33.決着
~ナイナス・ヴェルウントからの視線~
すれ違ったサラッドの向きをゆっくりと変え、そして奴と再び相対する。こちらを向いている奴の右腕は力なくブランと垂れ下がっている。そしてダラダラと血が滴り落ちている。うん、その様子とさっきの手応から考えれば、あの腕はもう二度上がる事はないハズだ。そしてその右手にまだ握られている奴の槍も、完全に縦に裂けている。すでに武器としては用をなさないはずだ。これで完全に勝負は着いた。だが奴の表情、目の色には敗北のソレは感じられない。つまり奴は最後までやるつもりなんだ。ああ、それもまたいいだろう……。
「最後に聞きたい。一体、あんた方の目的はなんなんだ?」
フェバオロは名誉ある氏族だ。しかもフェルムのシィオたる者が、そう簡単に盗賊の類に身を窶すとは考えにくい。しかも仲間を叔父とか云っていた。家族で動いているってのも全く良く判らない。その上で奴の仲間は子供を襲っているんだ。おい、あんた達一体目的はなんなんだ?
「フェバオロの名誉…………。お前に頼み、ある」
まぁ、そんな答えは予想してたさ……。ん? 頼み? その言葉は予想外だな。
「なんだい?」
これほどの男の頼みだ、聞けるものなら聞いてやりたい。確かに俺は勝ったが、だがこの勝利はほとんど偶然と云ってもいい。最後のあの予想外の間合いからの突き、あれにはマジ驚いた、あの穂先の僅かな傷に気が付かなかったなら、ほんとは99%俺の負けだった。
「お前強い。俺及ばなかった。だが息子、いつかお前倒す事できる」
つまりそれって、いつか俺を倒しに来るだろう、お前の息子を助けろって事だな。おい、おい、なんかとんでもねぇ、頼みだなそれ……。
ちらっと、カリファに囚われながらも、こっちをもの凄い目で睨みつけている若い男を眺める。あれが息子か……。おお、すげぇ、いい目をしてやがるな。確かに今見逃したら、いつかは俺を殺しに来るんだろうな。でもよ、そんなに涙を零してちゃ、親父の最後の姿が見えねぇぞ……。お前にはこの親父の姿を直視する義務があるんだぜ。
「フェバオロの戦士、フェルムのシィオ、黒きふたつの爪・タツー・ノホク(黒鷹)よ。いいだろう。だがな、きっと親子揃って無駄死になるぜ」
「ギリール(感謝する)」
すっきりとした自然な笑みが奴の顔に浮かぶ。ああ、ほんとにいい男なんだな。こんな形じゃなく出会いたかったぜ。すると奴は右手の槍を地に落とすと、再びこちらに向ってポニを突っ込ませて来る……。なんだ無手なのか? どうするつもりなんだ? そうかフェバオロは格闘も得意だって聞いた事がある。だがその右腕で格闘だと? それはもうどう考えても無理筋って奴だな。だが勇者としては最後の可能性があるまでは諦めないって事か……。ああ、その気持は俺にも判るぜ。そしてさっきの言葉で全てが……。あとは勇者としての最後の姿を息子に贈るって訳か……。クッ、確かに気持ちは判るが嫌な役目だな。
~キニー・ノホク(黒鷹)・フェバオロからの視線~
「お前強い。俺及ばなかった。だが息子、いつかお前倒す事できる」
一体は父はなにを云っているんだ? そして父の姿がなぜか霞んで良く見えない。わからない。わからない。一体なにが起こっているんだ。全然理解できない。クソッ、この猫女、身体を離せっ! 俺は父の所にいかなくちゃならないんだ。
「フェバオロの戦士、フェルムのシィオ、黒きふたつの爪・タツー・ノホク(黒鷹)よ。いいだろう。だがな、きっと親子揃って無駄死になるぜ」
「ギリール(感謝する)」
ああ、槍を地に落とし父が突っ込んでいく。フェバオロの戦士が槍を落とす時は……。嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。
「父さん……」
「あんたちゃんとあの姿を見るんだよ」
そんな事云われなくてもわかってるっ! 顎のダガーが皮膚を破るのも無視して、グイっと顔を突き出す。父と奴がどんどん接近していく、奴があの黒いソードを振り翳している。父は無手だ、もう相手に跳びかかり格闘に持ち込むしか手は残っていない。だが奴のソードの腕は相当のものだ。無謀だ! まさかフェルムのシィオが勝利を諦めたのかっ!
ん! ポーが奴の手前で一瞬前脚を屈めると空に跳ね飛んだ! そしてそのポーの背中から父が更に跳ね飛ぶ! 空を舞う父の左手には、いつの間にか三日月状に湾曲したククリが握られている。父の高さは奴の顔より更に上だ! 空中で身体を捻り回し父の頭が下を向くそして伸ばされた左腕が奴に襲いかかる! 父は諦めてなんかいなかったんだ! そうだ、フェルムのシィオ、黒きふたつの爪・タツー・ノホク(黒鷹)が、戦いの中で勝利を諦めるなどあり得ないんだ!
“イッリャァー”
奴の裂帛の気合が周りに響く! 奴の黒いソードが、父の胸を刺して背中から突き抜けている。そして父の左手のククリが、奴の顔に突き刺さって行く。これは相打ち……。あれは間違いなくオロ系族が持つ双身致命の技だ。オロ系族の勇者は必ず己独自の双身致命の技を持っていると云う。そしてその技は一生に一度しか使われない……。ああ、涙が溢れて父の姿が霞む。涙を拭きたいのに身体が動かない。その時なにかが俺の顔を拭った。
「まぁ、あれがフェルムのシィオか、流石に大したもんだね」
当たり前だ……。あれは俺の父、フェルムのシィオ、黒きふたつの爪・タツー・ノホク(黒鷹)・フェバオロだぞ……。
~ギルナス・ヴェルウントからの視線~
親父殿と奴の戦いに自分は言葉など一切挟む事が出来なかった。それに多分自分がなにかを云った処で、あのふたりの戦いに幾ばくの影響も与えられなかったと思う。あの信じられない間合いからの槍の突き、そして親父殿は、なんとその槍を突き裂いたんだ。信じられない! ほんとにあんな事が人にできるものなのか?
これで間違いなく決着が着いたとホッとしていたら。ふたりは何事かを言葉を交わしたかと思うと、奴が親父殿に向かって突っ込んでいった。なんだって? まだ、やるのか!? なんでだ? だってもう決着は明らかじゃないか? これ以上やってなんの意味があるんだ?
「なんで……」
「あれこそ勇者の闘いである」
「勇者の闘い?」
「生死、いやそれすらを超えて、己の全存在を賭けた闘いである。間違いなく最後まで闘うである」
「それになんの意味があるんですか?」
「意味であるか? それこそが、勇者としての己の存在の意味である」
「闘いが存在の意味?」
「で、ある」
ううう、どうやらまだまだ理解できない世界がここには残っているみたいだ。でも、それってのはきっと自分が転生者とかそーいう問題じゃなくて、そもそも人としての在り方の問題みたいだ。きっと”武士道と云うは死ぬ事とみつけたり“の様に死ぬ事自体になんらかの意味を持ってるんだろうな。自分なんかは死=終わりみたいにしか感じないから、どうしても死なない方法を探しちゃう。これってなんか根本的な違いがあるのかな……。まぁ、判ったのは間違いなく自分は勇者にはなれんって事だね。
奴が親父殿に向かって突っ込んでいく、その槍ごと切り裂かれた右腕は馬の動きと共に力なく上下している。あれではもう何も出来ないだろう。ほんとに死ぬ事と見つけたりなのか……。だが奴はほんとは全然諦めてなんかいなかった! 右腕を失った奴が今度は、空中から襲い掛かって来たんだ。あの動きはまさに人馬一体、親父殿の直前で馬が跳びそして奴が跳んだ。空中で宙返りをした奴が、親父殿の頭上から襲いかかる。奴の左手には、あのセシルを刺した男が持っていたのた同じ、刃渡り40センチ位の三日月状に反ったナイフが握られている。いつ抜いたっ! 危ないっ! 親父殿っ!
“イッリャァー”
親父殿の裂帛の気合が空気を揺らす!
親父殿の“黒疾斬”が、奴の胸を刺して背中から切っ先が突き出している。やった! だが奴のあの左手のナイフも、上を向いた親父殿の顔に突き刺さる。クソッ、相打ちかっ!
~サローン・アドバンからの視線~
恐ろしい戦いである。あのフェルムの槍使いは正に尋常ならざる者である。あの間合いからの、槍の突き。あれが噂に聞いた“延伸槍”であろう。見た者は必ず死ぬと云われる秘技であるな。確かにあの間合いは考えられんである。だが護民官殿もまさか、あのような方法で、槍の突きを迎え撃つとは……、アレは聞いたことも考えたこともないである。魔獣殺しのヴェル(ヴェルウント)とは、正に伊達ではないのである。あのフェルムの槍使いも片手であそこまで槍を操るとは……、間違いなく魔戦士であるな。正に恐るべき者であった。フェルムは内功を使えないと云うが、どうやらその噂は嘘のようである。認識を改める必要があるであるな。だがこれで勝負は着いたのである。良かったである……。
なにっ? フェルムのシィオであるか? ほんとであるか? ほんとであるか? むむむ、誠に信じられない事の連続であるな。おお、なんと! なお決着を求めるのであるか。うむ、フェルムのシィオならばそうであろう、それならばまた護民官殿も引くことはできないであろう。真に残念であるが、確かにフェルムのシィオが、捕縛とかあり得ない事であろう。勇者の挟持ならばさもあらん。
「なんで……」
「あれこそ勇者の闘いである」
「勇者の闘い?」
「生死、いやそれすらを超えて、己の全てを賭けた闘いである。間違いなく最後まで闘うである」
「それになんの意味があるんですか?」
「意味であるか? それこそが、勇者としての己の存在の意味である」
「闘いが存在の意味?」
「で、ある」
ご子息殿の呟きに思わず応えてしまったのである。しかしどうやらご子息殿には理解できない様である。確かに普通ではない考え方である。理解できなくても良いし理解する必要もないのである。いや逆に理解できない方がいいかもしれないのである。これは限られたほんの一部の闘いに魅せられた者だけが住む世界の考えなのである。正しくもないし、良くもなく優れてもいないのである。ただそれがしにはそれは堪らなく美しく魅えるのである。
ああ、フェルムのシィオが、今最後の勇姿を魅せようとしているのである……。なにっ! あの深手でまだ跳ぶのであるか? 天から護民官殿に向かってククリが襲いかかるのである。さすがはフェルムのシィオ、あれ程の手傷を負った上で一部の隙もない動きである。
“イッリャァー”
護民官殿の裂帛の気合である。護民官殿の“黒疾斬”が、相手の胸を完全に突き刺したである。はっきりと背中から“黒疾斬”の切っ先が突き出しているである。あれは致命傷であるな! だが相手の左手のククリが、護民官殿の見上げた顔に突き降ろされたのである。もしやあれが聞く処の双身致命であるか? おお、これは見事! 正に見事な相打ちであるっ!
~ナイナス・ヴェルウントからの視線~
なんだとっ! あり得ねぇ。あの深手でまだ宙を跳ぶってのか? しかもポニとタイミングを合わせて跳びやがった。あんな深手を負った男が今俺の頭上に居やがる。その姿を見ている今でも信じられない光景だ。切り裂けた右腕からは今でも出血が続いているんだ。その赤い血が見上げる俺の顔に降り掛かって来る。しかしまさか上から来るとは思いもしなかったぜ。さすがフェルムのシィオだ。クソッ、一遍足りとも諦めていなかったなっ。なにが“頼みある”だ。完全に騙されたぜ。しかもその左手のククリはなんだっ! 無手じゃねぇのかよっ。抜き手が全く見えなかった。なんだこれは。これで一体俺は何回奴に裏を掻かれたんだ? まいったぜ。しかもこいつはマジヤバイ。
“イッリャァー”
こうなったらもう攻撃しか手は残ってねぇ。奴の身体はガラ空きだ。俺は“黒疾斬”を奴の胸に向かって突き上げる。“黒疾斬”を握った拳にはっきりと奴の血肉を突き切った手応えを感じる。突き上げた腕にはダラダラと奴の血が流れ落ちて来る。だがそれと同時に奴のククリが目の前に迫ってきた。奴の身体に突き刺さった“黒疾斬”が動かない、しまったこれでは奴のククリを躱せない。そうか最初からこれ……、つまり相打ち狙いだったのかっ。ほんとに最後の最後までやられたぜ。クソッ、奴が一枚上手だったって事か……。
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