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32.ナイナス・ヴェルウントの闘い③

 

 

~ギルナス・ヴェルウントからの視線~

 今自分は古武士(アドバン)さんの後ろを必死でいて行ってる。正直乗馬はあんまり得意じゃないし、普段こんな早さで馬を疾走らせた事なんかなかった。でも今はそんな事云ってられない、もう無我夢中で馬の背にしがみついてるけどほんとに凄い振動だ。時々古武士(アドバン)さんがサラッド(家馬)の走りを緩めて呉れているから、それでなんとかいていけてるけど、そろそろ限界かもしれない……。馬の腹を挟んでいる両太腿の感覚が無くなってきている。手綱を握る両手も、最初は焼ける様に熱かったのが、さっきからちょっと痺れてきてる感じだ。揺られ過ぎなのかちょっと考えもまとまらない感じだ。どうも自分で思ってた以上に体力が消耗してるんだ。でも……急げ急げ……。


 周りがかなり明るくなって来てるのは判るけど、風景はほとんど目に入ってこない。見詰めるのは前をいく古武士(アドバン)さんが乗るサラッド(家馬)の大きな逞しい尻、そしてその尻の下で大地を強く蹴り上げる2脚の足と蹄だけだ。ただただその動きを目で追い続ける。なんか永遠に馬に揺られている感じで、頭がボーッとして来てる。これってきっと乗馬を始めた時に注意された落馬する時のパターンだよな。クッ、だんだん上半身が前に傾いている。サラッド(家馬)たてがみが額や頬に触れ始めてる。不味いなっ、これは……。


“どうっ、どうっ”

映画のシーンが変わるみたく突如その全てに終止符が打たれた。なんか長い悪夢から抜けだしたみたい。古武士(アドバン)さんの声が遠くで響く。気がつくと古武士(アドバン)さんのサラッド(家馬)が立ち止まっている。そして自分がその脇を通り過ぎようとすると、古武士(アドバン)さんの逞しい腕が、にゅっと伸びて来て自分の手綱を握っていた。自分は、もうほとんどサラッド(家馬)の首にしがみ付いている状態だった。あと数分もしたらきっと落馬していたな。


「大丈夫であるか? ご子息殿」

「ええ、なんとか……。それよりアドバン先生、追いついたのですか?」

「あれである」

いつもの渋い古武士(アドバン)さんの声が耳に響く、馬の動きが止まったのでなんとか身体に力が戻ってくる。ゆっくりとだけど上半身を起こす事ができた。そして古武士(アドバン)さんの視線の向こうに……、親父殿が居た。


 いつの間にか夜はすっかり明けていた。眩い朝日の中にサラッド(家馬)に騎乗した親父殿のいつもの黒衣の姿がくっきりと見える。そしてその右手には、あの妖しく黒く光る“黒疾斬”があった。よかった。間に合った。そうだ、あの槍の間合いについて早く伝えないと。


 大きく口を開いて親父殿に声を掛けようとした正にその瞬間、親父殿に相対していたポニ(群馬)に騎乗して槍を構える男が、一直線に親父殿に向かって突進を始めた。そしてまだかなりの距離がある所で、槍が突き出される。それは自分からみても距離があり過ぎる様にみえ……。しまったあれだ、あれが伸びるんだ。理由なんか全く判らない、でもあの時も絶対に届かないと思った槍先が届いんだ! 


 全てが一転した。ポニ(群馬)の速度がグッと上がり、しかも槍の進む速度も一気に上る、親父殿との距離があっと云う間に縮まった。まずい親父殿も間合いを見きったつもりになっている。何か別のものが来ること警戒してるんだ。ああ、これを伝えたかったんだ! でももう遅い! 親父殿その槍は届きます! 避けてください。心の中でそう叫けんだと同時に、奴が上体を捻りながら片腕だけで槍を突き出す。そうかっ! あれで槍の間合いを伸ばしたのか! 親父殿は完全に虚を突かれた感じだ。もう自分から見ても、あの鋭い槍の突きを払うのは無理だと判る。


「不味いである」

古武士(アドバン)さんのその一言が心を締め付け、全身が凍りつく。






~キニー・ノホク(黒鷹)・フェバオロからの視線~

 もらった! でもあんなに伸びるのかっ! やはり父の“延伸槍”を見切るのは絶対に不可能だ。俺からみても信じられない程の早さで槍が伸びている。“延伸槍”は、いつもと全く同じ態勢で槍を突き出しながら、後手の左手を離し右拳の握りを緩め槍を拳の中で滑らして行く、これで両手で槍を扱っている時、後手の更に後ろに残している石突までの余裕含め槍全ての長さを使って突き出す技だ。片腕だけで槍を扱うから伸ばした腕の長さ分更に槍先は伸びる。普通ならあの長い槍の根本を片手だけで持って突き刺しても威力不足となるのは間違いない。でも我らフェバオロには、ウルスグ(闘いの神)の力がある。だからこその秘技“延伸槍”なんだ。


 しかしそんな俺から見ても父の“延伸槍”はまるで魔法で本当に槍が伸びてる見たいだ。流石の奴も躱そうとはしなかった。そうだあの間合いからの突きは、別の罠を疑って躱そうとは思えないもんだ。だから一手遅れる。そしてその遅れが命取りになる。気が付けば槍が眼前に迫る。もうその時には最早手遅れ何も間に合わないって事だ。見ろ奴の今の構えからじゃ、あの勢いがある槍を打ち払うのは到底無理だっ! 父の槍先が奴の胸に突進していくっ| 勝負ありだっ! ん? なんだ? 奴がソードを突き出す? ソードで槍に向かって突きだと? そんなのどこにも当たらないだろう……。また槍先を払うつもりなのか? だがそのソードの速度じゃ、もし当たったとしても無理だな。父の“黒牙”に弾かれるだけだ。


 !っ !っ ????? なんだっ! なんだっ! なんだっ! 一体どうなった? ああああ、父の右腕が……。思わず父に向かって走りだそうと……


「動くんじゃないよ。あれは大人の闘いだからね、子供が横からちゃちゃを入れるもんじゃない」

なんだ? 俺の背後に誰かがいる。全く気が付かなかった。そして耳許でなにか楽しそうな声が……。でも姿は完全に死角に居るのか全く見えない。それに顎の下に冷たい感触……、顔が動かせない。クッ、足になにかが絡まっていて身動きならない。ん? この臭いは……。


「猫族か?」

「おやおや、見えないはずなのによく判ったね……。そうか臭いか、さすがフェミー(フェルム人への蔑称)の坊やだね。なかなか鼻が効くじゃないか。まぁ、急いでたんで無臭香を付ける暇がなかったからね」

やっぱり、さっきの猫女だな。首をちょっと捻って姿を……。


「動くなと云ったはずだよ……」

首に熱い感触か……。こいつ切ったな。


「いいかい? もう2度と云わないからね。このダガーは1ミル(ミリ)だって動きやしない。つまり今首が切れたのもあんたが動いたからさ。まぁ、あんたが勝手に首を切って自殺してくれる分には、あたいとしちゃ大喜びなんだけどねぇ。こっちはね、セシルの事もあるからさ、ほんとならこのまま首を掻き切って血の噴水か、腹をえぐって内蔵の品評会をしてやりたい気分なんだよ。でもさ、ナイが後で煩そうだから、我慢してこ~んな甘ちょろい事してんだからね。そこんとこ理解してくれるかい、フェミー(フェルム人への蔑称)の坊や?」

その囁き声を聞いて、なんだセシルって誰だ? と思ったと同時に、腰の上の右の背中……、いや脇腹に鈍い衝撃が襲って来た。身体の芯から湧き出てくる様な鋭い痛みが脇腹から走る、息が詰まって全身から冷汗が出て来る。


「ウッググゥ」

「まぁ、こんくらいは我慢しなよ。セシルの痛みはこんなもんじゃなかったハズだからね」

だから、そのセシルっての誰だよっ!






~ナイナス・ヴェルウントからの視線~

 この槍を払うのはもう無理だっ! どうする、どうする! クッ、もう奴の槍はそこだ! 黒く鈍く光る奴の槍先が迫ってくる。ん? 黒く光る穂先に僅かな傷があるっ、さっき弾いた時に付けた傷か? なんでもいい、もう手はない! よしっ、いけっ!


 その穂先の僅かな傷に向って、“黒疾斬”を突き出す。“黒疾斬”の切っ先を正確にその傷に突き入れるんだっ。こっちには速さも力も足らない。ちょっとでも外れれば、“黒疾斬”はあっさり弾き飛ばされるはずだ。完全にあの傷に向って垂直に切っ先を突き入れるんだっ! そうすれば後は奴の力が、速さが、こっちの味方になるっ!


“キンッ”

乾いた金属音が鳴り響く、“黒疾斬”の切っ先が奴の黒い穂先に突き刺さる、すごい圧力が“黒疾斬”を握った腕に伝わってくる。負けるな! ここが肝心だ。突き返す必要は全くないんだ。“黒疾斬”を信じてただこの圧力を受け止めろ! 


“ガギッッ”

“黒疾斬”の切っ先が、黒い穂先の傷を抉り、そして引き裂いた。いや穂先の石を割り裂いた。やったぞ! “黒疾斬”を持った腕に加わる圧力が急に軽くなる。よしここだ、俺は僅かだけ“黒疾斬”の刃を上に立てた。


“キィキィィィ”

穂先を割裂いた“黒疾斬”がそのまま槍の柄を切り裂いて行く。奴の槍が裂けながら悲鳴を上げている。俺のサラッド(家馬)の進む速度と、奴のポニ(群馬)の進む速度が合わさった速度で、“黒疾斬”の刃が奴の槍を切り裂いていくっ! そして次の瞬間には別の手応えが拳に伝わって来た。


“グギュュ”

それは、過去に何度も感じた手応。そう、血肉を切り裂く鈍く重い感触。奴の槍を切り裂いた俺の“黒疾斬”が、そのまま槍と一体となっていた奴の右腕を切り裂いたんだ。一瞬でサラッド(家馬)ポニ(群馬)がすれ違ったか、俺の右頬には、奴の右腕から飛び散った血飛沫が、バッシャッと飛び掛かっていた。この手応え、間違いなく奴の右腕はもう駄目だ。ああ、これで勝負有りだっ!





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