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31.ナイナス・ヴェルウントの闘い②

 

 

~キニー・ノホク(黒鷹)・フェバオロからの視線~

 父が一気に仕掛ける、そして突き出した父愛用の槍“黒牙”の奔る速度が突然上がる。父の旋突槍せんけっそうは、避けることは不可能だ。決まった! えっ、なにっ! 避けた? 首を傾げて槍先を避けたっ! 父の旋突槍せんけっそうを初見で躱すだと? なんて奴だ信じられない……。


「お前、“白蛇の槍”か?」

奴が父に向かって叫ぶ。なに云ってるんだ。そもそも旋突槍せんけっそうは、フェバエロの技だ。それを、カナハオロの連中が盗ったんだぞ。だけど今じゃ旋突槍せんけっそうって云えば、ロキルム(ロキアの人:非フェルム人)でさえ“白蛇の槍”と思うのか……。悔しさに思わず唇を噛む。口の中に血の味が広がっていく。


「白蛇の槍違う」

父が一言で断ずる。そうだ、俺達は誇りあるフェバオロだ。白蛇の槍なんかであるはずがない。


「俺、フェルムのシィオ(英雄)、黒きふたつの爪・タツー・ノホク(黒鷹)・フェバオロ」

「フェバオロの戦士、フェルムのシィオ(英雄)、黒きふたつの爪・タツー・ノホク(黒鷹)か、これはなんとも光栄な事だ」

えっ、ここで名乗る? それは不味い……。でもきっと父も悔しかったに違いないんだ。だからだから名乗ったんだ。そうだ父は誇りあるフェバオロ、しかもフェルムのシィオ(英雄)なんだ。白蛇の槍なんかと間違われていい訳あるハズがない。だがこの父の名を聞いても奴に臆した気配が一切ない。疑っているのか? いや、逆に闘志が増したようだ。馬鹿な、たかだかロキルム(ロキアの人:非フェルム人)の一介の騎士風情が、フェルムのシィオ(英雄)に敵うとでも思っているのか、馬鹿にするなよ……。俺は奴の顔をデッチム(死の呪い)を込めて睨んでやった。


「ナイっ、代わろうか? フェルムのシィオ(英雄)は、マジ強いよ」

「うるせぇ。黙って見とけ」

クッ、猫族の女如きが何を云ってるんだ。お前なんか俺が後で殺してやる。こいつにもデッチム(死の呪い)を掛けてやる。そうだ、それだけは奴に賛成だっ。猫族は黙ってろ!


 そんなやり取りが終わると、父と奴はまた右回りで何周かを回る。すると今度は奴がサラッド(家馬)の腹を踵で突くと、父に突っ込んで行く。馬鹿めフェバオロの槍使いに向かって突っ込むだと? はっきり云ってそれは自殺行為だな。今度こそ終わりだ。父も奴に向かって突っ込んで行く、どんどん互いの距離が縮まっていく。父の槍が突き出るタイミングが遅い? そうか奴はきっと父の槍の柄を切るつもりだな。だから父は最初から旋突槍せんけっそうで突くんだ。父の旋突槍せんけっそうならば、鋭く回転した槍の柄は奴の刃を弾く! 間違いない父が勝った!






~ナイナス・ヴェルウントからの視線~

 今度はこちらから仕掛けて見るか。こっちが突っ込むと向こうも突っ込んで来やがった。チッ、迎い撃つって訳じゃないのか……。できればそっちが楽だったんだがな。グングンと奴との距離が近づく。さっきの槍の突きの速度変化には驚いたが、一度見れば対応はできるぜ。今度はあの旋突槍せんけっそうになる前にその槍をたたっ切ってやるっ。槍の弱点は柄の長さにある。穂先が俺に届く間に前に柄を切る!


 ん? さっきとは突きのタイミングが違うな? まだ突いて来ないのか? どうした? 来たっ! ふんふん、なるほど今度は最初っから旋突槍せんけっそうってことかよ? ふん、しかしそれならさっき見たからな……。んんん~、なんだ槍の回転がさっきと違うじゃねぇかよっ! ヤベッ、これは切れねぇかもしんねぇ。ちっ、マズったか? うんじゃ、これでどうだっ!


“闘域っ”

突然周りの物全てのが鮮明に感じる。音も視覚も全てが急激に鋭敏になる。奴の槍先がはっきりと見える。


“キィィィン”

乾いた音が響き、奴の槍先が大きく空に向かって弾かれた。どうだ奴の穂先を“黒疾斬”の刃で弾いてやったぜ! これでもらった! あとは、こちらも振り上がった“黒疾斬”を振り下ろして袈裟斬りにするまでだ。あそこまで大きく弾かれた長い槍を、元に戻すまでに余裕で殺れる。それに俺はもうお前の穂先の懐に入ってる。こうなっちまえば槍なんぞ単なる棒みたいなもんだ。どうだ、これが長い槍の弱点だぜっ! 行けっ、あと少しで俺の間合いだ。もらった!

 

“バグゥゥ”

なにっ! 奴の槍の石突き(穂先と逆の先端部分)が俺の腹に突き刺さる。鋭い衝撃が俺のハードレーザーアーマとチェーンメイルを通して腹を襲って来た。なんだ? やっべぇ。離れろ、離れろっ。サラッド(家馬)の腹を蹴って奴との距離を取る。そして再び右に回る。


 なんだ? なんだ? 今なにが起きたんだ? 俺は槍の柄のあの回転に気がつき、柄に切り付けるのを止めて、“黒疾斬”の切っ先で奴の穂先を弾き上げたんだ。俺の“黒疾斬”も跳ねたが、奴の穂先はもっともっと高く弾かれた。そして俺は奴の槍先の内側に入った。あとは袈裟斬りで終わりのはずだったのに……? チッ、なのになんで今俺の腹が痛いんだ?


 ん? 奴が突き出した石突きを、左手を引きながら槍をクルっと回転させて槍先をこちらに向けた……。クッソォ、そうかっ、上に弾かれた槍を奥の左手を突き出す事で回転させて、石突きで突いて来たのかっ! ってかあんなに後ろに余裕があったのか? 全然見えなかったぞ。そもそも普通槍ってのは一番後ろを左手で握るんじゃないのかよ! クソッ、そんなの有りかよ。聞いた事ないぞ。こりゃ一筋縄じゃぁ、どーにもならんな。流石フェルムのシィオ(英雄)って事かよ。ああ、どうやらあんたは間違いなくフェルムのシィオ(英雄)の様だな。ならばこっちも礼儀を示さなきゃならんよな。


「フェバオロの戦士、フェルムのシィオ(英雄)、黒きふたつの爪・タツー・ノホク(黒鷹)よ。流石だな。驚きだよ。あんたみたいな戦士は今まで見た事ないぜ。だがな俺もセキニアのラフチェスカ巡視隊、魔獣殺しのヴェル(ヴェルウント)って呼ばれててな。まぁ、人生まだまだやる事もあるしよ、ここで倒れる訳にはいかねぇのさ」

うっ~、なんか背中かゾクゾクして来やがったぜ。






~キニー・ノホク(黒鷹)・フェバオロからの視線~

 まさかっ! 父の全力の旋突槍せんけっそうを弾いただと?! あの槍の突きの速度に遅れないように、最短距離で穂先をあの細い変なソードの刃で切り上げやがった。もし柄に切りつけていれば、あの変なソードが逆に弾かれて間違いなく奴は、今頃父の槍に貫かれていたハズだ。しかし“黒牙”の穂先をソードの刃で弾くだと? こんな奴が、ロキルム(ロキアの人:非フェルム人)にもいるのか……。


「フェバオロの戦士、フェルムのシィオ(英雄)、黒きふたつの爪・タツー・ノホク(黒鷹)よ。流石だな。驚きだよ。あんたみたいな戦士は今まで見た事ないぜ。だがな俺もセキニアのラフチェスカ巡視隊、魔獣殺しのヴェル(ヴェルウント)って呼ばれててな。まぁ、人生まだまだやる事もあるしよ、ここで倒れる訳にはいかねぇのさ」

奴が興奮したサラッド(家馬)を鯔しながら、父へ声を掛ける。ラフチェスカ巡視隊? 魔獣殺しのヴェル(ヴェルウント)? ああ、聞いた事があるぞ、10年前以上にオズグムルツ(昏き闇の大森林)で、突然10匹の魔獣が現れて、それを黒虎騎士団のラフチェスカ巡視隊が鎮圧したって話しだな。魔獣は倒したけどなんでも隊長以下ほとんどが斃れたらしい。そして生き残った数人のうちのひとりの名が、魔獣殺しのヴェル(ヴェルウント)だったはずだ……。あとは潰しの魔女とか超人ロンオードとかだったか……。確かこの3人で8匹の魔獣を倒したとか云う話しだったよな……。ああ、そんな話はロキルム(ロキアの人:非フェルム人)特有の法螺話しだとばかり思っていたけど、もしそれが本当なら間違いなく奴は手強い……。


「ギリール!(天に感謝する) 真の戦士と戦う。それ名誉」

父が本当に嬉しそうにそう答えると右手の槍を、天に高く突き上げる。西の地平線が、白く輝いて来た。いよいよ夜が開ける。その時スッと射した一条の陽光が、高く掲げた父の槍の黒い穂先をくっきりと浮かび上げる。そうだ互いが名乗りを上げ、互いを戦士と認めた今、あとはそれぞれの戦士の名誉を賭けて決着を着けるだけだ。






~ナイナス・ヴェルウントからの視線~

 もう手合わせを始めてから、1時間位経っているか? いや30分位か? 時間の感覚がなんかおかしくなってきてるな。もう全身は汗でべっしょりだ。朝の寒さの中で奴の全身から湯気が昇っているのが見える。たぶん俺もおんなじだろうな。しかしまだ息は上がってないし、体力もばっちしだ、まだまだ行ける!


 何回かやりあって奴の槍の間合いと、突きの速度はほとんど把握できた。そうだ、さっきの交差でも充分に余裕で奴の槍をいなす事ができた。俺の“黒疾斬”と奴の槍、長さで2倍以上の差がある。確かに槍はその長さが武器、互いの間合いから見て有利なんだろう。だがな……重さもたぶん“黒疾斬”の2倍はあるだろう。奴はその重い槍を間違いなく俺よりも多く動かしている。ああ、長いって事はそーいう事なんだよ。間違いなく奴の疲労は俺より蓄積してるハズだ。そうだよ、ヒトってのは魔獣とは違って疲れる動物なんだ。そして疲労はミスを呼ぶ、これは絶対の真理だ。今の戦いを続けていけば、俺の勝ちは間違いないはずだ。判ってるのか? 槍は長期戦には絶対的に向かねぇんだよ。だが……。そう、奴だってそんな事は百も承知なハズだ。それなのに奴に焦りは感じられない。つまり奴には、まだなにか手が残ってる事だ。ああ、間違いねぇな。でもなにがあるんだ?




 ゆっくりと右周りで回っていた奴のポニ(群馬)の頭が一瞬沈んだ。そして大地を蹴ってこちらに跳んで来る。いきなり速度を上げやがった。しかも今までの中でも最大の速度だ。来たっ! 奴がその最大速度のまま一直線に向かってくる。どんな手を隠してやがる? クソッ、まだ全然判らねぇ。だが尋常じゃない感じがビシビシと迫ってくっぞ? なんか首の辺りがチリチリするヤバイ感じがしやがる。こりゃアレだぞ、フォボル(森狼)の魔獣と相対した時とおんなじヤバイ感じだ。


“瞬閃、闘域っ”

今は力はいらねぇ。早さと正確さが全てだ。まさか2度内功を使うとは思わなかったぜ。たしかにお前は魔獣並……、いやそれ以上だな。突然俺の周りの全ての物が鮮明に感じられる。音も視覚も全てが急激に鋭敏になる。そして奴の動きが若干遅くなった様に感じる。よしっ、これなら充分に対応可能だ! こいよ、フェルムのシィオ(英雄)。きっちり向かい撃ってやるぜ。


 ん? シュルシュルと奴が槍を突き出してくる。だがさすがにその間合いじゃ届かんだろう? いくらなんでも無理だぜ? 一体なんのつもりだ? ん? なんだ? 突然奴のポニ(群馬)の速度が更に上がった、マジかっ? しかも奴の槍の突き出る来る速度も上がってきやがった。なんだこの槍の早さは……。しかしこの間合じゃ届かん。おい、どうする気だ! 何を隠してやがる? なにっ? 槍先が止まらんだと? なんだなんだ? この間合で届くのか? 不味いっ、間に合わん! こんな間合いから槍が届くとは思ってなかったぞ! しまったこれが奴の最後の一手かっ! 


 既に奴の槍先が、サラッド(家馬)の頭上まで迫って来ている。何か隠し技があると踏んでこっちの対応が完全に一手遅れた! チッ、後の先を狙って後の後になっちまったぜ。今から奴の槍の柄や槍先を払っても、この槍の早さと鋭さでは、もう槍の突きの向きを変えるのは無理だ。多分俺の“黒疾斬”の方が、力負けして弾かれるのが関の山だ。しかもこの距離じゃもう躱すのも無理だ。奴は上体を右に捻り片腕だけで槍を突き出している。なんだっ、槍の長さも俺が、さっきまで感じてたよりちょっと長ぇじゃねぇかよ。ポニ(群馬)だってこんな速いのは始めてだ。それに片腕だけで突くか? それでこの槍の速度って、クソッ、おめぇ内功を使えんだな! 


 これかよっ。まさかこんな正攻法が最後の一手だとは思いもしなかったぜ。やられたっ! 完全に奴の術中に嵌った! 奴の槍先の黒い穂先がキラキラと朝日を反射しながら迫って来やがる!




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