府も駄目、関係者で残るのは司府だけ……。ん? 司府からの報告は、小火ぼや騒ぎからラウド(10日週)後に出てるのか? なんでそんな遅くなったんだ? 独自に調査でもしたのか? だが結局は事実を掴む事はできなかったって事か……。司府長ダイタス・ギュント・ホルミアの長い手を持ってしても、この事実は掴めなかったか……。ん、まてよ……、そうか……、つまりこれはもしかすると、最後で最大のチャンスなのかも知れないぞ……。そうだナイアスよ、よくよく考えろよ。




 俺は、ゆっくりとパピス(パピルス)を取り出すと、その紙面にペンを走らせだした。宛先は、当然マディミリタ(無任地護民武官)アズナイル・ソルメルタ。俺が最も信用できる親友だ。熟考して慎重にペンを走らせる。その内容は繊細かつ大胆なものだ。どうなるかは正直まったく予想できない。もしかするとアズナルにも迷惑を掛けるかも知れない。だが、もうこれしか……。


“まっ、今こそガディミリタ(領地護民武官)殿の腕の見せ所じゃな”

その時ドメンスル(領地執政官)ハルミトの言葉が耳許で聞こえた様な気がした。





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