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34.運命の邂逅

 

 

~ナイナス・ヴェルウントからの視線~

 奴のククリが迫って来るっ。躱すことはもう無理だ。ならば一か八か……。


“ガリガリガリ”

食い縛った歯が悲鳴を上げる。口の中に血の味がパーッと広がってくる。歯で咥えた奴のククリの刃で唇を切ったんだろう。うううう、奴の狙いが必殺狙いの“顔”で助かったぜ。嫌、奴の腕の長さ、得物の長さから狙いは顔しかなかったハズか。だがもしこれが首とか胸とか腹を狙われていたら防げなかったな。必死必殺、双身致命とか云う技なんかこれが……。


 奴の胸を貫いた“黒疾斬”から奴の血が俺に降り注いで来る。そして奴の体躯から力が、命が、意思が抜けて行くのが“黒疾斬”を握る手に伝わってくる。奴のククリを噛み締めた刃に掛かる圧も急に落ちてきた。どうやらこれでやっとほんとうに終わったようだ……。


「見事。ハオロ(フェルムの5祖神のひとりで、フェバエロの祖神)よ、この勇者を照覧あれ……」

ああ、あんたも見事だったよ。こっちはククリを咥えているんで声は出せないが、きっとあんたの事もハオロ(フェルムの5祖神のひとりで、フェバエロの祖神)は見てると思うぜ……。


“ドサッ”

天に向って突き上げていた右腕をゆっくりと下ろすと、“黒疾斬”が奴の身体からズルズルっと抜けて、奴が音を立てて地に落ちた。横たわった奴の身体から流れ出す血が大地に命の最後の印を描き出すのを馬上から見下ろす……。そう、もう奴は決して立つことはあり得ない。こんな闘いは始めてだ。トファルナでもヤバイとは何度も感じた。でもここまでの危機感は感じなかった。いや危機感じゃないな。これは……畏怖感だな。


 あとは、奴との約束を守るだけか……。本当なら今片付けるのが後腐れがない事は判っちゃいるんだけどな。さっきのあの目……、間違いなくいつか仇討ちに来るんだろうな。下手するとこれは俺の人生最大の誤ちなのかも知れないな。だが、もう俺の気持ちは決まっている。ああ、仕方ないな。もしいつの日かアレに斃されるなら、それはそれが俺の運命なんだろうさ。今日の闘いが奴の運命だったようにな……。だがもしあいつが云う事をきかずにどうしても今闘うと云うならそれがあいつの運命なんだろう。その時は……。まぁ、全てはモレラ(運命の女神)の御心のままにか……。







~キニー・ノホク(黒鷹)・フェバオロからの視線~

 父が……。父が地に落ちた。奴の腕が下ると一緒に父の身体が地に落ちた。そして伏せたままの父はもう動かない……。フェバオロの戦士、フェルムのシィオ(英雄)、黒きふたつの爪・タツー・ノホク(黒鷹)・フェバオロが敗れたのだ。信じられない。そして奴はサラッド(家馬)の上だ。奴の口には父のククリが咥えられている。父の最期の双身致命も届かなかったのか……。これはほんとの事なのか? 悪い夢じゃないのか? そして奴がこっちに向かって近づいてくる。


 離せこの猫女、俺もフェバオロの戦士だ。なんとしても父の仇を撃つ! 俺は渾身の力を振り絞って縛めから逃れようとしたが、でも全く身動きが出来ない。せめて目だけを動かし奴を睨みつける。


「お前は、あいつの息子だな?」

俺は、無言のまま奴を睨む。なんとしてでも殺してやる。殺してやる。殺してやる。奴も父との戦いで満身創痍だ。それに疲れてもいるハズだ。今ならば全く敵わないとは限らないハズだ。俺を離せっ! 猫女!


「俺はお前の父親と約束をした。だから今は戦わん。お前が俺の前に立つ資格を得た時に再び相見あいまみえよう」

“お前強い。俺及ばなかった。だが息子、いつかお前倒す事できる”

“もし敗れたら。息子よ今は闘うな”

馬上からの奴の声と、父の声が重なって聞こえるようだ……。ああ、そうだ……。認めよう確かに今の俺ではこいつを倒せない……。こいつは父に、フェルムのシィオ(英雄)に勝った男なんだ。今の俺が敵うハズはないんだ。そんな事を考える事は父への冒涜になる。全身から気力と力が抜けていくのが判る……。その時、フッと俺を捕らえていた力も消え去った。俺はズルズルと力なく膝を地に着けた……。


「お前の父は偉大だった。俺がここに在るのは僅かな幸運の為だ。だから俺はお前の父との約束を守る。お前も父の意思に従え」

「ナイ、大丈夫だ。これも判ってるみたいだよ」

項垂れた頭の上からそんな声が降って来た。クソッ、俺は、俺は……。俺はグッと顔を上げて奴の顔を睨む。今は駄目だ。お前は俺より強い。だが俺の心は絶対に挫けない。そしてその顔を心に深く刻み込む。そうだその顔は絶対に忘れない。そしていつか必ず倒すっ! ハオロ(フェルムの5祖神のひとりで、フェバエロの祖神)よ御照覧あれ! 俺は逃げるんじゃない。今は駄目だが必ずいつか闘いお前を殺してやる。父の仇を取るっ!


 その時、サラッド(家馬)に騎乗した別のふたりの男がこちらに近づいて来た。誰だ? ひとりはかなりの歳の男、そしてもうひとりは、俺よりも幼い子供。この子供は……、そうか多分こいつの息子なのか? どことなく感じが似ている。そいつの顔を見ていたら思わす口が動きだした。


「お前、俺の顔を忘れるなよっ! これが、お前の父親を殺す男の顔だからな!」

この俺の言葉に一瞬怯んだ表情を浮かべやがった、ふっ、なんだまだまだ子供だな。


「ああ忘れませんよ。セシルを傷付けた人の仲間ですからね。そして父を倒すと云うなら、その前に僕を倒すんですね。僕も今はあなたには敵わないですけど、僕もまた強くなります。そしてセシルを守れる男になります」

こいつ、何を云ってるんだ? だからセシル、セシルってそいつは誰なんだよ。たくっ生意気なガキだ。よしっ、云ったな。お前も必ず殺してやる! ハオロ(フェルムの5祖神のひとりで、フェバエロの祖神)に誓って絶対、親子揃って俺が殺すっ!


「もういい。立ち去れ」

奴が黒いソードを鋭く空で払う。ソードに付いていた父の血がビシャっと飛び散る。そしてゆっくりと黒いソードを鞘に収めた。いつの間にか、俺の傍らにはポーが佇んでいる。その鼻先をちょんちょんと俺の背中に擦り付けて来る。ポーにも何が起こったのかは判っているんだろう。そのポーの横にはあのサラッド(家馬)の仔馬が鼻を鳴らしている。


 奴のサラッド(家馬)の傍らで物言わず伏せている父に近づく。誰も止めないし声も出さなさい。そこではニーが時々父の物言わない背に鼻を擦りつけている。そのニーの頭を撫でてから父の横に跪く。偉大なるフェバオロの戦士、そしてフェルムのシィオ(英雄)。そしてそして、俺の父さん……黒きふたつの爪・タツー・ノホク(黒鷹)・フェバオロ……。さようなら、俺行くよ。父さんの言葉は決して忘れない。ハオロ(フェルムの5祖神のひとりで、フェバエロの祖神)への誓いは必ず守るよ。だからどうか安らかにウズマン(森の神人)の許に還ってください。父の血に塗れた背中に、そっと土を一握り掛ける。


「父さん……。ギリール。(感謝します)ギリール。(愛しています)ギリール。(永遠に信頼します)」

さようなら……。父さん……。


「その勇者は、それがしの誇りに賭けてきちんと埋葬するである」

「ああ、それはあたいも約束する。あんたにはやる事が出来たんだろう。さっさと行きな」

「ギリール。(感謝する)……。ポー行こう」

最後にニーの頭を優しく抱く。ニーこれでお別れだ。ああ、お前の気持ちは判っている。父さんの事は頼んだよ……。今全てが終わって、今全てが始まったんだ。もう振り返りはしない。ゆっくりとポーの背中に跨ると、再びノラ()の国境に向かって進みだす。ニーは当然追いて来ないし、もうサラッド(家馬)の仔馬にも一切の興味はない。ポーとふたりだけ行くんだ。そうだ、俺には成すべき事が出来たんだ、これからはその為だけに生きて行くんだ。






~ギルナス・ヴェルウントからの視線~

 凄い! 凄い! まさかあのククリを噛んで防ぐなんて……。親父殿ほんとに強いんですね。もうちょっとアレ過ぎて怖いくらいです。親父殿が腕を下ろし奴が地に伏せて動かなくったのを確認してから、ゆっくりと古武士アドバンさんと一緒に親父殿に近づいて行った。




「お前は、あいつの息子だな?」

 親父殿が、カリ姐ぇさん捕まっている若い男になにか話しかけている。そうかあれって息子なのか? つまり親子で強盗旅行をしてたって事なのか? だがなんにも答えないな。そしてその若い男は、身動きひとつ出来ないくせに凄い形相で親父殿を睨んでいる。目の前で自分の親が殺されたんだ仕方ないとは思うけど……、でも自業自得だよな。


「俺はお前の父親と約束をした。だから今は戦わん。お前が俺の前に立つ資格を得た時に再び相見あいまみえよう」

約束? なんの話だろう? その親父殿の声を聞くと奴がガクッと項垂れる。そしてカリ姐ぇさんが奴を離すと、ズルズルとその場で崩れ落ちた。えっ、もしかしてカリ姐ぇさん、仕留めましたか? 約束したのは親父殿できっとカリ姐ぇさんなら、“カリファには関係ないからね”とか云いそうだからな……。


「お前の父は偉大だった。俺がここに在るのは僅かな幸運の為だ。だから俺はお前の父との約束を守る。お前も父の意思に従え」

「ナイ、大丈夫だ。これも判ってるみたいだよ」

その声に項垂れてた奴の顔がグイッと持ち上がった。ああ、どうやらカリ姐ぇさんは手を出していなかったみたいだ。自分と古武士(アドバン)さんが、ゆっくりと親父殿の傍に近づくと、その若い男の視線が、こっちに移ってきた。うおっ、すっごい眼力めじからだっ! マジに瞳の中に蒼い炎が観えるみたいだっ! 睨み殺すってのは正にこんな感じなんだな……。 


「お前、俺の顔を忘れるなよっ! これが、お前の父親を殺す男の顔だからな!」

えっ! なんですか? それ自分に云ってますか? 怖いっ……。でもでも、う~、なんか猛然と腹立ってきたぞっ! そもそも襲って来たのソッチじゃないか。しかもセシルは危うく死ぬ処だったんだぞ。なに云ってんだこの馬鹿っ!


「ああ忘れませんよ。セシルを傷付けた人の仲間ですからね。そして父を倒すと云うなら、その前に僕を倒すんですね。僕も今はあなたには敵わないですけど、僕もまた強くなります。そしてセシルを守れる男になります」

なんか思わず云ってしまった! でもほんとの気持ちだ。そしてこの顔も忘れるなよっ! あんたの顔も絶対に忘れないからな。まぁ、普通に誰の顔も忘れないけどね。あんたの顔はスペシャルに記憶しておいてやるよ。


「もういい。立ち去れ」

そしてこの親父殿の一声で全てに幕が降ろされた。奴が、無言のまま親父殿の横で斃れている亡骸に近ずく。静かに跪くと自分の父親の背中にそっと土を一握り掛けた。


「父さん……。ギリール。(感謝します)ギリール。(愛しています)ギリール(永遠に信頼します)」

やっぱり悲しいんだろうな。奴のその感情がヒシヒシと伝わって来る。なら、なんで襲って来たりしたんだよっ! こんな事は、こっちだって望んじゃいなかったんだ。親父殿だって別に好きで戦った訳じゃないハズなんだ。なんでこんな事になってしまったんだ。もしかしてこれが運命って奴なのか? こんな運命の為に転生して来たのかよ……。


「その勇者は、それがしの誇りに賭けてきちんと埋葬するである」

「ああ、それはあたいも約束する。あんたにはやる事が出来たんだろう。さっさと行きな」

「ギリール。(感謝する)……。ポー行こう」

その言葉を残して奴はポニ(群馬)の背に乗ると唯ひとりウラ()に向かって進んでいった。すると倒れた男の傍らで佇んていたポニ(群馬)が、去っていく奴の背に向かって物悲しい声で嘶きを上げた。それはまるで別れと鎮魂を告げるような掠れ気味の長い長い嘶きだった。


 そのポニ(群馬)の声に送られる様に奴は去っていく。ほんとにこの広い世界で何時の日か、奴と相見あいまみえる事なんか可能性は低いんだろうな……。そもそも奴は自分がどこの誰だか知らない訳だし……。でもでも何故かいつの日か必ず奴とは再会するって確信めいたものが感じられる。そうこれってのはやっぱり運命なんだと……。





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